はじめに
今年の夏は、「エルニーニョ現象」と「正のインド洋ダイポールモード現象」のせいで猛暑になりそうですよ、と以前述べましたが、本当に8月下旬まで北海道とは思えない酷い暑さとなりました。では、今年の冬はと言うと、この2つの現象のおかげで「暖冬」で「雪は少な目」になるそうです!本当だとすると嬉しいですが、これも「地球温暖化」の一端かと思うと手放しでは喜べませんね。
「理事長・学長室から2023、第19号」をお届けいたします。
1. 札幌医大/HTB共催セミナー「北海道の医療の未来を考える」を開催しました
講演の後は、長野冬季オリンピック金メダリストの清水宏保さんを交えて、「北海道の医療をより良くするためには何が必要?」というテーマでトークセッションを行いました(写真3)。広大な面積を有する北海道では、ICTを用いた遠隔医療が重要であることや、地域の患者さんの利便性を高めるには、クラウドやスマート端末を用いた医療DXの導入が有効であることが指摘されました。また、清水さんからは、遠隔地や海外遠征時におけるスポーツ選手に対するオンラインによる診療や指導は非常に有用で、選手にとっても心強いサポートになることが強調されました。
本学としては、今後もiPhoneを用いたデータポータビリティーによる患者さんの健康管理システムや、遠隔システムを用いた臨床各科の診療、さらには遠隔理学療法システムによるスポーツ医科学など、医療DXの推進に力を入れていきたいと考えています。
共催していただいたHTBの寺内達郎代表取締役社長からは、今後も各種イベントなどを通して、本学とのより緊密な連携をとっていきたいとのお言葉をいただきました(写真4)。
2.第103回北海道医学大会総会で本学が当番校を務めました
10月7日、第103回北海道医学大会総会が札幌グランドホテルにて開催されました。本学は当番校として、渡辺 敦教授、鈴木 拓教授、大西浩文教授が幹事を、私が会頭を務め、現地とwebを併用したハイブリッド形式で開催しました(写真5)。
「各科トピックス」では、本学からは渡辺 敦教授が「新時代を迎えた肺癌外科治療 -とくに縮小手術と拡大手術-」と題した講演を行い(写真6)、高野賢一教授も座長として参加していただきました。「特別講演」は、わが国の再生医療の第一人者である澤 芳樹先生(大阪大学名誉教授、大阪警察病院院長)に「再生医療のNEXT Stage -Unmet needs」に対する再生医療の役割-」とのテーマでご講演いただきました(写真7)。すでに実用化されている心筋細胞シートに関するインパクトのあるお話は、同じく実用化されている本学のステミラックによる神経再生医療にとっても非常に有益なご講演でした。澤先生は2027年の第32回日本医学会総会の会頭を務められることが決まっています。日本の医学界をリードされている澤先生にご講演いただけたことは、われわれにとってきわめて意義深いことだと言えます。
総会は、対面、webあわせて188名の方々のご参加をいただき、盛会に終えることができました。ご参加いただいた皆様、会の運営にご尽力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
3.令和5年度研究機器整備事業の助成対象が決定しました
本助成事業は、令和3年よりステミラック等の実施許諾料などを原資として、若手研究者の支援を主たる目的として創設されました。複数の講座・部門において共通的に使用できるものを優先するという規準に基づき選考した結果、本年度は、教育研究機器センター、細胞バンク部門から申請のあった「高精細3Dプリンタ」(写真8、9)、ならびに教育研究機器センター、ラジオアイソトープ部門から申請のあった「動物用MRI専用イメージングコイル」を選定しました。
ぜひ多方面の研究に有効に利用していただき、本学から世界に向けて先進的研究成果が発信されることを期待しています。
4.日本ラグビーフットボール協会主催「ラグビー競技における脊髄損傷への再生医療適応プロジェクト」研究報告会に参加しました
2021年より同協会から、本学の脊髄再生に対して研究助成をいただいており、今回、廣田助教がステミラック投与により機能回復したスポーツに起因した脊髄損傷症例の提示を含め、脊髄再生医療の進捗状況を報告しました。本報告会には、ラグビー協会のメディカル委員、都道府県協会メディカル委員等が参加されており、熱心に聴講されていました。今後、スポーツによる脊髄損傷に対するステミラック治療の有効性に対する認識が一層深まり、スポーツの現場と医療機関の連携体制が構築されることが期待されます。
おわりに
10月19~20日、つくば市で開催された第38回日本整形外科学会基礎学術集会において、ソウル五輪女子柔道銅メダリストの山口 香先生(筑波大学教授)の文化講演の座長を務めさせていただきました(写真12)。山口先生は、これまでJOC理事などの立場から、日本のスポーツ界に対して、体制に迎合することなく鋭い意見を発信してこられました。この度の講演では、わが国のトップアスリートの育成・強化には、「アントラージュ(フランス語で取り巻き、環境という意味)」と呼ばれる、多様な職種からなるサポートが重要であることを強調されていました。本学でも、医学部、保健医療学部が連携して、実力ある医・科学分野の「アントラージュ」を輩出していきたいと思っています。