同位体フリーラジカル分子を同時に可視化するイメージング技術の開発に成功
【研究発表】同位体フリーラジカル分子を同時に可視化するイメージング技術の開発に成功
研究成果の概要
北海道大学大学院情報科学研究科の平田 拓 教授及び札幌医科大学医療人育成センター藤井 博匡 教授らは,体の中で薬物の動きを画像化することを目指して,2種類の同位体フリーラジカル分子を同時に画像化する技術を開発しました。
これまで,磁器共鳴技術によって2種類の同位体フリーラジカル分子を画像化するためには,特殊な磁気共鳴イメージング(MRI)を用いたり,長い計測時間を要する計測法によらなければ困難でした。
本開発チームは今回,1回の撮像時間で2種類のフリーラジカル分子を非侵襲的に画像化し,体の中でそれぞれの分子の動きを同時に追跡することを可能にしました。今後,他の分子の目印としてフリーラジカル分子を用いれば,2種類の標的分子を体の中で同時に三次元画像化することができるようになります。
本研究は,北海道大学 大学院情報科学研究科のアンナ パウラック 博士研究員,同研究科 修士課程 伊藤 良平 氏,札幌医科大学 藤井 博匡 教授らと共同で行われました。
本研究成果は,英国王立化学協会の学術誌「Chemical Communications(ケミカル・コミュニケーションズ)」に受理され,オンライン版で公開されました。
詳細は、下記プレスリリースをご覧ください。
これまで,磁器共鳴技術によって2種類の同位体フリーラジカル分子を画像化するためには,特殊な磁気共鳴イメージング(MRI)を用いたり,長い計測時間を要する計測法によらなければ困難でした。
本開発チームは今回,1回の撮像時間で2種類のフリーラジカル分子を非侵襲的に画像化し,体の中でそれぞれの分子の動きを同時に追跡することを可能にしました。今後,他の分子の目印としてフリーラジカル分子を用いれば,2種類の標的分子を体の中で同時に三次元画像化することができるようになります。
本研究は,北海道大学 大学院情報科学研究科のアンナ パウラック 博士研究員,同研究科 修士課程 伊藤 良平 氏,札幌医科大学 藤井 博匡 教授らと共同で行われました。
本研究成果は,英国王立化学協会の学術誌「Chemical Communications(ケミカル・コミュニケーションズ)」に受理され,オンライン版で公開されました。
詳細は、下記プレスリリースをご覧ください。
研究成果のポイント
・二種類の同位体フリーラジカル分子を同時に画像化する実験に成功
・体の中で薬品の二種類の分子を追跡する薬物動態研究への応用に期待
・体の中で薬品の二種類の分子を追跡する薬物動態研究への応用に期待
論文発表の概要
研究論文名:Simultaneous molecular imaging based on electron paramagnetic resonance of 14N- and 15N-labelled nitroxyl radicals (14N及び15Nでラベル化されたニトロキシルラジカルの電子常磁性共鳴同時分子イメージング)
著者:氏名(所属)アンナ パウラック(北海道大学),伊藤 良平(北海道大学),藤井 博匡(札幌医科大学),平田 拓(北海道大学)
公表雑誌:Chemical Communications(ケミカル・コミュニケーションズ)
著者:氏名(所属)アンナ パウラック(北海道大学),伊藤 良平(北海道大学),藤井 博匡(札幌医科大学),平田 拓(北海道大学)
公表雑誌:Chemical Communications(ケミカル・コミュニケーションズ)
研究成果の概要
(背景)
病気のメカニズムに関わる分子や薬の分子等を標的として画像化する分子イメージング技術の開発が活発に行われています。例えば,放射線を出す分子や蛍光を発するたんぱく質を利用して,特定の分子が体のどこにあるかを非侵襲的に画像化することができます。いずれも,標的とされる分子に画像として検出される目印をつけることにより,分子イメージングを実現しています。
体や細胞の中にある複数の標的分子が同時に画像化できれば,これまで解明されてこなかった分子(例えば薬物)の動態や生体との関連を明らかにできるのではないかと期待されています。
