【研究成果】膀胱がん患者尿中に含まれるがん細胞由来DNA検出による早期再発診断

膀胱がん患者尿中に含まれるがん細胞由来DNA検出による早期再発診断

【研究成果】

<研究の概要>

岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門の阿部正和大学院生と西塚哲特任教授、岩手医科大学泌尿器科学講座の小原航教授、岩手県立中央病院の小野貞英病理診断科科長と藤澤宏光泌尿器科科長、札幌医科大学医学部附属がん研究所ゲノム医科学部門の時野隆至教授と井戸川雅史准教授、およびGeninus社(韓国)のWoong-Yang Park博士らの研究グループは、膀胱がん患者尿中に存在するがん細胞由来のDNAを高感度核酸定量技術であるデジタルPCR(dPCR)を用いた独自の技術(特許出願中)モニタリングすることで、膀胱がんの早期の再発予測や治療効果の評価が可能であることを明らかにしました。

【研究成果のポイント】
• 膀胱がん再発診断に有用なバイオマーカー(診断の指標)を開発するため、本研究では膀胱がん患者尿中のがん細胞由来DNAを追跡し、膀胱がんの再発診断バイオマーカーとなりうるか検証しました。
• 本研究は、膀胱がん患者尿中がん細胞由来DNA検査が術後再発を高感度に検出可能であることを示した世界初めての研究です。
• 採尿で膀胱がん再発を予測することで、現在行われている膀胱鏡など負担の大きい検査を減らすことができる可能性があります。

【背景】
従来の膀胱がんの再発診断に用いられる膀胱鏡検査は患者の負担が大きく、尿細胞診検査は感度が低い事が指摘されています。また、膀胱がんの再発診断や治療効果判定に有用な血液や尿中バイオマーカーに乏しく、患者負担が少なくかつ高感度なバイオマーカーの開発が求められています。近年、膀胱がん患者の尿中に含まれるDNAを調べるとがん細胞由来の遺伝子変異が検出されることが知られ、診断バイオマーカーとして期待されていました。一方、膀胱がん患者尿中DNAの遺伝子変異を治療経過に合わせて繰り返しモニタリングし、”再発診断バイオマーカー”としての妥当性を検証した報告はまだありませんでした。
 本研究は、膀胱がん患者治療前後の尿沈渣(尿中の細胞などを遠心分離して集めたもの、以下尿中)から抽出したDNA中の遺伝子変異を、高感度核酸定量技術であるデジタルPCR(dPCR)を用いてモニタリングし、その早期再発診断バイオマーカーとしての妥当性を検討しました。尿中には正常細胞も大量に含まれるため、膀胱がん細胞由来の遺伝子変異の割合は極めて少なくなっています。岩手医科大学では、このような尿中での低頻度遺伝子変異を測定する技術を開発してきたことで(特許出願中)、今回の研究の立案に至りました。膀胱がん患者では尿中と同様に血液中でもがん細胞由来DNAが検出されることがあります。今回、尿中の遺伝子変異とともに血中でも膀胱がん細胞由来DNAを測定しました。

【方法】
本研究は膀胱がんに対して、過去に手術を行なった症例15例と、新規に治療を行った17例の計32例を対象としました。転移のない膀胱がんに対して初期治療として行われる経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で得られたがん組織からDNAを抽出しました。このがん組織DNAに対して、パネルシークエンス解析とTERTプロモーター領域に対する変異解析を行い、症例毎に検出された遺伝子変異を尿中および血中のバイオマーカーとして用いました。各種治療前後やその後の定期診察に合わせて採血・採尿を行い、尿中および血中DNAに含まれる遺伝子変異の変異アリル頻度(VAF)をdPCR解析で登録後2年間モニタリングしました(図1参照)。dPCR解析のためのプライマープローブセットは主に岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門で開発したライブラリーから選択しました。最終的に、既存の検査法(膀胱鏡、尿細胞診、CT)と比較して尿中および血中VAFのモニタリングが、”再発を早期に検出できるか”、”治療効果を評価できるか”について検証しました。

【結果】
がん組織DNAの遺伝子変異解析により32例中30例(93.8%)でモニタリング可能な遺伝子変異を検出しました。1例あたりのモニタリングした変異数は平均2.3個(1-4)で、約90%の症例は岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門で開発したプローブライブラリーを用いて解析可能でした。
観察期間中に再発を生じた7例のうち5例では、既存の検査における再発診断よりも7ヶ月以上先行して尿中DNAで変異をVAF1%以上で検出しました。残りの再発した7例中2例では尿中遺伝子変異のVAFは1%より低く微量で推移しましたが、これらの症例の尿は炎症により混濁しており、尿に含まれる白血球由来の正常DNAによりがん細胞由来のDNAが希釈されていたことが原因と考えられました。また、再発を生じなかった残りの23例はいずれも尿中DNAのVAFは1%以下とごく低値で推移しました。
観察期間中にTURBTを施行した19例のうち、術後再発を生じた4例中2例は治療後の尿中DNAのVAFは1%以上で持続的に検出・上昇傾向を示したのに対し(図2A)、残りの2例はVAFが1%以下でしたが、この2例は炎症で尿が混濁していた症例でした。このことから尿が混濁している場合は尿中DNAの遺伝子変異検出には注意が必要と思われました。一方、TURBT術後無再発で経過した15例のVAFは全例1%以下で推移していました。(図2B)
また、観察期間中にBCG療法を施行した13例のうち、BCG療法後に再発した3例はいずれも尿中VAFは1%以上で持続的に検出・上昇したのに対し(図2C)、BCG後無再発で経過した10例はいずれも尿中VAFは1%以下で推移しました。(図2D)。
本研究で対象とした膀胱がん患者において、”再発を早期に検出できるか”、”治療効果を評価できるか”についての評価において、尿中DNAは有用なバイオマーカーとして期待されることがわかりました。一方、今後さらなる検証が必要ですが、血中DNAはより進行した患者を対象としたバイオマーカーとして優れていることが想定されました。

