理事長・学長室から2026

No.56令和8年11月2日発行

はじめに

 10月15日に開催された厚生労働省の薬事審議会専門部会において、「ステミラック注」の脊髄損傷治療薬としての製造販売の本承認が了承されました。条件期限付き承認を受けた再生医療等製品で本承認まで到達したのは「ステミラック注」が第1号となり、結果的に世界初の脊髄再生医療が社会実装されたことになります。
 「ステミラック注」は、本望教授を中心とするグループの長年にわたる基礎的・臨床的研究成果を基に、本学とニプロ(株)が共同開発した骨髄間葉系幹細胞製剤です。今回の本承認は、本学の研究力を世界に示すものであり、まさに快挙であると言えます。
 今後はこの成果を国内外に広く発信していくとともに、本学さらには全国における「ステミラック注」による脊損治療体制のさらなる整備・拡充に努めていきたいと考えます。
 「理事長・学長室から2026」No.56をお届けいたします。

1.韓国高麗大学ならびにカトリック大学を訪問しました

 10月12日~16日、渡邉耕太国際交流部長(スポーツ医学講座教授)とともに、韓国ソウル市の高麗大学とカトリック大学を訪問しました。高麗大学は2019年より、カトリック大学は2011年より、本学と交流協定を締結しています。今回の訪問で、両大学と大変良い交流ができましたので、以下に報告します。 

1)高麗大学(Korea University)

 高麗大学は、2027年版QS世界大学ランキングで52位にランクされる韓国屈指の名門校です。今回、高麗大学医学部(KUM)のMdiscience Parkを訪問し、Eul-Sik Yoon学長、Sung-Bom Pyun医学部長らと面談しました(写真1)。これまでの交流のお礼を述べ、今後さらに学生や研究者のexchangeを継続していくことで合意しました。
 午後には、Global Research Nexus: International Joint Symposiumと銘打ったシンポジウムを企画していただきました(図1)。私が「Mesenchymal Stem Cell Therapy for Spinal Cord Injury」、渡邉教授が「Medical Support for Athletes and Sports Medicine Education in Japan」と題した講演を行いました。高麗大学側からは3名の先生に講演をしていただきました。講演後は活発なディスカッションを行いました。今後は、スポーツ医学研究等に関して両大学の連携を行うことや、札幌市において合同セミナーを開催することなどを提案していただきました(写真2-4)。
 このほか、研究施設、教育施設を案内していただきました。Mediscience Parkでは、サムスンなど大企業に支えられたワクチン研究、神経科学研究などの大規模な先進的研究が展開されていました。図書館などの教育施設は、医学部の学生さんがガイドをしてくれたのには感銘を受けました(写真5,6)。
 今回の訪問に際しては、今年7月に本学を訪問されたYoung-Mee Lee教授にセミナーのコーディネートをはじめ大変お世話になりました。Lee先生のホスピタリティには心から感謝いたします。来年には、本学泌尿器科学講座から教員の派遣を予定しています。今後も引き続き、学生、教員の交流を継続していきたいと思います。

2)韓国カトリック大学(Catholic University of Korea)

 2011年の交流協定締結以来、韓国カトリック大学から21名の学生を派遣していただき、本学からは18名の学生を受け入れていただいてきました。まずは、これまでの交流のお礼を、Chang Ki Min副学長ならびにDong Gun Lee医学部長にお伝えしました(写真7)。両先生からは、今後学生のみならず、大学院生や教員の相互訪問にも交流活動を拡大したい旨のお話しをいただきました。また、カトリック大学では以前より再生医療研究に力を入れており、その分野での本学とセミナーの開催など交流を行いたいとの申し出がありました。
 表敬訪問に続いて、国際交流担当のTae Min Kim教授とコディネーターのJi Yun Ahnさんに、医学部の教育施設ならびに附属病院であるSeoul St. Mary’s Hospitalを案内していただきました。St. Mary’s Hospitalは、1200床以上を擁する韓国最大規模の病院であり、血液疾患センター、がんセンター、国際医療センター、サージカルシュミレーションセンターなど様々な先端的医療が展開されていました(写真8,9)。
 今回、高麗大学、カトリック大学を訪問して感じたのは、両大学ともに、国際交流を担当する部門・組織がしっかりとしており、専任の教員・職員が配置されるなど、国外からのゲストにも迅速かつ適切に対応していたことです。一方、本学の国際交流に関する体制は不十分であると言わざるをえません。今後は、現在の国際交流部の体制を見直し、「世界に羽ばたく札医のつばさ」のスローガンにふさわしい体制構築に取り組むことが喫緊の課題だと考えます。