(研究手法)
フリーラジカル分子(用語解説1)を目印として標的分子を検出する画像化を想定して,目印となるニトロキシルラジカル分子を電子常磁性共鳴現象(電子スピン共鳴現象)(用語解説2)を用いて非侵襲的に画像化する方法を用いました。
ニトロキシルラジカル分子に含まれる窒素の中性子の数が異なる同位体は,電子常磁性共鳴現象による電磁波のエネルギー吸収特性(スペクトル)が異なります【図1】。中性子の数が1つ異なるだけで化学的特性がほとんど同じニトロキシルラジカルの分子を目印に用いれば,2種類の目印の違いによる差は生じません。
今回,標的分子に付ける目印(同位体ニトロキシルラジカル分子)を電子常磁性共鳴イメージング装置で同時に測定し,別々に画像化する仕組みを開発しました。
画像化には,磁場中にある試料に電磁波を連続して照射し,特定の磁場で生じるエネルギー吸収を測定する電子常磁性共鳴イメージング法を用いました。また,測定されたデータから2つの同位体分子に由来するエネルギー吸収の信号を分離し,別々に画像化しました。
測定されたデータでは当初,目印となる同位体フリーラジカルに由来するエネルギー吸収の信号は一部重なり合っており,そのままでは画像化できませんが,飛び飛びの磁場で同様なエネルギー吸収が生じる超微細構造(用語解説3)の特徴を利用して,2種類の同位体フリーラジカル分子からの信号を分離する手法を新たに開発しました。
(研究成果)
一度の測定で,2種類の同位体フリーラジカル分子の画像が得られました。これまでは通常1種類のフリーラジカル分子のみしか画像化できなかったため,2種類のフリーラジカル分子を画像化するためには同じ実験を繰り返していました。しかし今回開発した技術により,一度に2種類の目印となる分子を画像化することに成功しました【図2】。
また,体の中で寿命が異なる2種類のニトロキシルラジカル分子をマウスに投与し,それぞれの分子の分布を時間経過とともに非侵襲的に追うことができました【図3】。
この画像化技術を用いれば,2つの標的となる分子に特性の差がない同位体ニトロキシルラジカルを目印
に付けることにより,同時に体の中での動態を画像化することが可能になります【図4】。
(今後への期待)
今回の実験では,目印となる同位体フリーラジカル分子のみを画像化しましたが,標的となる2つの分子(例えば薬の分子)に目印を付けて,動物の体の中でどのように吸収,拡散,消失するかを同時に画像化する研究を進めます。3年以内に薬の分子に目印を付けて画像化する実証試験を行う予定です。
なお本開発は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】要素技術プログラムの開発課題「高速電子常磁性共鳴イメージング法の開発」(チームリーダー: 平田 拓)の一環として行われました。
病気のメカニズムに関わる分子や薬の分子等を標的として画像化する分子イメージング技術の開発が活発に行われています。例えば,放射線を出す分子や蛍光を発するたんぱく質を利用して,特定の分子が体のどこにあるかを非侵襲的に画像化することができます。いずれも,標的とされる分子に画像として検出される目印をつけることにより,分子イメージングを実現しています。
体や細胞の中にある複数の標的分子が同時に画像化できれば,これまで解明されてこなかった分子(例えば薬物)の動態や生体との関連を明らかにできるのではないかと期待されています。
(研究手法)
フリーラジカル分子(用語解説1)を目印として標的分子を検出する画像化を想定して,目印となるニトロキシルラジカル分子を電子常磁性共鳴現象(電子スピン共鳴現象)(用語解説2)を用いて非侵襲的に画像化する方法を用いました。
ニトロキシルラジカル分子に含まれる窒素の中性子の数が異なる同位体は,電子常磁性共鳴現象による電磁波のエネルギー吸収特性(スペクトル)が異なります【図1】。中性子の数が1つ異なるだけで化学的特性がほとんど同じニトロキシルラジカルの分子を目印に用いれば,2種類の目印の違いによる差は生じません。
今回,標的分子に付ける目印(同位体ニトロキシルラジカル分子)を電子常磁性共鳴イメージング装置で同時に測定し,別々に画像化する仕組みを開発しました。
