當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第4回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」第4回 スッキリ目覚めてますか(7月31日毎日新聞掲載)

真健康論:第4回 スッキリ目覚めてますか=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)

 「今日は徹夜だ!」とか「寝ずの番」など、寝ないことが頑張りの程度を強調する言葉があります。逆に言うと、私たちは毎日、寝るのが当たり前だということです。

 眠らないと、どういう問題が生じるのでしょう。何日間も眠るのをこらえてみた実験の結果が残っています。集中力欠如、イライラ、倦怠感(けんたいかん)といった症状が出てきます。これらは一種の精神症状で、脳の働きがちゃんとしていないことを示しています。それに伴い頭痛、めまいなどの身体症状が表れますが、これは脳が不安定になっている影響と考えられます。ここまでくると大抵の人はたまらず眠ってしまうのですが、さらに我慢を続けると、幻聴や幻覚が出てきます。まさしく脳の働きの異常です。記録では11日間不眠を続けた人がいますが、最後は瞬間的に意識を失う「フラッシュスリープ」が出て苦しんだそうです。

 ただし全般的にみると、体の不調を示す症状は多くありません。つまり、人の睡眠が体の休息というより、脳の休息のためにあることを示しています。確かに、体の疲れをとるだけなら、リラックスして座っていたり、体を横にしているだけでかなり効果があります。

 しかし、眠くなったら、すなわち“脳が疲れてしまったら”眠らない限り気分がスッキリすることはありません。快眠、熟睡は健康に生活するための基本なのです。

 どのぐらい眠るのが適当でしょうか。20歳代の平均睡眠時間は平日で6・5時間ですが、休日には8時間になるので、現代人は十分眠ったとは感じていないようです。ただ、年をとるにつれ睡眠時間は短くなります。平日は仕事のためにほとんど変わりませんが、50歳代の休日の睡眠時間は7・2時間程度になります。年をとると早起きになるのはごく当たり前のことなのです。

 さらに米国での睡眠習慣の調査では、毎日8時間睡眠の人の死亡率が7時間睡眠の人より高いことが示されて世界に衝撃を与えました。加えて、この調査は4時間睡眠の人と8時間睡眠の人の死亡率が同じであることも示しています。

 とすれば、睡眠は時間より質が大事といえます。難しくはありません。毎朝、スッキリ目が覚めるかどうかということです。いかがでしょうか。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)

毎日新聞 2011年7月31日 東京朝刊(毎日新聞社許諾)

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