【研究成果】胸部レントゲン写真上で線維化をきたす間質性肺疾患を検出するAI(人工知能)プログラムを開発しました

写真(人物写真)
左から医学部呼吸器・アレルギー内科学講座 錦織講師、千葉教授、附属総合情報センター企画開発室 廣田准教授
<研究の概要>
 札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座(千葉弘文教授)講師 錦織博貴らの研究グループ(医学部呼吸器・アレルギー内科学講座、医学部放射線診断学、附属総合情報センター企画開発室)はエムスリー株式会社と共同で、胸部レントゲン写真上で線維化をきたす間質性肺疾患を検出するAIプログラムの開発研究を行い、その研究成果が2022年10月6日付で国際学会雑誌European Respiratory Journalに掲載されました。
 
Nishikiori H, Kuronuma K, Hirota K, Yama N, Suzuki T, Onodera M, Onodera K, Ikeda K, Mori Y, Asai Y, Takagi Y, Honda S, Ohnishi H, Hatakenaka M, Takahashi H, and Chiba H.
 
Deep learning algorithm to detect fibrosing interstitial lung disease on chest radiographs
 
Eur Respir J. 2022; DOI: 10.1183/13993003.02269-2021
 
<研究のポイント>
 特発性肺線維症(IPF)をはじめとする進行性の線維化を伴う間質性肺疾患の患者さんに対して、抗線維化薬による早期治療が重要であると言われています(*注1)。しかし、間質性肺疾患を胸部レントゲン写真で検出することは容易ではなく、特に早期の病変を検出することは困難です。そこで、本研究グループとエムスリー株式会社は共同で、胸部レントゲン写真上で線維化を伴う間質性肺疾患を検出するAIプログラム(*注2)の開発を試みました。
 線維化を伴う間質性肺疾患の患者さんおよびその他の疾患の患者さん(画像上、異常がない患者さんを含む)の胸部レントゲン画像をAIに学習させることによりプログラムを作成し、試験用の胸部レントゲン画像を用いて、その検出能を評価しました。その結果、AIプログラムは呼吸器専門医や放射線診断医に劣らない性能で、線維化を伴う間質性肺疾患を検出できることがわかりました。
(*注1)病気の種類、進行速度、患者さんの状態により適応が異なります。必ずしも全ての患者さんに当てはまるわけではありません。
(*注2)CAD(コンピューター検出支援)の一種であり、最終的な判断・診断は医師が行います。
 
 
 
 
 
症例写真
症例写真
 特発性肺線維症の70代男性の胸部レントゲン写真と胸部CT画像。胸部レントゲンでは異常を指摘するのが困難であるが、胸部CTでは両側の胸膜に近い部位に軽度の線維化像を認めている。AIプログラムはこの胸部レントゲン写真にやや高い可能性で間質性肺疾患あり(10段階で6)と判定した。

<研究の対象、実施期間など>
 2003年1月1日から2019年12月31日までに本学附属病院を受診した、線維化を伴う間質性肺疾患の患者さんおよびその他の疾患の患者さん(画像上、異常がない患者さんを含む)が研究に含まれます。対象となる患者さんの胸部レントゲン画像を本学附属病院 医療情報部が抽出・匿名化し、AIの学習とAIプログラムの性能検証に用いました。研究は2019年3月19日から2021年12月31日まで行われました。
 
<研究の意義、これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>
 被曝や費用の問題から胸部CT検査が全ての施設で、全ての患者さんに行われるわけではありません。それに対し、胸部レントゲン検査はほとんどの医療機関で、比較的簡便に、繰り返し行うことができます。このAIプログラムにより、非専門医でも線維化を伴う間質性肺疾患を検出することが容易になり、患者さんにとって早期発見、早期治療につながることが期待されます。
 この研究をもとに、学習データを増やすことでさらにプログラムの性能の改善(特に他の異常所見による偽陽性率を下げる)、本学以外の施設、設備のレントゲンでも同程度の性能で病気を検出できるかの検証を行って、このAIプログラムの製品化を目指しています。

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