札医大の研究室から(34) 樋之津史郎教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 臨床研究や治験という言葉は聞いたことがあっても、実際にどんな人が関わり、どう行われているのかよく知らない人も多いのでは。札幌医大で医療統計学を専門とする樋之津史郎教授に、臨床研究の実状を聞いた。(聞き手・安藤有紀)

樋之津史郎(ひのつ・しろう)

 1961年山口県出身。87年筑波大学卒。同大附属病院泌尿器科、東京大学医学部疫学・生物統計学教室などを経て2008年京都大学大学院医学研究科准教授、13年岡山大学病院新医療研究開発センター教授、18年4月より現職。札幌医科大学附属病院臨床研究支援センター副センター長も兼務。

札医大の研究室から(34) 樋之津史郎教授に聞く 2019/7/27

安藤:医療統計学とは。
樋之津:医療統計は臨床研究などで得られた結果を分析して判断の材料をつくる研究分野。昨年4月、当大にも新設された。

安藤:医療現場を描いたドラマなどで気になる点は。
樋之津:演出の範囲を超え、通常の診療現場ではありえない極端な発言や行動が見られる作品も見受けられる。近年、医療現場では「インフォームド・コンセント」(説明と同意)と「チーム医療」が浸透しているが、原作が古い作品などは現場の変化を反映していない。視聴者はドラマが作りものであると理解してもらいたい。

安藤:臨床研究や医療統計が診療へどう生かされるのか。
樋之津:現在得られている情報の中から良いものを選択し、現時点で最高の治療を行うのが「標準治療」。新しい薬剤や医療機器が認められると、それが現在の標準治療を上回るのか調べるために臨床研究が行われ、研究結果を評価する際に生物統計や医療統計が用いられる。
 薬剤は、治験で有効性や安全性を調べ、十分有効と確認されて初めて病院で処方される。治験には医師、看護師、治験コーディネーター、薬剤師、臨床検査技師、放射線技師など多くの専門職が関わる。また、診療で得られたカルテ情報をもとに効果や副作用を調べる研究や、治験以外で関連病院と行う共同研究もある。治験、治験以外の研究、カルテ情報をもとにした研究などを随時行い、最適な検査・診断・治療方法を見つける努力をしている。

安藤:ITが進歩する中で求められることは。
樋之津:デジタルデータはコンピューターで分析できるが、「何となくだるい」などの患者の悩みや訴えは、患者と医師との良好な人のコミュニケーションの中で得られる。AI(人工知能)やシステムが進化しても、医療従事者だからこそ得られる情報を的確に患者から受け取り、正確にカルテに記載することは今後も重要だ。

安藤:十勝の住民へのメッセージを。
樋之津:臨床試験や治験に限らず、病院にかかるときはしっかりと説明を受け、理解し納得した上で検査や治療を受けてもらいたい。私たちも分かりやすい説明やホームページでの十分な情報提供に努める。

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  • 経営企画課企画広報係