札医大の研究室から(24) 時野教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 1年間で100万人以上が新たに診断されるといわれる「がん」。「がん家系」という言葉があるように、がんの遺伝を心配する人も多い。近年、人間の遺伝子の研究が進み、がんと遺伝の関係も次第に解明されつつある。がんゲノムを研究している時野隆至教授に、遺伝子とはどのようなものか、遺伝するがんと遺伝しないがんの違いなどについて聞いた。(聞き手・安藤有紀)

時野隆至(ときの・たかし)

 1960年大阪府生まれ。83年大阪大学理学部生物学科卒業。89年同大学大学院医学研究科課程修了・医学博士修得。3年間の米国留学を経て、95年東京大学医科学研究所・ヒトゲノム解析センター助教授。97年札幌医科大学医学部がん研究所分子生物学部門教授。2012年から同大学フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門教授。

札医大の研究室から(24) 時野隆至教授に聞く 2018/09/21


安藤:
「がん」は親から子どもに遺伝する病気なのか。
時野: 結論から言うと、一部のがんのみが親から子に遺伝することが分かっている。これまでによく研究されているのが「大腸がん」「乳がん」「卵巣がん」で、このうちの5~10%が「遺伝性のがん」と言われている。つまり、同じ大腸がんでも遺伝するタイプと遺伝しないタイプがある。大半のがんは遺伝しないが、一部のがんは遺伝するといえる。

安藤: 「がん」ができる仕組みは。
時野: 正常な細胞において、複数の遺伝子の異常(遺伝子変異)が蓄積していくと、がん細胞になる。がん細胞が無秩序に増殖してしまう病気が「がん」。つまり、がんは「遺伝病」ではないが、「遺伝子の病気」である。
 遺伝子はデオキシリボ核酸(DNA)という物質からできていて、タンパク質を作るための設計図の役目を果たす。ヒトの遺伝子は2万~3万種類あるといわれ、その全体を「ヒトゲノム」と呼ぶ。親から子に受け継がれる物質がDNAすなわちゲノム。子が親に似るのは、設計図であるゲノムを親から受け継いでいるからだ。

安藤: 「遺伝するがん」と「遺伝しないがん」の違いはどこにあるのか。
時野: がんの原因となる遺伝子変異がどの細胞で起こったのか、という点に違いがある。例えば大腸がんの場合、遺伝しないがんでは大腸の上皮の細胞に後天的に遺伝子変異が蓄積する。大腸の上皮に分化した細胞は体細胞といい、子に受け継がれることはない。一方で、親から子に受け継がれる生殖細胞に先天的に遺伝子変異がある場合、変異した遺伝子が親から子に受け継がれることがあり、遺伝性のがんとなる。生まれつき遺伝子変異があるため、若い世代で発症しやすい傾向がある。

安藤: 遺伝的ではない、環境要因のがんにはどんなものがあるか。
時野: 発がんと深く関わっている環境因子として統計学的に知られているのは、「肺がんと喫煙」「皮膚がんと紫外線」、感染症では「胃がんとピロリ菌」「子宮頸癌とパピローマウイルス」「肝がんとB型・C型肝炎ウイルス」。喫煙と紫外線は、肺や皮膚の細胞の遺伝子変異を起こす頻度を高め、肺がんや皮膚がんになるリスクも上がると考えられている。

安藤: 遺伝性のがんが心配されるのはどんな場合か。
時野: 例えば遺伝性乳がんの場合、症状は一般の乳がんと変わらない。しかし、家族や血縁のある親族に乳がんや卵巣がんの人がいる、20~30代など若くして発症した場合などは、遺伝性乳がんの可能性が考えられる。
 もし遺伝性のがんに不安を感じたら、大学病院や地域内のがん専門性の高い病院で遺伝カウンセリングを受けてもらいたい。札幌医科大学付属病院にも「遺伝子診療科」がある。乳がんは乳腺外科でも相談できる。遺伝性がんが疑われる場合は遺伝子検査も受けられるので、医師と相談し、メリット・デメリットを把握した上で受けるとよい。

安藤: 十勝住民に向けて。
時野: 北海道はがん検診の受診率が全国の中でも低いと言われている。早期発見により完治できるがんもあるので、機会を見つけてがん検診を受けてもらいたい。特に遺伝性のがんの場合は定期的な検診・管理が重要になる。おっくうがらずに検診を受けるようにしてほしい。

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  • 経営企画課 企画広報係