札医大の研究室から(41) 坂田耕一教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 がんの治療と聞くと手術や抗がん剤治療をイメージする人が多いが、手術・薬物療法と並ぶ三大治療法の一つ「放射線治療」も近年大きな進化を遂げている。札幌医大医学部放射線医学講座の坂田耕一教授に最新の治療法について聞いた。(聞き手・安藤有紀)

坂田耕一(さかた・こういち)

 1958年札幌市生まれ。83年旭川医科大学卒。米国スタンフォード研究所訪問研究員、東京大学医学部放射線医学講座講師などを経て95年札幌医科大学医学部放射線医学講座講師、99年同講座助教授。2012年より現職。

札医大の研究室から(41) 坂田耕一教授に聞く 2020/02/28

安藤:放射線治療の内容は。
坂田:外から放射線を照射する「外部照射」と、体内に放射線物質を入れる「密封小線源治療」がある。外部照射の代表的な治療装置が「ライナック」。治療室にいる時間は15分程度で、このうち実際の照射時間は数分。患者はベッドに横になるだけでよく、痛みもない。通常は週に5回、5~7週間の治療期間を設けている。
 密封小線源治療は、密封小線源と呼ばれる放射性物質を病巣の近くや内部に挿入して、体の内から放射線を照射する治療法。放射線治療は子宮がんや前立腺がん、耳鼻科領域のがん、食道がん、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫など多くのがんが対象。放射線治療をしているがん患者の割合は欧米では半数以上だが、日本は25~30%。放射線治療で良くなる患者がまだたくさんいる。

安藤:放射線治療の利点は。
坂田:例えば喉頭がんの場合、手術で喉頭を切除すると声を失ってしまうが、放射線治療でがんが治れば今まで通り発声できる。前立腺がんでは、手術後に起こりやすい尿漏れや性機能障害の心配が少ない。早期乳がんは縮小手術と放射線治療を組み合わせて乳房の温存も可能。手術に比べ体の負担が少なく、患者の生活の質の向上が期待できる。

安藤:札医大での最先端の放射線治療法は。
坂田:東北・北海道の大学病院で唯一設置されている装置「トモセラピー」を使用し、精度の高い方法で画像誘導放射線治療(IGRT)と強度変調放射線治療(IMRT)を行っている。がんは毎日移動するため、IGRTでは撮影した画像を基に、位置のずれを修正し、正確にがんにエックス線を照射する。IMRTは治療したい部位に集中してエックス線を当てられる。
 専門医師や放射線技師、医学物理士、看護師からなるチーム医療も必要不可欠。経験豊富なスタッフによるチームで診療している。

安藤:札医大で行われている特徴的な前立腺がん治療とは。
坂田:密封小線源治療(シード治療)、トモセラピーでの高精度の外部照射、ホルモン療法(泌尿器科が施行)の3つを併用した前立腺がんの治療法。道内では札医大のみで行っている。シード治療は、放射線物質を密閉した長さ4ミリ程度の線源(カプセル)を前立腺内に埋め込み、線源から徐々に放出される放射線で治療する。中間~高リスクの前立腺がんにおいてとても良好な成績を挙げている。

安藤:十勝の住民に一言。
坂田:放射線治療という方法もあることを知っていただき、担当医や専門医に相談してほしい。医師の話や日本放射線腫瘍学会のホームページなどを通じて情報を得て、納得して治療を受けてもらいたい。

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  • 経営企画課企画広報係