札医大の研究室から(52) 金関貴幸講師に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)
札幌医科大学医学部病理学第一講座(鳥越俊彦教授)は9月28日、大腸がんの解析研究において免疫細胞ががん細胞を攻撃するための新たな目印(抗原)を発見したと発表した。今後のがん治療を大きく変える可能性が期待でき、世界の注目を集めている。研究を行った金関貴幸講師に話を聞いた。(聞き手・安藤有紀)
札医大の研究室から(52) 金関貴幸講師に聞く 2021/11/22
安藤:研究の概要は。
金関:免疫にもいろいろあるが、その中のTリンパ球をメインに研究している。Tリンパ球は、体内に侵入したウイルスや体の変化を正確に見つけてその変化を感知する、あるいは感染細胞を攻撃して消滅させる働きをしている。
がんにおいても、Tリンパ球ががん細胞をほかの細胞と区別し、がん細胞のみを攻撃する現象は以前から知られている。しかし、がんの場合はTリンパ球が何を目印にしているのかわかっていなかった。その目印を見つけたのが今回の発見。
がんにおいても、Tリンパ球ががん細胞をほかの細胞と区別し、がん細胞のみを攻撃する現象は以前から知られている。しかし、がんの場合はTリンパ球が何を目印にしているのかわかっていなかった。その目印を見つけたのが今回の発見。
安藤:発見のポイントは。
金関:ヒトの細胞は、細胞の中で作られているタンパク質の破片を常に細胞の表面上に出していて、その細胞が通常の健全な状態なのか、異常が起こっているのか判明できるようにしている。リンパ球ががん細胞を攻撃する際には、そのタンパク質の破片を目印にしていると考えられてきた。
今回、大腸がんの細胞を解析したところ、従来タンパク質を作らないとされていた遺伝子でも一部分はアミノ酸への翻訳が起き、その破片が細胞表面上に出ていることがわかった。この破片は、Tリンパ球ががんと正常な細胞とを区別するための目印になっていることも突き止めた。
安藤:タンパク質を作らない遺伝子とは。
金関:ヒトのゲノムの中で、実はタンパク質を作る遺伝子の数は意外と少なく、タンパク質を作らない遺伝子も多く存在していることが知られている。しかし、そのようなタンパク質を作らない遺伝子の存在理由や役目は解明されておらず、これまで研究対象にさえなっていなかった。今まで着目されていなかった遺伝子に光を当てたこと、これが今回の研究結果を導いたカギと言える。
安藤:今後の可能性は。
金関:新型コロナウイルスで脚光を浴びた米国ファイザー社のmRNAワクチンは、じつは「がん」ワクチンとして開発中であったプラットフォームをウイルスに応用したものである。ウイルスは標的が明らかになっていることから一足先にワクチン開発が早く進んだが、がんは目印が不明のためワクチン開発が難しく、世界中の研究者が試行錯誤を繰り返している。
今回発見した新しい目印をもとに、私たちは1日も早いがん予防ワクチンとがん治療薬の開発を目指している。大腸がんに限らず、他の多くのがんでも期待できる
安藤:十勝住民へ一言。
金関:十勝は自然が豊かで、まさに北海道らしい風景という印象。お菓子をはじめ食べ物もおいしい。大樹町のロケットなど北海道の地の利を生かした試みが積極的に行われており、新しいことにチャレンジする姿勢も素晴らしい。私たちの研究とも通じるものがあると感じている。