画像化には,磁場中にある試料に電磁波を連続して照射し,特定の磁場で生じるエネルギー吸収を測定する電子常磁性共鳴イメージング法を用いました。また,測定されたデータから2つの同位体分子に由来するエネルギー吸収の信号を分離し,別々に画像化しました。
測定されたデータでは当初,目印となる同位体フリーラジカルに由来するエネルギー吸収の信号は一部重なり合っており,そのままでは画像化できませんが,飛び飛びの磁場で同様なエネルギー吸収が生じる超微細構造(用語解説3)の特徴を利用して,2種類の同位体フリーラジカル分子からの信号を分離する手法を新たに開発しました。
(研究成果)
一度の測定で,2種類の同位体フリーラジカル分子の画像が得られました。これまでは通常1種類のフリーラジカル分子のみしか画像化できなかったため,2種類のフリーラジカル分子を画像化するためには同じ実験を繰り返していました。しかし今回開発した技術により,一度に2種類の目印となる分子を画像化することに成功しました【図2】。
また,体の中で寿命が異なる2種類のニトロキシルラジカル分子をマウスに投与し,それぞれの分子の分布を時間経過とともに非侵襲的に追うことができました【図3】。
この画像化技術を用いれば,2つの標的となる分子に特性の差がない同位体ニトロキシルラジカルを目印
に付けることにより,同時に体の中での動態を画像化することが可能になります【図4】。
(今後への期待)
今回の実験では,目印となる同位体フリーラジカル分子のみを画像化しましたが,標的となる2つの分子(例えば薬の分子)に目印を付けて,動物の体の中でどのように吸収,拡散,消失するかを同時に画像化する研究を進めます。3年以内に薬の分子に目印を付けて画像化する実証試験を行う予定です。
なお本開発は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】要素技術プログラムの開発課題「高速電子常磁性共鳴イメージング法の開発」(チームリーダー: 平田 拓)の一環として行われました。
用語解説
(1) フリーラジカル分子
ペアになっていない電子(不対電子)を有している分子のことで,本実験ではニトロキシルラジカルを使用しました。不対電子に由来するスピンを電子スピンと呼びます。
(2) 電子常磁性共鳴現象(電子スピン共鳴現象)
磁場(磁束の向きが上下方向であるとする)が印加されると電子スピンの向きは,上向きと下向きに分かれます(ゼーマン分裂)。その電子スピンのエネルギー準位の差に等しいエネルギーを持つ電磁波が照射されると,安定な準位にある電子スピンがエネルギーを吸収し高いエネルギー準位に遷移します。また,高いエネルギー準位にある電子スピンがエネルギー(電磁波)を放出し,安定な準位に戻ります。この磁気共鳴の現象が電子常磁性共鳴Electron Paramagnetic Resonance(電子スピン共鳴Electron Spin Resonanceとも呼ばれる)です。
(3) 超微細構造
電子スピンが近くの核スピンの影響を受け,ゼーマン分裂により生じたエネルギー準位が更に分裂することです。
ペアになっていない電子(不対電子)を有している分子のことで,本実験ではニトロキシルラジカルを使用しました。不対電子に由来するスピンを電子スピンと呼びます。
(2) 電子常磁性共鳴現象(電子スピン共鳴現象)
磁場(磁束の向きが上下方向であるとする)が印加されると電子スピンの向きは,上向きと下向きに分かれます(ゼーマン分裂)。その電子スピンのエネルギー準位の差に等しいエネルギーを持つ電磁波が照射されると,安定な準位にある電子スピンがエネルギーを吸収し高いエネルギー準位に遷移します。また,高いエネルギー準位にある電子スピンがエネルギー(電磁波)を放出し,安定な準位に戻ります。この磁気共鳴の現象が電子常磁性共鳴Electron Paramagnetic Resonance(電子スピン共鳴Electron Spin Resonanceとも呼ばれる)です。
(3) 超微細構造
電子スピンが近くの核スピンの影響を受け,ゼーマン分裂により生じたエネルギー準位が更に分裂することです。