札医大の研究室から(7) 高野賢一准教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)
われわれの耳を通して音が聞こえる仕組みはどういったもので、その音が聞こえにくくなる難聴にはどういった種類があるのか。
また、その治療法にはどういったものがあるのか。「聞こえ」を左右するそれらについて、医学部耳鼻咽喉科学講座の高野賢一准教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)
高野賢一(たかの・けんいち)
1975年長野県生まれ。2001年札幌医科大学医学部卒業。11年~12年米国イェール大学医学部免疫生物学部門留学。16年11月から現職。
札医大の研究室から(7) 高野教授に聞く 2017/4/14
浅利:音が聞こえる仕組みはどんなものか。
高野:空気の振動である音は、まず外耳道を経て鼓膜に届き、鼓膜の振動が耳小骨という小さな骨の振動となり内耳に到達する。内耳は音の振動を電気信号に変えて神経を刺激する。その刺激が脳に伝わることで「聞こえ」を得ることができる。
浅利:音が聞こえづらくなる「難聴」の原因と種類は。
高野:聞こえの経路のどこかが障害されると、難聴の原因になる。耳あかが詰まったり鼓膜に穴が開いたりしても聞こえづらくなるし、突発性難聴やメニエール病、加齢性難聴など内耳の病気も挙げられる。
そのほか、遺伝性難聴もある。実は遺伝性疾患の中で最も多い疾患で、1,000人の出生に対して1人の割合で重い難聴をもった子が生まれるといわれている。
浅利:それらの治療法にはどのようなものがあるか。
高野:突発性難聴やメニエール病など薬で治すことができるものもあれば、中耳炎や耳の形態異常のように手術で治療が可能な病気もある。加齢性難聴や遺伝性難聴では、聴力そのものを回復させることは難しいので補聴器で音を入れることになる。どちらの疾患も蝸牛(かぎゅう)にある音を感じる感覚細胞が障害されていて、いまの医学ではその細胞自体を回復させることは難しい。
浅利:補聴器で聞こえを回復できない人に有功な治療法はあるか。
高野:感覚細胞の機能がある程度残っている人には人工中耳、あまり残っていない人には人工内耳を使うことができる。人工内耳の場合、聞こえの目安としては大体両側90デシベル以上(目の前を電車や大型トラックが通っても聞こえないくらい)の難聴の方が適応となる。生まれつきの難聴の子どもだと、1歳から人工内耳手術を受けられるようになっている。
人工中耳は音の振動をより内耳に近いところで伝えるもので、補聴器の進化版ともいえる。人工内耳は蝸牛の中に直接電極を入れて、内耳の神経を電気で刺激することで、脳が聞こえを認識できる。どちらも手術が必要となるが保険適用となる治療法で、こうした新しい治療法が誕生したことで、劇的に難聴治療が進歩したといえる。
どういった治療法が良いかは、患者さんの難聴の程度や原因によって異なるため、患者さんごとに選択していくことになる。
浅利:十勝の人たちに向けて。
高野:難聴は身近な疾患のひとつ。特に小さな子どもの場合は言語発達にも大きな影響を及ぼすので、いかに早く周囲が難聴に気付いてあげられるかが重要になってくる。音が聞こえないというのは、予想以上にQQL(生活の質)を下げてしまう。難聴の医療は着実に進歩している。お困りであれば、まずはお近くの医療機関を受診することをお勧めしたい。