札医大の研究室から(17) 當瀬規嗣教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)
人が生を受けてから亡くなるまで、休むことなく動き続ける心臓。ただ、その鼓動が“ドクンドクン”と一定のリズムで鳴る「仕組み」は、あまり知られていない。
心臓の鼓動はどのようにして起こるのか。専門に研究を続ける医学部細胞生理学講座の當瀬規嗣教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)
當瀬規嗣(とうせ・のりつぐ)
1959年滝川市生まれ。84年北海道大学医学部卒業。88年同大学院医学研究科修了、同医学部薬理学第2講座助手、94年札幌医科大学医学部生理学第1講座(現・細胞生理学講座)准教授、98年同教授、2006年~2010年同学部長を経て現職。
札医大の研究室から(17) 當瀬規嗣教授に聞く 2018/02/09
浅利:心臓の鼓動はどのようにして起こるのか。
當瀬:心臓のリズムは、その中に洞房結節という小さな部分がリズムを作って、いわば電気信号を発して心臓全体に伝えられる。この伝わる様子は心電図で観察することもできる。そのリズムを作り出すのは、20以上ある分子のうちのいくつかが決定権を持っている、ということまでは分かっている。
心臓の収縮やリズムを作り出す仕組みは解明されているが、このリズムをつかさどる分子がどれなのかというのは確定しておらず、世界的に論争の的になっている。
浅利:解明されていないことへの研究はどんなものか。
當瀬:私の師が研究していた頃から現在まで、大きく3つの学説が有力となっている。
私たちは、ナトリウムイオンとカルシウムイオンの2つが細胞の中に入っていく通路(イオンチャンネル)があって、そこを通過するタイミングによってリズムが生じるという考えを持っている。
人間の体内にはいくつものイオンがあるが、どのイオンチャンネルを通過して心臓のリズムが生み出されているのかを突き止めて、その遺伝子がもつ働きを明らかにするのが目標だ。
浅利:それらが解明されると、医療にはどのように役立てられるのか。
當瀬:例えば、心臓のリズムが一定ではなくなる不整脈は、突然心臓が止まってしまうリスクを抱えている。その治療法として、現在は胸の中にペースメーカーを埋め込んで効果を上げているが、電池切れなどのトラブルの対応による手術など、患者の負担は大きい。
心臓のリズムが生じるイオンチャンネルや分子の存在が特定されれば、その遺伝子を患者の体内に入れたり利用したりして心臓の再生に役立てるなど、新たな治療法が確立する可能性がある。
浅利:十勝の住民に向けて。
當瀬:若い頃に、十勝の足寄町で診療の手伝いをしていたことがあって、札幌などの大都市に比べて、地方では医療の置かれた環境が利便性の面などで大変厳しいのを実感していた。
そのときの経験は自分の中でも大きなもので、だからこそ今の研究に打ち込んでいるという気がしている。心臓の動きを突き止めて再生医療に役立てるといった研究が、少しでも良い方向にいき、医学が進歩すれば良いと願っている。