【研究成果】COVID-19パンデミックによる日本人炎症性腸疾患患者の不安と行動変化を解明

COVID-19流行により生じた、本邦の炎症性腸疾患患者が感じた 不安や行動変容に関するアンケート調査(J-DESIRE)

消化器内科担当医師
左から:医学部消化器内科学講座 教授・仲瀬裕志教授、同講座 我妻 康平 助教、羽澄あゆこ 消化器内科病棟副看護師長

<研究の概要>

 札幌医科大学医学部消化器内科学講座 教授・仲瀬裕志を代表とする研究グループ(COVID-19 流行により生じた、本邦の炎症性腸疾患患者が感じた不安や行動変容に関するアンケート調査の多施設共同前向き観察研究グループ (Japan COVID-19 Survey and Questionnaire in inflammatory bowel disease:J-DESIRE group)は、炎症性腸疾患(IBD)患者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中に感じる不安の内容を明らかにしました。また、不安をより感じやすいIBD患者の特徴、環境、治療内容などを明らかにしました。この研究は、厚生労働科学研究費補助金 難病性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(杏林大学医学部 消化器内科学・教授・久松理一らの研究グループ)における COVID-19 JAPN IBD Taskforceの事業として、31の医療機関の3032人のIBD患者が参加して行われた研究で、その研究成果は 2023年1月6日付で国際科学誌Journal of Gastroenterology のオンライン版に掲載されました。

Nakase H, Wagatsuma K, Nojima M, Matsumoto T, Matsuura M, Iijima H, Matsuoka K, Ohmiya N, Ishihara S, Hirai F, Takeuchi K, Tamura S, Kinjo F, Ueno N, Naganuma M, Watanabe K, Moroi R, Nishimata N, Motoya S, Kurahara K, Takahashi S, Maemoto A, Sakuraba H, Saruta M, Tominaga K, Hisabe T, Tanaka H, Terai S, Hiraoka S, Takedomi H, Narimatsu K, Endo K, Nakamura M, Hisamatsu T.
Anxiety and behavioral changes in Japanese patients with inflammatory bowel disease due to COVID-19 pandemic: a national survey.
(COVID-19パンデミックによる日本人炎症性腸疾患患者の不安と行動変化:全国調査)
J Gastroenterol. 2023 Jan 6:1-12.
DOI: 10.1007/s00535-022-01949-6.

<研究のポイント>

  •  COVID-19 パンデミック中の日本人 IBD 患者の不安と行動の変化を調査するためにAll Japanでのアンケート調査を実施しました。
  • 不安の程度はCOVID-19 の波に応じて変動し、人口あたりの感染者数が増加してから1か月後に不安が増強しました(図1)。不安の上位3つの内容は、(1)通院中に新型コロナウイルスに感染することへの不安、(2)基礎疾患としてのIBDを持つことにより新型コロナウイルスに感染するリスクが増えるのではないかという不安、(3)IBD治療薬により新型コロナウイルスに感染するリスクが増えるのではないかという不安、でした。女性、専業主婦(主夫)、長い通院時間、電車による通院、免疫抑制療法の使用などに該当するIBD患者は、不安がより強いことが分かりました。日本において新型コロナウイルスワクチンが導入された時期からIBD患者の不安が低下しました。
  • ほとんどのIBD患者は、予定通りに通院をし、治療薬を継続していました。しかし、医師から治療継続について説明を受けたIBD患者は42.6%、医師からCOVID-19の予防に関する情報を受けたIBD患者は35.6%にとどまりました。
  •  
図1. COVID-19の波による不安スコアの変化
図1. COVID-19の波による不安スコアの変化

<研究の背景、実施期間など>

IBDは腸に慢性的な炎症を繰り返す疾患で、若年者に多く発症します。COVID-19 のパンデミックにより、IBD患者は、受診による新型コロナウイルス感染の恐怖と、診察を延期することによるIBDの悪化に対する  不安との間で大きなジレンマを経験していると予想されます。また、IBD患者の治療には免疫抑制療法を行う ことが多いですが、本研究が実施された時期には、免疫抑制療法が新型コロナウイルスの感染に与える影響は 研究中の状況でした。そのため、IBD患者はCOVID-19関連の情報を入手する方法を知らず、治療を自己中断する可能性も考えられました。これらの不安や行動変容は、地域や国の特性により大きく異なることが予想されましたが、日本での大規模な調査は行われていませんでした。
本研究では、2020年3月から2021年6月の間に、31の医療機関を訪れた3032人のIBD患者を対象にしてAll Japanでのアンケート調査を行いました。

<研究の意義、これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>

本研究は、日本在住のIBD患者を対象とし、COVID-19流行がIBD診療に与えた影響を患者さんの行動変容に着目して明らかにしたAll Japanの研究です。本研究で得られたIBD患者がCOVID-19に対して感じる  不安の内容を踏まえて、IBD患者への適切な説明や情報発信を行い、IBD患者の不安を可能な限り軽減する必要があります。
いずれCOVID-19は終息すると考えられますが、日本在住のIBD患者がどのようなことに対して不安を感じ、どのようなことを医療関係者に期待しているかということは、今後の日常診療においても重要な情報になると 考えられます。

<本件に関するお問い合わせ先>

所属・職・氏名:
  • 札幌医科大学医学部 消化器内科学講座・教授・仲瀬 裕志
  • 杏林大学医学部 消化器内科学・教授・久松理一(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 研究代表者)
  • 札幌医科大学医学部 消化器内科学講座・助教・我妻康平(札幌医科大学医学部消化器内科学講座内 J-DESIRE研究(COVID-19 流行により生じた、本邦の炎症性腸疾患患者が感じた不安や行動変容に関するアンケート調査の多施設共同前向き観察研究)事務局)

発行日: