札医大の研究室から(42) 川原田修義教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

十勝毎日新聞ロゴ
 体の中で最も大きな血管である大動脈。大動脈の疾患は命に関わるものが多く、緊急治療が必要となる。急を要する大動脈疾患にはどんなものがあるのか、札幌医大医学部心臓血管外科学講座の川原田修義教授に聞いた。(聞き手・安藤有紀)

川原田修義(かわはらだ・のぶよし)

 1959年小樽市出身。札幌医科大医学部大学院医学研究科修了。93年5月から約1年半、国立療養所帯広病院胸部心臓血管外科勤務。ピッツバーグ大学心臓胸部外科、函館五稜郭病院胸部心臓血管外科、ヘルシンキ大学心臓胸部外科、札幌医科大学准教授、札幌中央病院副院長などを経て15年から現職。

札医大の研究室から(42) 川原田修義教授に聞く 2020/04/04

安藤:緊急を要する大動脈疾患とは。
川原田:
主に破裂性大動脈瘤(りゅう)、大動脈解離、外傷性大動脈瘤損傷がある。破裂性大動脈瘤は、大動脈がこぶのように腫れて破裂する。胸や腹などさまざまなところに生じる可能性があるが、こぶが大きくなっても自覚症状がなく、ある日突然破裂してしまう。
 腹部の大動脈瘤は男性に多い。高血圧、高コレステロール、喫煙者は注意が必要。家族に腹部動脈瘤や狭心症、心筋梗塞、脳卒中などを発症したことがある人がいる場合も気を付けてほしい。

安藤:
大動脈解離とは。
川原田:大動脈が突然裂けてしまう疾患。心臓から頭に向かう上行大動脈に解離が見られる「急性A型大動脈解離」は緊急手術が必要。心臓から離れた血管に解離がある「B型大動脈解離」は手術をせず血圧を下げることでの治療が可能だが、症例に応じて緊急手術も必要になる。
 動脈硬化が進み解離を起こすケースも多く、70代などの高齢者に多く見られる。最近は40~50歳代の中年者にも発症するケースが増えてきた。20~30歳代の若年者にも発症することがあるが、その場合は遺伝性疾患を合併している。大動脈瘤と同様、高血圧、高コレステロール、喫煙にも気を付けてほしい。

安藤:
発見方法と治療法は。
川原田:腹部大動脈瘤は、他の病気で検査を受け、そのときに偶然見つかるケースがほとんど。レントゲン写真では分からないため、診断にはCTスキャン(コンピューター断層撮影)が最も確実である。自覚症状がなく事前に防ぐのは難しいが、とにかく健康診断は必ず受けてもらいたい。
 治療法は大きく二つあり、一つは開腹手術で腹部大動脈瘤を人工血管に置き換える人工血管置換術、もう一つはステントグラフトという筒状の治療器具を使い動脈瘤の中に血が流入するのを防ぐ血管内治療。血管内治療の方が体に掛かる負担が少ないので、今後は高齢者が増加するため、血管内治療がさらに増えるのではないか。

安藤:
外傷性大動脈損傷は。
川原田:外から極端に強い圧がかかったときに大動脈が裂けたり破裂したりする。主に交通事故と転落。大きな事故では、大動脈だけでなく骨盤骨折や脳挫傷などで他の臓器が損傷してしまうことも多く、外傷性大動脈損傷はステントグラフト治療での血管内治療が第一選択とされている。

安藤:
十勝の住民に一言。
川原田:急を要する場合、搬送に時間がかかるのは不利。地元で治療を完結することが必要。十勝管内でも心臓手術をしている医療機関があるので、何かあればすぐに治療を受けてほしい。予防が難しい疾患ではあるが、喫煙などの生活習慣を見直すのも一つの方法。十勝では車を運転する人も多いので、交通事故には十分気を付けてもらいたい。

発行日:

情報発信元
  • 経営企画課企画広報係