2.釧路市において、大地みらい移動医科大学が開催されました

 10月26日、釧路プリンスホテルにおいて、「大地みらい移動医科大学 ~地域医療のみらいに向けて~」が開催されました。今回は、平昌オリンピック スピードスケート女子団体パシュート金メダリストの佐藤綾乃さんをお招きし、「アスリートを支えるスポーツ医学」をテーマとしました(写真10)。
 まず渡邉耕太スポーツ医学講座教授により、「冬季スポーツの医学サポート ーミラノ・コルティナ五輪報告を含めてー」の講演があり、続いて佐藤さんにご登壇いただき、私を含めた3人による「佐藤綾乃さんと考えるクロストーク」を行いました(写真11‐13)。 
 佐藤さんは、地元厚岸町の出身ということもあり、会場には医療関係者、自治体関係者、高校スピードスケート選手、指導者、一般市民など多くの人々が詰めかけました。さすがに世界のトップクラスを争ってきた佐藤さんからは、「綾乃ワールド」とも言える、力強く、示唆に富むお話を伺うことができました。「周囲とコミュニケーションをとり、客観的に自分の身体の状態を知ることが大事」「『休む』ということを大事にする。大会直前でも必要なら『休む』」「十分な準備をしていれば緊張することはない。オリンピックも他の大会も同じ」等々、柔和な雰囲気の中にもメンタルの強さと安定感を感じました。今後は、ANAの社員を続けながら、各種スポーツイベントなどにも関与していきたいとのことです。
 講演会に先立ち、大地みらい信用金庫の創立110周年を記念して、伊藤哲也理事長より本学に対し寄付金を頂戴しました。本学からは感謝状を贈呈させていただきました(写真14)。大地みらい信用金庫様と本学は、2013年に包括連携協定を締結させていただいています。今後も本学としては、連携事業などを通して根釧地区の地域医療に貢献していく所存です。

3.医学部保護者懇談会を開催しました

 10月24日、札幌京王プラザホテルにおいて、医学部保護者懇談会を開催しました。保健医療学部では毎年保護者の方々との懇談の場を設けていますが、医学部においては実に数十年ぶりの開催となりました。今回の開催にあたっては、秦 史壯会長をはじめとする札幌医科大学後援会の全面的なご支援とご協力をいただきました。
 第一部の講演会では、学長、秦会長、医学部長の挨拶に続き、高田弘一副医学部長(腫瘍内科学分野教授)に「本学の医師養成カリキュラムと臨床研修」、渡邉耕太国際交流部長(スポーツ医学講座教授)に「札幌医科大学におけるスポーツ医学の取り組み」と題した講演をしていただきました(写真15-18)。
 第二部では会場を移し、立食形式での交流会を行いました。総計58名の父兄にご参加いただき、愛知、静岡、埼玉、東京、宮城など遠隔地からのご参加もありました。教員側は、各学年の担任はもとより、医学部、医療人育成センターの教員22名が参加し、各テーブルをまわり、父兄の方々と積極的に懇談していました。時間が進むにつれて、会場は和気あいあいとした雰囲気に包まれ、参加者の父兄からは、「大学の様々な取り組みが聞けて有意義だった」「普段会うことのできない先生方にお会いできて良かった」「同学年の父兄の方々と繋がりができた」などとの声をいただきました(写真19-21)。
 学生さんの学修・生活指導、さらには大学運営の上においても、保護者の皆様のご協力は不可欠ですし、コミュニケーションをとらせていただくことは非常に大事だと考えております。今後もこのような懇談会を継続していきたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。