【結論】
尿中DNAの遺伝子変異モニタリングにより、既存の検査(膀胱鏡や尿細胞診)よりも早期に再発を検出かつ治療効果を評価可能であることが示されました。このことから、尿中DNAは膀胱がんのバイオマーカーとして妥当であることが示唆されました。

【今後の展望】
• 尿中DNAモニタリング検査は、再発がないことを確認できるので、負担の大きい検査である膀胱鏡検査の回数を減少させることができる可能性があります。
• 治療効果を評価することで再発を予測できる可能性があり、初回治療後の追加治療の適応判断に役立つ可能性があります。
• がんに対する血液を用いたDNAモニタリングは現在岩手医科大学で「OTS-アッセイ」として自由診療を開始しておりますが、今後は尿中DNAを用いて同アッセイを行えるよう研究開発を継続します。

【研究資金】
本研究は文部科学省科学研究費助成事業、圭陵会研究助成、いわて戦略的研究開発推進事業ほかの支援を受けて行われました。
 

<用語解説>

1. デジタルPCR(dPCR):デジタルPCRはサンプル中に含まれる個々の分子の数をカウントして定量を行う技術で、従来のPCR法に比べ正常サンプル中に0.01%程度などのわずかに含まれる希少な分子を同定・定量することが可能な手法。
2. バイオマーカー:血液や尿などの体液や組織に含まれる、たんぱく質や遺伝子などの生体内の物質で、病態の指標となるもの。
3. 膀胱鏡検査:膀胱癌の診断や術後の定期検査として行われる検査。尿道から7mm程度の細いカメラを挿入し、水を入れて膀胱を膨らませながら膀胱内の腫瘍の有無を観察する検査。
4. 尿細胞診検査:尿の中に含まれる細胞を抽出・顕微鏡で観察し、がん細胞が含まれないか調べる検査。
5. 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT):転移のない局所の膀胱がんに対して行われる標準的な手術方法。膀胱内に7mm径のカメラを挿入し、膀胱内にある腫瘍組織を電気メスで切除、除去する治療。
6. パネルシークエンス:DNAの塩基配列の中で、特定の遺伝子領域をシークエンスする方法。がんパネルを用いると、がんに関連する遺伝子変異を見つけられる可能性がある。
7. TERTプロモーター:テロメアという遺伝子末端領域の伸長に関わる遺伝子配列。膀胱がんでは約70%の症例でTERTプロモーター領域に遺伝子変異を生じることが知られている。
8. 変異アリル頻度(VAF):同じ位置にある遺伝子に複数の種類がある場合、その個々の遺伝子をアリルと呼び、遺伝子変異をもつアリルを変異アリルと呼ぶ。組織全体の中での変異アリルの頻度を変異アリル頻度 VAF)と呼び、ctDNAにおける VAFは体内の腫瘍量と関連することが知られている。
9. プライマープローブ:デジタルPCRを行う際に用いられる試薬。1変異に1種類のプローブが必要となる。岩手医大では様々ながんで高頻度に検出される遺伝子変異に対するプローブを1000種類以上設計・ライブラリー化し、この技術を特許化している。
10. BCG療法:膀胱内に結核菌のワクチンを注入する膀胱がんの治療方法。悪性度の高い癌や、再発を繰り返す癌などに対して行われます。

<原著論文>

発表雑誌名:The Journal of Molecular Diagnostics
論文タイトル:The clinical validity of urinary pellet DNA monitoring for the diagnosis of recurrent bladder cancer(膀胱癌の再発診断における尿沈渣DNAモニタリングにおける臨床的妥当性)
著者:Masakazu Abe1.2, Hayato Hiraki1, Takashi Tsuyukubo3, Sadahide Ono4, Shigekatsu Maekawa2, Daichi Tamura2, Akiko Yashima-Abo1, Renpei Kato2, Hiromitsu Fujisawa3, Takeshi Iwaya5, Woong-Yang Park6,7, Masashi Idogawa8, Takashi Tokino8, Wataru Obara2, Satoshi S. Nishizuka 1

<本件に関するお問い合わせ先>

【研究に関すること】
岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発研究部門 特任教授 西塚 哲 (にしづか さとし)
電話 019-651-5111 メール snishizu★iwate-med.ac.jp

札幌医科大学医学部附属がん研究所ゲノム医科学部門
准教授 井戸川 雅史 (いどがわ まさし)
電話 011-611-2111(内線23870) メール idogawa★sapmed.ac.jp

【広報に関すること】
岩手医科大学法人事務部総務課広報係
電話 019-651-5111 メール kouhou★j.iwate-med.ac.jp

北海道公立大学法人 札幌医科大学 事務局経営企画課企画広報係
電話 (011)-611-2111(内線21650・21640) Mail:kouhou★sapmed.ac.jp

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発行日:

情報発信元
  • 札幌医科大学医学部附属がん研究所ゲノム医科学部門