札医大の研究室から(47) 辻喜久教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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  今年5月、札幌医科大学医学部総合診療医学講座に辻喜久教授が着任した。臨床研修・医師キャリア支援センター長も務める。米国の歴代大統領をはじめ各国のVIPが訪れることで知られる米国メイヨー・クリニックで学生の指導に携わるなど、多彩な経験を持つ辻教授に今後の抱負や十勝住民へのメッセージを聞いた。(聞き手・安藤有紀)

辻喜久(つじ・よしひさ)

 1973年滋賀県生まれ。高知医科大学医学部医学科卒、京都大学大学院医学研究科修了。京都大学医学部附属病院、倉敷中央病院、米国メイヨー・クリニック、ブータン王国JDWNR病院などを経て滋賀医科大学臨床教育講座准教授。5月から現職。

札医大の研究室から(47) 辻喜久教授に聞く 2020/09/25

安藤 これまでの経歴を。

 消化器内科でスタートしたが、研修医時代に専門性に限らず総合的に診る大切さを学び、腹部救急のトレーニングを受けた。この時期に書いた論文が米国消化病学会の表紙に取り上げられ、これがきっかけで同国メイヨー・クリニックに留学。渡米中に東日本大震災が起こり、米国の医療グループの一員として南三陸町(宮城県)へ派遣された。帰国後は京大のプログラムでブータンの病院へ出向、倉敷中央病院の重症消化器疾患チームのチームリーダーを務めるなどし、滋賀医科大では医学教育に取り組んだ。

安藤 特に印象的だったことは。

 忘れられないのはやはり南三陸町での経験。停電でモニターや医療機器が使えず、機械に頼るような最先端の医療は全く役に立たなかった。面接と身体所見のみで診療する、昔ながらの方法が医学・医療の基礎であると強く感じた。医師にとって何よりも大切なのは、患者の心に寄り添うこと。これはいつの時代もどの場所でも変わらない。

安藤 札医大に着任しての所感は。

 札幌は国内でも有数の経済規模を誇る大都市だが、少し離れると自然豊かなエリアが広がる。札医大の地域医療プログラムは大都市とへき地の両方を有していて、一つのプログラムの中にこれだけ広範で多様性のある地域を持っているのは世界的にも珍しい。この地域性を生かして多様な経験ができるのが札医大の強みなので、これまでのプログラムを整理し、それに先生方の力を乗せて、より魅力的なプログラムをデザインできれば。

安藤 地域医療で求められる人材とは。

 今の医療の改革は行政主導で、財政的な面から議論されることが多い。その中で地域医療に従事する医師には、さまざまな年代に対する確かな医療技術があることはもちろん、行政や地域の人々としっかり話をして地域の街づくりに参加する視点も必要。現地では患者の診療に加えて後進の指導もできなくてはならない。教育者を育てることも札医大の重要な役目。

安藤 十勝住民へ一言。

 10年ほど前、大学院生の時に帯広畜産大で実験をした。同大の学生は真面目で熱意にあふれ、その時に見た帯広の景色も美しく、とてもいい所だと感じた。そのような素晴らしい十勝の地に住む皆さまの健康的な生活を支援していきたい、支援できる人材を育てていきたいと決意を新たにしている。次の北海道の成長、ひいては日本の成長につながるよう皆さまとともに取り組みたい。

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  • 経営企画課企画広報係