4.第5回室蘭工業大学・札幌医科大学デジタル医工連携セミナーを開催しました

 10月23日、本学記念ホールにおいて、第5回目となる室蘭工業大学・札幌医科大学デジタル医工連携セミナーを開催しました(写真22)。ハイブリッド開催形式で、現地参加33名、オンライン参加38名の参加者がありました。
 第一部のシンポジウム「デジタル医工連携の実際と可能性」では、室蘭工大の徳楽清孝教授と本学の本望 修教授による座長のもと、シンポジストとして本学から太田久晶教授(作業療法学科)と島 宏彰教授(乳腺・内分必外科学分野)、室蘭工大からは橘 理恵准教授(しくみ解明系領域)と趙 越准教授(もの創造系領域)が講演しました(写真23)。最新の研究成果とともに、新たな研究シーズについての提示もあり、今後につながるシンポジウムでした。
 第二部の特別講演では、渡邉耕太教授の座長のもと、室工大しくみ解明系領域の近藤敏志教授に「AIが切り拓く次世代医工連携 ~画像AI技術の最新シーズ紹介~」とのテーマでご講演いただきました(写真24)。すでに先生のご指導により進行中の本学の研究を含む、多くの領域におけるAI関連の研究をご紹介いただきました。両大学の研究者にとって大変良いstimulationになったものと思います。
 室蘭工大の松田瑞史学長の閉会ご挨拶の中では、両大学が従来の医工連携の枠組みを超え、「情報」をキーワードに研究を連携・推進していることに大きな意義があるとご指摘いただきました(写真25)。来年、室蘭市において開催予定の第6回の本セミナーを大変楽しみにしております。 

5.本学の学生と看護職員が人命救助に貢献しました

 9月29日午後4時半頃、保健医療学部棟東側のベンチで意識消失の状態で倒れている男性を、保健医療学部看護学科1年の関口茉桜さんが発見、医学部5年の蓮野 天さんと、看護部中央滅菌検査部門看護師の山影友美さんが加わり、心肺蘇生措置(CPR)を行いました。約10分後に救急車が到着するまでCPRを続け、男性は中村記念病院に搬送されました。男性は一命を取り留め、後日、後遺症もなく自宅退院されました。その後、男性からは丁寧なお礼の手紙が届きました。手紙の中で、「言葉に言い尽くさないほどの感謝の気持ちでいっぱいです」、「あなたのような優しく勇敢で素晴らしい行動力を持った方が、医療の道を志してくれることが、一人の患者としてとても心強く誇らしく思います」と綴っておられます。
 10月30日には、理事長・学長室に報告に来られました(写真26)。この度の3人の機敏かつ適切な行動は、医療人そして医療人を志す者にとって、まさに範となるものだと言えます。今後も勉学にそして医療活動に、ますます精励されることを祈っております。

おわりに

 今やわれわれは、すっかりITやAIの恩恵に浴しているわけですが、ここに来て、サイバー攻撃などAIの負の側面もクローズアップされてきました。AIのメリットもデメリットも、瞬く間に拡大していくところが脅威です。この度のPHPの脆弱性に対しては、本学の情報部門がいち早く対応し、被害を未然に防ぐことができました。今後は、片寄副学長を中心として、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置し、全学的なガバナンス体制を構築していきたいと考えます。
 われわれ教職員や学生のひとり一人も、パスワード、アカウントの管理などサイバーセキュリティに対する意識を高めていきたいものです。