札医大の研究室から(40) 仲瀬裕志教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 札幌医科大学付属病院の消化器内科が昨年10月、炎症性腸疾患(IBD)に関する難病診療分野別拠点病院に指定された。同指定は全国で2番目、道内では初。消化器内科学講座の仲瀬裕志教授に拠点病院の役割や今後の展望を聞いた。(聞き手・安藤有紀)

仲瀬裕志(なかせ・ひろし)

 1964年京都府生まれ。神戸大学医学部医学科卒、京都大学大学院医学研究科内科系専攻博士課程修了および学位取得。米国ノースカロライナ大学消化器病センター博士研究員、京都大学付属病院内視鏡部部長などを歴任、2016年札幌医科大学消化器・免疫・リウマチ内科学講座教授を経て現職。

札医大の研究室から(40) 仲瀬裕志教授に聞く 2020/01/31

安藤:炎症性腸疾患とは。
仲瀬:一般的に潰瘍性大腸炎、クローン病の二つの疾患がある。潰瘍性大腸炎は基本的に大腸を中心に炎症が起こり、クローン病は食道や胃、十二指腸、小腸、大腸を含む全消化管に炎症が起こる。
 若い人を中心に増えており、潰瘍性大腸炎の患者は国内18万人、クローン病は4万人と言われる。明らかな原因は分かっていないが、食事や衛生環境の変化など環境要因が発症に関与すると考えられている。

安藤:治療法は。
仲瀬:日本では1970年代から、粘膜の炎症を直接抑える「5-ASA製剤」が基本的な薬として使われている。クローン病は、抗原性がない(おなかに刺激が少ない)アミノ酸が含まれる成分栄養製剤を飲む(経鼻チューブを用いる場合がある)栄養療法などがあり、炎症が治まらない場合はステロイドを使う。
 近年は、ステロイドの使用期間を短くするために用いられる免疫調節剤、炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の作用を阻害する薬など、実にさまざまな治療薬が開発されている。安全性を慎重に確認しなければならない新薬もあるが、治療は格段に進歩している。

安藤:拠点病院の役割とは。
仲瀬:かかりつけ医と専門医療機関の連携を強化し、かかりつけ医で対応できない場合は大学病院などで診るシステムをつくる。道北、道南、道東などにIBD治療の中心となる病院(拠点関連病院)を設け、その病院の専門医と地域の先生方が協力して患者を診察できる体制を整えたい。拠点病院としてそれをサポートしていく。実現のためには、専門医だけでなく看護師や栄養士、薬剤師も含めたメディカルスタッフの育成が重要。今後5年をめどに進めたい。

安藤:どんなことが期待できるか。
仲瀬:IBD患者はどこにいても同じ治療が受けられるようになり、地域医療の格差がなくなる。将来的には、地域の拠点関連病院で困ったことがあればオンライン会議などで拠点病院に相談し、拠点病院が患者のデータを見ながら治療法を提案できるシステムを構築したい。
 自身が理事を務める日本炎症性腸疾患学会では、IBD認定医制度も検討している。どの先生が認定医なのか分かれば患者も病院に行きやすく、より安心していただけるのではないか。

安藤:十勝の住民に一言。
仲瀬:札医大では全道のIBD患者のために動いている。これからの取り組みを十勝の方々にも期待していただきたい。皆さんの生活の質を高く保てるような医療体制をできるだけ早くつくりたい。

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  • 経営企画課企画広報係