札医大の研究室から(53) 塚本泰司学長に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)
1950年に開学し、これまで多くの医療人を輩出してきた札幌医科大学。2020年1月に道内で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されて以来、感染者の受け入れやPCR検査の実施、入院調整システムの整備など道内の地域医療に大きな役割を果たしてきた。3月末で任期満了を迎え退任する塚本泰司学長に、在任中の成果や今後の大学に求められることを聞いた。(聞き手・安藤有紀)
塚本泰司(つかもと・たいじ)
1949年旭川市生まれ。73年札幌医科大学医学部卒業。86年同大医学部泌尿器科学講座助教授、95年同教授。同大附属病院医療材料部部長、手術部部長、副院長などを歴任し、2008年同病院長。13年同大名誉教授、16年から現職。
札医大の研究室から(53)塚本泰司学長に聞く 2022/02/14
安藤:在任期間を振り返って。
塚本:COVID-19(新型コロナウイルス感染症)への対応、大学校舎の新築・改築工事が終了し大学の施設としての形が整ったこと、この2点が特に大きく印象に残っている。胆振東部地震に伴うブラックアウトもあり、危機に対する対応が非常に重要だと感じた。
安藤:新型コロナへの取り組みの評価は。
塚本:建学の精神に「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」がある。大学・病院ともにこの精神にふさわしい働きを行うことができたのではないか。地方の病院への医師派遣にとどまらず、これまで大学・病院が培ってきた結果を地域に還元することができた。
背景には大学・附属病院の底力がある。底力とは、一人ひとりが使命感を持って行動したこと、病院長はじめ上層部がリーダーシップを発揮しぶれずに進んだこと、検査体制を早くから構築できたことによるもの。DMAT(災害派遣医療チーム)を含め救急部が持っていた広域災害に対するノウハウを初動時に生かすことができたのも大きい。
安藤:20年に開学70周年を迎えた。
塚本:開学以来発展を続け、道内各地の病院に医師を派遣するなど道内の地域医療にも貢献してきた。研究の成果も出ており、特に神経再生医療の分野では国内で初めて脊髄損傷の患者へ治療として実用化できるところまで持っていくことができた。いい研究を生むためには裾野の広い研究が必要。大学としてそれらの研究を支える環境を今後も整えていかなければならない。
100周年に向けて重要なのは教育。医学部・保健医療学部の2学部の大学としてどう生き抜いていくのか、危機感を持って大学の運営や進み方を考えていく必要がある。
安藤:病院の建て替え工事も進む。
塚本:大学附属病院は研究で得られた成果を臨床に応用する場でもあり、病院が新しくなることはとても心強い。基礎的な研究をできるだけ早く病院で応用できるよう進めていきたい。患者が一番良い状態で入院できる病院であることも重要。外来も充実し手術室も増えたので、この環境を生かしていく。
安藤:十勝の住民に一言。
塚本:十勝は非常に住みやすく、いろいろな面で地域内完結できる。一方、広域であるが故に医療の連携に難しさがある。医療の質の向上には地域内の病院の連携が今以上に必要になるだろう。新型コロナのようなパンデミック(世界的大流行)では平時とはレベルの異なる機能分担が求められる。広域なエリアで急性期の機能を持った病院も限られる中、大規模な災害などにどう対応するのか、大学として可能な支援を行政も含め地域全体で考えていく必要がある。