【研究発表】世界で初めて大腸がん幹細胞の機能維持に重要な糖転移酵素を発見!〜新たな大腸がん治療法の開発へ道を拓く〜

<研究の概要と成果>

 札幌医科大学医学部 病理学第一講座(廣橋准教授・鳥越教授)、および医学部 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座(竹政教授)の共同研究グループは、手術で切除した患者さんの大腸がん組織から、女王バチに相当する「がん幹細胞」を分離培養することに成功し、この細胞の遺伝子解析によって「がん幹細胞」に特徴的な標的分子を発見しました。

この分子は糖転移酵素の機能をもつ糖タンパク質で、正常組織にはほとんど発現がなく、大腸がんの「がん幹細胞」には高レベルに発現していました。この分子は「がん幹細胞」の表面タンパク質に特殊な糖鎖を付加することによって、がんの再発や転移を促進し、抗がん剤に対する耐性を増強していることがわかりました。この分子の発現や機能を抑制すると、がん細胞の腫瘍を作る能力が減弱し、抗がん剤の効果が高まることから、「がん幹細胞」を狙い撃ちする治療において最適の標的分子であると考えられます。

本研究成果は、国際科学誌Oncotargetに、2017年11月21日にオンライン版で発表されました。

<研究のポイント>

がんをハチの巣に例えると、がん細胞の中には「がん幹細胞」とよばれる女王バチに相当する細胞が存在していることが知られています。がん幹細胞は、高度の抗がん剤耐性能力、自己再生能力、転移能力を持っているため、がんの治療抵抗性と再発・転移の主犯細胞であると考えられていますが、その詳細な特徴については未知のままでありました。本研究は、ヒト大腸がん幹細胞の維持に重要な役割を果たしている糖転移酵素を世界で初めて発見し、大腸がん幹細胞の糖タンパク質を標的とする新たな治療法に道を拓きました。

 

<研究の背景>

 大腸がんは世界中で最も患者数の多いがんの1つで、日本では部位別がん死亡率において男性の第3位、女性の第1位を占めており、年々増加傾向にあります。大腸がんの治療としてさまざまな化学療法が開発されていますが、再発・転移を来した進行大腸がんに対する効果は限定的です。近年、がん細胞の女王バチに相当する「がん幹細胞」の存在が治療抵抗性の主要な要因であることがわかり、がん幹細胞を標的とする新たな治療法の開発が期待されています。しかし、「がん幹細胞」の正体は依然として謎のままでした。

<今後の展開>

 今後、この「がん幹細胞」標的分子の発現や機能を阻害する薬剤の開発、および免疫細胞を介して「がん幹細胞」を狙い撃ちする免疫療法の開発によって、副作用がなく効果的にがんの再発や転移を抑制できる治療法の確立を目指します。

 

<掲載論文>

ST6GALNAC1 plays important roles in enhancing cancer stem phenotypes of colorectal cancer via the Akt pathway
Tadashi Ogawa, Yoshihiko Hirohashi, Aiko Murai, Toshihiko Nishidate, Kenji Okita, Liming Wang, Yuzuru Ikehara, Tetsuta Satoyoshi, Akihiro Usui, Terufumi Kubo, Munehide Nakastugawa, Takayuki Kanaseki, Tomohide Tsukahara, Goro Kutomi, Tomohisa Furuhata, Koichi Hirata, Noriyuki Sato, Toru Mizuguchi, Ichiro Takemasa, Toshihiko Torigoe
 (Oncotarget 2017, in press, http://www.impactjournals.com/oncotarget/index.php)

 本研究は、国立研究開発法人AMED次世代がん医療創生研究事業と日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けて実施された研究です。
 

<本件に関するお問い合わせ先>

 

所属・職・氏名:札幌医科大学医学部 病理学第一講座 教授・鳥越俊彦

TEL:011-611-2111 (内線26900)           

FAX:011-643-2310

E-メール:torigoe@sapmed.ac.jp

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情報発信元
  • 医学部病理学第一講座