札医大の研究室から(36) 加藤淳二教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 治療が難しいとされるすい臓がんと大腸がん。札幌医科大学は2012年、糖の一種である「フコース」を利用した、すい臓がんの新たな治療法を開発。16年には大腸がん治療に関する研究結果を発表した。同大学医学部腫瘍内科学講座の加藤淳二教授に、研究内容を聞いた。(聞き手・安藤有紀)

加藤淳二(かとう・じゅんじ)

 1958年オホーツク管内美幌町生まれ。札幌医科大学卒。同大学内科学第四講座、米国ブラウン大学(血液腫瘍内科)留学などを経て、2003年札幌医科大学内科学第四講座助教授、08年同教授、13年同大学腫瘍・血液内科学講座教授、17年より現職。

札医大の研究室から(36) 加藤淳二教授に聞く 2019/9/20

安藤:研究の背景は。
加藤:フコースは、たんぱく質に糖鎖として結合する性質を持ち、がんになると糖鎖の幾つかが増加することは既に知られていた。がん発見の手掛かりとなる、腫瘍マーカー検査にも活用されている。そこで、フコースをがん治療に応用できないかと考えた。腫瘍マーカーの性質から、すい臓がんがフコースを最も多く摂取している可能性があると予想し、まず、すい臓がんの研究を行った。次に、同様にフコースの取り込みが多いと思われる大腸がんの研究を展開した。

安藤:大腸がんの研究内容は。
加藤:フコースを取り込むと染色される色素を用いて、手術を終えた患者のがん組織を比較した。その結果、悪性度の高いがん細胞ほどフコースをより多く摂取することが分かった。次に、抗がん剤を包んだリポソーム(脂質の膜)の表面にフコースを結合させ、結合させた薬剤と、させなかった薬剤での効果をマウスで検証したところ、フコースを結合させた薬剤の方が、がん細胞をより消滅させることが分かった。
 がん細胞だけを標的にする治療法の必要性は以前から言われてきたが、がんだけに特異的に送達させる手法はなかった。フコースはほとんど正常組織には行かず、がん細胞に集まる特徴がある。これは副作用にも影響する。正常細胞にも薬が届いてしまうことで起こるのが副作用なので、がんだけに届けば副作用も少なくなる。フコースを使うことで理想的な薬になり得るだろう。

安藤:今後の治療へどう役立つか。
加藤:腫瘍マーカーの数値が高い患者さんには、新しい治療薬を使える可能性がある。ただ、まだ研究段階であり、実際に使える薬が完成するまで道のりは長い。製薬会社などと共に開発していく必要がある。

安藤:十勝の住民に一言。
加藤:すい臓がん・大腸がんの治療で最も重要なのは早期発見。おなかや背中が痛い、食欲がない、最近、糖尿病になったなどの場合はすい臓がんが疑われるので、早めに病院で調べてほしい。大腸がんの早期発見に有効なのは健康診断。普段から、便に血が混じっていないかチェックすることも重要。
 また、国内で見ると北海道・東北地区はがんの人が多いと言われ、要因の一つに塩分摂取量の多さが指摘されている。食事は塩分控えめ、食べ過ぎにも気を付けてもらいたい。

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  • 経営企画課企画広報係