【研究成果】自治体向けの認知症発症/進行のリスク早期発見の手引きを公開 ~ 日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究 (J-DEPP研究)の成果をもとに作成 ~

 本学保健医療学部 理学療法学科 井平 光 准教授と、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、東北大学、鳥取大学、鹿児島大学、秋田大学、神戸大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、東京都健康長寿医療センターとの共同研究

今回のプレスリリースのポイント

  •  東北大学、鳥取大学、鹿児島大学、秋田大学、神戸大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、札幌医科大学、東京都健康長寿医療センターと共同で、日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究「Japan Dementia Early Phase Project(J-DEPP)」を行いました。
  • J-DEPP研究の調査により、認知症リスクスクリーニング後に受診を推奨された方のうち、実際に医療機関で精査を受けた割合は7.3%でした。
  • 認知症発症/進行リスクの早期発見により、抗アミロイド抗体薬を含む治療や認知リハビリテーション、介護サービスの導入など診断後支援につながったケースが認められました。
  • J-DEPP研究の成果をもとに、自治体向けの認知症発症/進行のリスク早期発見の手引きを作成・公開しました。

研究の背景と概要

  国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井 秀典、以下 国立長寿医療研究センター) を中心とする研究チームは、2024年1月より、本人やご家族の視点を重視した“日本独自の認知症早期発見・早期介入モデル”の構築を目的とし、全国40市町村と連携し、大規模な実証研究を行いました (図1)。
図1.大規模実証の全体像
図1.大規模実証の全体像

研究成果の概要

図2.追跡調査の結果
 認知症スクリーニングから診断後支援までのモデル構築
本研究では、まず各自治体において、認知機能を評価するスクリーニング検査の方法や、参加者の集め方 (リクルート方法)、そして検査後に必要な方へ医療機関の受診を促す方法 (受診推奨)を検討し実施しました。
全国 (北海道、秋田、東京・神奈川、愛知、大阪、兵庫、鳥取・島根、鹿児島)、40市町村で、合計13,871名の高齢者がスクリーニング検査に参加しました。使用されたスクリーニング検査ツールは、対面式の検査からタブレットやパソコンを使って自宅で行えるものまで、多様な方法が実践されました。
参加者の募集方法(リクルート方法)については、不特定多数の住民を対象としたポスター掲示や新聞折り込みといった方法では受検率が0.003〜2.4%※1でした。一方で、ダイレクトメール(DM)では4.7〜15.7%、事業の場でスタッフが直接声をかけた場合は15.1〜92.6%と、個別性の高いアプローチが有効であることが示されました。
スクリーニング検査の実施方法は、地域の会場に集まって受検する「会場型」と、自宅などで行う「非会場型」に分類されました。非会場型では、機器の操作が難しい等の理由で、途中でやめてしまう方がいるといった課題がありました。一方、会場型はスタッフによる支援が可能ですが、人手や会場の確保など運営面での負担が大きいことがわかりました。
受診推奨を行う際には、必要以上に不安を与えないよう配慮し、かかりつけ医や専門医療機関のほか、厚生労働省のホームページの認知症に関する相談先も紹介しました。
検査を受けた方が、その後実際に医療機関を受診したかどうかを確認するため、郵送での追跡調査も実施しました。特に北海道・秋田・愛知県内の参加市町村の一部では、国立長寿医療研究センターが共通の調査票を用いて、統一された方法で調査を行いました。
2024年6月から10月に検査を受けた方のうち、調査に同意いただいた5,055名に郵送調査を実施し、2,567名から有効な回答が得られました。このうち、受診を勧められた方は1,083名で、実際に精密検査を受けたのは79名(受診率7.3%)でした (図2)。また、研究スタッフや保健師が電話や訪問、面談などで丁寧に受診を勧めた地域では、受診率が11.6~12.5%と比較的高く、「人を介した支援」の効果が示されました。
一方、受診を勧められながらも検査を受けなかった方(1,004名)に理由をたずねたところ、最も多かったのは「健康状態に自信があり、自分には必要ないと感じたから」(42.2%)という回答でした (表1)。このことから、認知機能の低下を指摘されてもそれを自分ごととしてとらえていないことが、受診行動を妨げている可能性が示されました。また、自由記述では、「検査結果を見ていない」「受診を勧められた記憶がない」といった声もあり、今後は、検査結果の画面表示や郵送など本人の自覚や意思だけに頼るのではなく、医師会、地域のかかりつけ医と連携し、顔の見える関係を築いて丁寧に周知、支援を行うことが重要です。また、新聞・テレビなどのマスメディアを活用して、本人のみならず、家族や地域住民全体を巻き込んだ啓発活動を行うなど、必要な人を確実に医療や支援へつなげられるような仕組みづくりが求められます。
表1. 受診推奨されたが精密検査を受診しなかった理由 (複数回答)
 認知症発症/進行のリスク早期発見に向けた血液バイオマーカーの有用性の検証
認知症発症/進行のリスク早期発見の手段の一つとして、血液検査で脳の変化をとらえる「血液バイオマーカー」に注目が集まっています。J-DEPP研究では、この血液バイオマーカーの検査結果を医療現場で活用しやすくするため、「診断レポートシステム」を開発しました。このシステムは、医師が検査結果をわかりやすく把握し、診断や支援の判断に活かすことを目的としたものです。
まず、先行研究に基づき、認知症と深く関係する4種類の血液バイオマーカー※2(Aβ42/40※3、pTau217※4、GFAP※5、NfL※6)を用いて、将来的に認知機能の低下を予測できるか否かを検討しました。実際に、国立長寿医療研究センターのもの忘れ外来に通院するMCIの方の血液バイオマーカーを測定し、一定期間の認知機能の変化を分析したところ、これらのバイオマーカーを使うことで、将来認知症になる可能性が高い人を早期に見つけられることが確認されました。この結果をもとに、検査結果を医師にわかりやすく伝えるレポート様式を作成しました。このレポート様式には血液検査の数値だけでなく、MRI画像や認知機能検査の結果も含められていて、対象者の状態が総合的に判断できるよう工夫されています。
また、J-DEPP研究に参加した愛知県の地域では、スクリーニング検査の結果から認知機能の低下が疑われた方に、国立長寿医療研究センターの「J-DEPP特別外来」への受診を推奨しました。この外来では、通常の診察に加え、血液バイオマーカーの測定を行い、認知症の早期診断と介入につなげる仕組みの実効性を検証しました。血液検査の結果に基づき、必要と判断された場合には、アルツハイマー病の治療薬(抗アミロイドβ抗体薬 )の導入、生活支援、リハビリテーションの提案など、個々に応じた対応が行われました。実際に、血液検査によって認知症のごく初期段階で病気が見つかり、抗アミロイドβ抗体薬による治療に結びついたケースもありました。また、アルツハイマー型認知症と診断され、内服治療および認知リハビリテーションや介護サービスの導入などの診断後支援につながったケースもありました。
今回の検討では、血液バイオマーカーを用いた地域でのスクリーニングから専門的な診断・支援につなげる「橋渡し」の仕組みが効果的に機能する可能性が示されました。なお、「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用ガイドライン第3版」では「実臨床での血液バイオマーカーの活用は、認知機能低下を示す症候者に対して行い、無症候者に対して血液バイオマーカーを測定すべきでない。」とされており、適正な臨床使用が必要です。

