札医大の研究室から(37) 石合純夫教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 脳は、手足を動かすだけでなく、見る、聞く、話すなどのさまざまな活動や思考、感情などをつかさどっている。脳が損傷されることにより、手足の運動や感覚の問題よりも「高次」なヒトとして大切な機能の幾つかが損なわれてしまうことがあり、これを高次脳機能障害という。札幌医科大学医学部リハビリテーション医学講座の石合純夫教授に、高次脳機能障害のリハビリについて話を聞いた。(聞き手・安藤有紀)

石合純夫(いしあい・すみお)

 1957年東京都出身。東京医科歯科大学医学部卒。同大神経内科、東京都神経科学総合研究所などを経て2005年札幌医科大学医学部リハビリテーション医学講座教授、11年より現職。札幌医科大学付属病院リハビリテーション部部長。

札医大の研究室から(37) 石合純夫教授に聞く 2019/11/1

安藤:リハビリが必要なケースは。
石合:脳出血や脳梗塞が起こると、会話や読み書きなどの言語機能が損なわれてしまう場合がある。それが失語症。右利きの人は左の脳の脳卒中で起こることが多い。失語症には、一言も言葉を発することができない重度の場合もあれば、話すのが難しい、理解が難しいなどさまざまなタイプがある。リハビリではそれらのタイプを見極め、主に言語聴覚士が関わり、患者の得意な分野を生かしながら弱いところを訓練していく。

安藤:右脳が損傷した場合は。
石合:脳卒中が左脳に起こると失語症が起こると話したが、右脳に起こると左側の空間にあるものを見つけられなくなってしまう。これを半側空間無視という。右の脳は空間性注意の能力を担っており、その障害により左に注意を向けにくくなる。左半側空間無視になると、食事で左側の茶わんに気付かない、左側のものにぶつかり、転倒しやすいなどが起こる。本人が症状に気付かないことも多く、日常生活の自立が難しくなるという問題もある。意識的に左を向く、専用のプリズム眼鏡を掛けてトレーニングするなどのリハビリを行う。

安藤:事故による損傷もある。
石合:交通事故などでの外傷性脳損傷では、長い話が頭に入らない、仕事や学業での課題に注意を持続できない、計画を柔軟に変更して対応できないなど、社会生活に支障が出る場合がある。しばしば身体は健康なので本人や家族が障害に気付かず、対応が遅れてしまうことも多い。専門家が正しく評価し、周りの協力も得てリハビリをすることが重要。

安藤:認知症のリハビリはあるか。
石合:アルツハイマー型認知症は、新しいことを聞いたり見たりしてもすぐ忘れてしまう健忘が目立ち、これはリハビリや薬で改善するのが難しい。しかし、住み慣れた家など長年暮らしてきた生活環境であれば過去の記憶からものの位置などが分かり、生活できる。日々の生活を続けることも一つのリハビリ。散歩などうっすら汗をかく程度の運動も、認知症の進行を遅らせるのに有効と言われている。

安藤:十勝の住民に一言。
石合:脳のリハビリの専門医、特に高次脳機能障害に詳しい医師は都市部に偏ってしまっている傾向はあるが、リハビリを行っている医療機関は十勝管内にもたくさんある。そのような医療機関や介護のサービスなどを利用して、生活の中でリハビリを進めていただきたい。

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  • 経営企画課企画広報係