筋ジストロフィー症に対するレスベラトロールを使った自主臨床研究開始のお知らせ

 この度、札幌医科大学附属病院において、筋ジストロフィー症の患者さんに対してレスベラトロールを用いた探索的治療研究を実施することになりましたのでお知らせいたします。
 本学では10年以上にわたりサーチュイン(長寿遺伝子産物)に関する研究を精力的に進めてきました。その研究の中から、サーチュインの1つSIRT1が筋ジストロフィー症の進行を抑制する機能をもち、SIRT1を活性化するレスベラトロールが動物モデルの筋ジストロフィー症に有効であることを2011年に世界で初めて報告しました。
 この成果やその後の研究から得られた知見を元に、今回、初めて筋ジストロフィー症の患者さんにレスベラトロールを投与して、その安全性と有効性を検討する治療研究を開始いたしました。

対象者:12歳以上のドゥシャンヌ型、ベッカー型、福山型の筋ジストロフィー症の患者さん。
予定症例数:10名
実施場所:札幌医科大学附属病院
実施期間:平成26年7月1日から予定症例数に達するまで実施
研究実施: 札幌医科大学筋ジストロフィー治療研究グループ
                  医学部小児科学講座 責任者:堤裕幸(つつみひろゆき)教授
                  医学部神経内科学講座 責任者:下濱俊(しもはましゅん)教授
                  保健医療学部理学療法学第一講座 責任者:小塚直樹(こづかなおき)教授
                  医学部薬理学講座 責任者:堀尾嘉幸(ほりおよしゆき)教授
                  臨床研究実施担当責任者:医学部小児科学講座 川村健太郎(かわむらけんたろう)診療医

 

[研究の背景]
  • これまでの研究により、長寿遺伝子産物SIRT1が細胞の酸化ストレス抵抗性を高めて、細胞死を抑え (Tanno et al. J Biol Chem. 282, 6823-6832, 2007)、レスベラトロールの投与はSIRT1活性化を介して細胞内酸化ストレスを低下させ、細胞死を抑制しました。レスベラトロールは心筋細胞では細胞内のSOD2(MnSOD/スーパーオキシドディスムターゼ)量を増加させて酸化ストレス量を低下させることを明らかとしました(Tanno et al. J Biol Chem. 285, 8375-8382, 2010)。
  • 心不全は細胞内酸化ストレスの増加により病気が進行します。心不全を自然発症するTO-2ハムスターにレスベラトロールを経口投与すると、心筋のSOD2が増加して心不全の発症が遅くなり、寿命が有意に延長しました(Tanno et al. J Biol Chem. 285, 8375-8382, 2010)。
  • 筋ジストロフィー症では骨格筋の酸化ストレス量が増加します。ドゥシャンヌ型筋ジストロフィー症のモデルマウス(mdxマウス)にレスベラトロールを投与すると、筋の酸化ストレス量が低下し、骨格筋量は増加し、特に遅筋の増加が見られ、骨格筋や心筋の繊維化の抑制や心筋肥大の抑制、血清クレアチンキナーゼの低下、筋力や筋の持久力の増加(Hori et al. J Pharmacol Exp Ther. 338, 784-794, 2011; Kuno et al. J Biol Chem. 288, 5963-5972, 2013; Sebori ら未発表)が観察されました。
  • レスベラトロールは健康食品として市販されており、経口投与での安全性は高いものと考えられますが、本研究ではレスベラトロールの安全性を調べるとともに、ドゥシャンヌ型、ベッカー型、福山型の筋ジストロフィー症への有効性と至適な投与量について検討します。

[本臨床研究に関するお問い合わせ先]
mail address :kinjis@sapmed.ac.jp
担当:中山
[備 考]
札幌医科大学附属病院に受診されていない患者さんは,ご担当の主治医からお問い合わせ下さい。