筋機能制御学(前期・後期)

教育研究領域紹介

当研究室では、種々の疾患・傷害や老化に伴う筋機能低下の分子メカニズムを解明するとともに、それらの研究成果を基盤とし、科学的根拠に基づいた効果的な運動や物理療法プログラムの具現化・開発を目指しています。
筋機能制御学の模式図

教員紹介

研究テーマ

1 老化や種々の疾患に伴う”筋弱化”のメカニズム

筋の力は,通常その太さ(横断面積)に比例します.したがって末梢の筋レベルでは,筋力の低下は,筋横断面積の減少に起因すると考えられます.しかしながら,高齢者や,心不全,癌,関節リウマチなどの患者さんでは,筋が萎縮するとともに,筋横断面積当たりの張力が著しく低下することが分かってきました.この場合,筋力の低下は,筋の量的な減少だけではなく,何らかの質的な変化を原因として生じているものと考えられます.

国際的に,Muscle weakness(筋弱化)と称される筋の質的な低下が,どのようなメカニズムで生じるかは十分明らかにされていませんが,近年,酸化ストレスによるタンパク質の修飾が,その要因として注目を集めています.つまり,機械が錆び付き動きが悪くなるように,筋も酸化してその機能が低下するというのです.これまでに我々は,主に関節リウマチの患者さんや実験動物モデルにおいて,酸化ストレスが筋力低下に関与することを明らかにしてきました.一方,生体には,酸化ストレスなどに対抗するストレスタンパク質や抗酸化酵素が存在し,これらは運動や温熱などにより増強することができます.したがって今後,これらの研究成果が,種々の疾患や老化に伴う筋機能低下の予防や治療に貢献することが期待されます.
実験の様子の写真と研究結果の画像

2 筋力増強のための電気刺激を利用した効果的な補助療法の開発

どのような運動を,どのくらいの強さで,どの程度の時間,週に何回やれば元気になれるのか? 適時適切に運動を処方できるかどうかが理学療法士の腕の見せ所です.
図1
 図1は,運動処方の自由度を示したグラフです.これ以上の運動には危険が伴うという運動強度や運動量の上限を安全限界,これ以下では運動による効果が見込めないという下限を有効限界といいます,したがって,安全限界と有効限界の間が処方すべき運動領域となります.なお,安全限界が有効限界を下回ると,運動処方の対象から外れます(図A点より左側).

臨床現場で理学療法士に与えられる時間は通常20分です.たったの20分で果たして有効限界を超えることができるのでしょうか? また,様々な理由で,全身運動を十分に実施できない患者さんも多く存在します.そこで,我々は,有効限界を超える負荷を加えるための補助療法として,マンパワーを必要としない,神経—筋電気刺激(NMES)に着目しました.現在,その効果を規定すると言われている因子(負荷強度,負荷時間およびそれらの積である力積)と,筋肥大効果との関係やその分子メカニズムについて検討を進めています(図2)
図2