認知症発症/進行のリスク早期発見の手引きを作成

図3.認知症発症/進行のリスク早期発見の手引き
 J-DEPP研究では、これまでの研究成果をもとに、自治体が地域で認知症発症/進行の早期発見に取り組むための実践的な「手引き(ガイド)」を作成しました (図3)。この手引きは、地域において認知症発症/進行のリスク早期発見・早期介入・診断後支援を実践する際の参考となるよう、体制準備、市民啓発、住民への周知・リクルートの仕方、認知症スクリーニング検査の実施、検査後の受診推奨、認知症カフェやピアサポート、本人ミーティングなどの支援へのつなげ方などを具体的にまとめたもので、実際に全国各地で行われた事例や工夫が掲載されています。

手引きの作成にあたっては、まず全国の自治体を対象に調査を行い、認知症リスクの早期発見に関する取り組みの現状を把握しました。その結果、約4割の自治体がすでに何らかの形で事業を実施していることがわかりました。一方で、実施にあたっての課題としては、「人手が足りない」「予算が確保できない」といった声が多いことも明らかになりました。
さらに、神戸市、松戸市、文京区といった先進的な取り組みを行っている自治体へのヒアリングも実施し、成功のポイントや運営上の工夫を手引きに反映させました。

この手引きは、どなたでも閲覧いただけるようにWeb上で公開しています。以下のURLからご覧いただけます:
https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/camd/j-depp/

本研究は令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(認知症政策研究事業)の支援のもと実施されています。また、データ収集にご協力いただきました研究参加者の皆様、協力自治体の皆様に心より感謝申し上げます。

用語解説

  1. スクリーニング検査の受検率については、ポスター型は(受験者数/ポスター掲示地区の65歳以上人口)、新聞折り込み型は(受験者数/新聞折込対象地区の65歳以上人口に購読者割合を乗じて推計した数) により算出しました。
  2. バイオマーカー: 病気の有無や進行の状態を客観的に示す指標のことで、体液(血液、脳脊髄液、尿等)の検査や、画像検査等で得られるデータをバイオマーカーといいます。
  3. Aβ42/40:脳にたまる異常なタンパク質「アミロイドベータ」のうち、長さの違う2種類(42と40)の比率を表します。血液中のこの比が低いと、アルツハイマー病のリスクが高いことが示唆されます。
  4. pTau217(リン酸化タウ217):タウというタンパク質の一部が異常に変化(リン酸化)したものです。アルツハイマー病の初期から血液中で高くなることがわかっています。
  5. GFAP(グリア線維酸性タンパク質):脳のグリア細胞の活動や傷つき具合を示すタンパク質です。脳の炎症や神経の変化があると増えるとされています。
  6. NfL(神経フィラメント軽鎖):神経細胞の構造を支えるタンパク質の一部で、神経細胞が傷ついたときに血液中に増えます。認知症だけでなく、さまざまな神経の病気で上昇します。 
 詳細は、下記のプレスリリース資料をご覧ください。

発行日:

情報発信元
  • 保健医療学部 理学療法学科