札医大の研究室から(29) 宇原久教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 昨年のノーベル医学生理学賞は、がん免疫療法の薬の開発につながる発見をした本庶祐博士(京都大)とジェームズ・アリソン博士(米テキサス大)が受賞した。札幌医科大学の宇原久教授に、がん免疫療法について聞いた。(聞き手・安藤有紀)

宇原久(うはら・ひさし)

 1960年長野県南佐久郡南牧村生まれ。86年北海道大学医学部卒業。
信州大学医学部付属病院、国立がんセンター研究所、諏訪赤十字病院皮膚科で勤務した後、2011年信州大学医学部准教授。17年から現職。

札医大の研究室から(29) 宇原久教授に聞く 2019/2/15

安藤:がん免疫療法とは。
宇原:免疫とは、自分の体とそれ以外(ばい菌などの異物)を見分け、異物を攻撃して体を守るシステムのことで、この仕組みを使い、がんを治そうとするのが、がん免疫療法。30年ほど前からいろいろな免疫療法が試されてきたが、期待した効果がほとんど得られなかった。ノーベル賞を受賞した2人の先生らの研究により、2014年に新薬オプジーボが承認され、やっと免疫療法が効く患者が出てきた。
 この薬は皮膚がんの一つであるメラノーマと肺がんなどを対象に開発。メラノーマは白人に多く、日本人には珍しいがん。メラノーマで内臓に転移すると以前の3年生存率は数%だったが、新薬の登場により、半数近くの方が病気をコントロールしながら生きられるようになった。

安藤:免疫療法は副作用が少ない印象があるが。
宇原:これは全くの誤解。免疫療法に副作用が少ないといわれるのは、過去の治療では免疫を十分に上げることができず、そのため副作用もなかったというだけ。現在効果が得られる免疫療法は、個人差があるものの副作用はほぼ必発。副作用が出た方が、がんに対する効果が高いというデータもある。なるべく副作用の少ない治療法の開発も行われている。

安藤:札医大で取り組んでいる新しい治療法は。
宇原:患者が現在使えるのは「PD1」など3つの免疫のブレーキを止める薬だが、別の免疫のブレーキ「LAG3」に対する新薬の治験を札幌医大で行っている。
 また、生きたウイルスをがん細胞に打ち込み、がん細胞を壊す治療の治験も一昨年から実施している。どちらも現在治療中の薬に効果がない患者が対象になっている。

安藤:十勝の住民へ一言。
宇原:当皮膚科には、皮膚がんに限らずアトピー性皮膚炎などアレルギーの専門医、あざなど遺伝性の皮膚疾患の専門医も在籍している。札幌と十勝は離れているが、何か相談したいことがあれば、主治医を通じて遠慮なく連絡してほしい。

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