札医大の研究室から(6) 堀尾教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 筋力が徐々に低下し、歩行や呼吸が困難になるケースのある(遺伝性)筋ジストロフィーの根本的な治療法は、現在もまだ見つかっていない。だがその症状の進行を遅らせる可能性を持つ長寿遺伝子(サーチュイン)の研究が行われている。
 新たな治療法として注目される研究に取り組む医学部薬理学講座教授で、医学部長を務める堀尾嘉幸教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)



 堀尾嘉幸(ほりお・よしゆき)

 1955年大阪府生まれ。81年弘前大学医学部卒業。85年大阪大学大学院医学研究科修了、同医学部薬理学第2講座助手、88年スタンフォード大学客員教授、94年同医学部薬理学第2講座講師、97年同医学部薬理学第2講座助(准)教授、99年札幌医科大学医学部薬理学講座教授、2014年から同医学部長。

札医大の研究室から(6) 堀尾教授に聞く 2017/3/3


浅利:筋ジストロフィーとはどんな病気か。
堀尾:筋肉が破壊・変性と再生を繰り返す遺伝性の疾患で、変異する遺伝子の種類により生命に関わる重篤なものから特に自覚症状がないものまで、さまざまなタイプが存在する。
 中でも「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」は、次第に筋萎縮と筋力低下が進行する疾患で、根本的治療法がない難病だ。寿命が普通の人よりも短く、著しく日常生活が制限される。命に関わる問題として呼吸不全やそれに伴う感染症、さらに心筋の障害による心不全がある。

浅利:新たな治療法とされるのはどんなものか。
堀尾:これまで、副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)が唯一の薬物で、病状の進行を2年程度遅らせることができる、といわれていた。最近になり、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを持つ動物モデルに対して、長寿遺伝子が作るタンパク質「レスベラトロール」が骨格筋と心筋に治療効果を持つことを見いだした。

浅利:レスベラトロールが持つ効用や研究はどんなものか。
堀尾:ブドウやピーナッツの皮などに含まれるポリフェノールの1つであるレスベラトロールは、体内の脂肪を燃焼させ、体の糖(グルコース)の利用を促進するほか、免疫反応を抑制したり壊れたDNAを修復したりする働きが知られている。動物を使った研究でも、一部このようなことが証明されている。

 私たちもレスベラトロールの働きに注目し、心臓の働きが自然に悪くなるようなハムスターにレスベラトロールを投与すると、心筋酸化ストレスが下がり心肥大や心筋線維化が抑制され、さらに寿命も有意に伸びることを見つけた。この研究が、今回の筋ジストロフィーの研究につながっている。レスベラトロールは筋ジストロフィーの筋肉の力を増したり、心臓が悪くなることを抑制したりした。

浅利:長寿遺伝子とはどんなものか。
堀尾:もともと酵母で見つかった遺伝子で、酵母にその遺伝子を多く持たせると寿命が延び、逆にその遺伝子を取り除いてしまうと寿命が短くなる遺伝子のこと。この遺伝子は体の中でタンパク質に変えられ、このタンパク質は細胞の中で他のたくさんのタンパク質の機能を変えるような働きをしている。
 ただし、この長寿遺伝子が私たちの体でも長寿をもたらすかどうかは、よく分かっていない。だが、その活性化により体の酸化ストレスが下がったり、筋肉の力が増したり、心臓の不具合が抑えられたりする働きは分かっている。

浅利:十勝の人たちに向けて。
堀尾:札幌医科大学は北海道の地域医療を支え、地域を担う医師を養成して送り出す機関だが、同時に明日の医学をもっと良いものにする研究を活発に行う大学でもある。筋ジストロフィーの新たな治療法をはじめ、皆さんに貢献できるよう努力を続けていくので、今後もご支援を頂ければ大変うれしく思う。

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