肝臓組織の自律神経支配をマウスで解析

肝臓組織の自律神経支配をマウスで解析~肝発生と再生の過程での自律神経ネットワーク構築の仕組みを解明~

<研究の概要>
 札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門 准教授・谷水 直樹らの研究グループ(教授 三高 俊広)は、マウス肝臓の自律神経ネットワーク形成と再生が、上皮組織からのシグナルによって制御されていることを報告しました。
 マウスの発生・再生過程の組織を3次元的に解析することで、肝臓の上皮組織構造のひとつである胆管チューブ構造の形成・再生に伴って自律神経線維が伸長すること、その過程は、胆管細胞が分泌するNGFによって制御されていることを明らかにしました。

① この研究は文部科学省科学研究費補助金のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌Development(ディベロップメント)(doi: 10.1242/dev.159095.)に掲載予定です。
 

<研究のポイント>
  • 肝臓の上皮組織構造の1つである胆管ネットワークの形成後に、自律神経が肝組織内に伸長する。
  • 胆管はNGFを分泌することで、肝内神経ネットワークの形成を誘導する。
  • 胆管構造が障害されると、神経線維も破壊される。
  • 胆管構造の再生に伴い、神経ネットワーク構造は再構築される。
  • 正常肝臓では門脈周囲に限定的に分布している神経線維は、nerve growth factor (NGF)の過剰発現によって肝小葉全体に広がることから、neurotrophic factor(神経成長因子)の発現制御によって肝内自律神経ネットワークのRemodelingを誘導することが可能である。
     
<研究の背景・実施期間など>
 体中に張り巡らされた自律神経は、様々な臓器の機能調節を担うことで、生体の恒常性維持に寄与しています。肝臓は種々の代謝を一手に担っている重要な臓器です。肝臓の自律神経は、糖代謝、血流量、胆汁流量の調節などに関与していることが報告されています。一方、肝臓の自律神経ネットワークの形成過程や肝臓の疾患・再生における自律神経の役割については不明な点が多く残されています。

 我々は、マウス肝臓の組織構造を3次元的に解析する方法を確立し、肝発生過程での上皮組織構造の形成過程の解析を行ってきました。今回、同様の手法を用いて、肝臓における上皮組織構造と自律神経ネットワークの関連性を解析しました。肝臓の上皮組織の1つである胆管は、チューブ状のネットワーク構造です。胎仔期は微細で均一なチューブで構成された未熟な構造ですが、出生後に成体型の成熟した構造を完成させます。神経線維は、新生仔になると肝内へ伸長をはじめ、生後2~3週間で肝組織内の神経ネットワークが完成していました。すなわち、胆管チューブネットワーク形成が先行し、その構造に並走するように神経線維が伸長していました。さらに、神経成長因子のひとつであるNGFが胆管上皮細胞およびその周囲に存在している線維芽細胞に強く発現していることがわかりました(図1)。
 
図1.マウス肝臓での神経ネットワーク形成
図1.マウス肝臓での神経ネットワーク形成
 さらに、上皮組織の破綻と再生が神経ネットワークにどのように影響を与えるのかを解析しました。胆管上皮細胞を障害する薬剤 (4,4'-diaminodiphenylmethane: DAPM) を投与すると、胆管に加えて、その周囲の神経ネットワークも破綻することが分かりました。また、胆管の修復に伴って、神経ネットワークの再構築が起こっていました。NGF の受容体であるTrkを阻害する低分子化合物の投与によって、神経ネットワークの再構築が遅延したことから、自律神経ネットワーク再構築の際にも、NGFシグナルが重要な働きをしていることが明らかになりました。興味深いことに、通常NGFを発現してない肝細胞にNGF遺伝子を導入すると、胆管構造を伴う門脈周囲の組織に限局して存在していた神経線維が、肝小葉全体に伸展することもわかりました(図2)。
図2.神経ネットワークのRemodelingの誘導
図2.神経ネットワークのRemodelingの誘導
<研究の意義・これからの可能性>
 今回の結果から、肝臓組織の構築および再生過程において、胆管はNGFを供給することによって神経ネットワーク形成および再構築を制御していることが明らかになりました。これまで、自律神経ネットワークと血管構造の密接な関係については、様々な臓器で報告されてきました。我々の結果は、上皮組織形成・再生と神経ネットワーク形成にも関連性があることを示しています。今後、肝疾患において自律神経が果たす役割を詳しく調べることで、自律神経の調節の破綻が疾患の機序にどのように寄与しているのかを明らかにしていきたいと考えています。また、自律神経を調節することで、障害の程度を軽減したり再生を促したりすることができないか、検討を進めていきたいと考えています。

<本件に関するお問い合わせ先>
所属・氏名:札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門・准教授・谷水 直樹
TEL:011-611-2111(内線23910) FAX: 011-615-3099
E-メール:tanimizu☆sapmed.ac.jp ※☆を@に変えて送信ください。
 


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