札医大の研究室から(5) 下濱教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 老若男女問わず多くの人が気にする「物忘れ」と「認知症」。病気に分類されない物忘れと、病気である認知症との違いは何で、その境目はどこにあるのか。専門分野として研究を続ける、神経内科学講座の下濱俊教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)



下濱俊(しもはま・しゅん)

 1956年東京都生まれ。81年京都大学医学部卒業、87年同大学院医学研究科修了、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部神経科学部門研究員。2000年京都大学大学院医学研究科脳統御医科学系専攻脳病態生理学講座臨床神経学領域講師、01年同准教授を経て、06年から現職。

札医大の研究室から(5) 下濱教授に聞く 2017/2/10


浅利:「物忘れ」と「認知症」の違いは何か。
下濱:「物忘れ」は、さっき聞いたことを忘れてしまうとか、昨日の出来事を忘れてしまうといった記憶障害の一種。「認知症」の場合は、それに加えて洋服を着られなったり、計画を立てて実行・決断といった社会生活を営む上で必要な複数の認知機能が障害されて支障をきたすようになったりする状態をいう。
 例えば、前日に日ハムの野球観戦をして、ピッチャーが誰か思い出せないのは「物忘れ」で、行ったこと自体を忘れてしまうのが「認知症」だ。

浅利:認知症の判断はどのように行うのか。
下濱:ご家族が、今まで見られなかった言行や感情の変化が気になるとか、置き忘れや同じことを繰り返し聞くといったことが多くなり、心配して受診するケースが多い。診断では、例えば今日の年月日を言ってもらう、3つの言葉を挙げて別の会話を挟んで再度質問する、などといった簡単な神経心理テストを行い、見当識や記銘力が障害されていないかを診る。

浅利:診断されてから重要なことは何か。
下濱:原因が何かを明らかにすることが、非常に重要だ。ひと口に認知症と言っても、全体の約6割を占めるアルツハイマー型のほか、脳梗塞や脳出血後に起こる血管型、パーキンソン病のような症状をきたすレビ-小体型など幾つかある。ほかに、転倒して数か月たって物忘れ症状が出るケースもあるが、この場合は外科的処置で元の状態に戻る。コンピューター断層撮影(CT)やMRI検査で脳の形態異常の原因を明らかにした上で、適切な治療やケアをすることが重要だ。

浅利:本人や家族に必要なのはどんなことか。
下濱:アルツハイマー型をはじめ認知症は、現代医学でも完治や進行を食い止めることは難しいが、早期の診断と発見により投薬などで進行を抑制することが可能になっている。また、脳血管障害や糖尿病、高血圧といった生活習慣病を合併していると進行を早めるので、それらの治療や適度な運動、食事の見直しも有効だ。
 家族はどうしても認知症になる前の状態を思い出し「どうしてこうなったのか」「しっかりして」などといいがち。まず、認知症という病気なんだということを理解して、しからないなど適切な接し方を知ることがとても大切になってくる。

浅最後に、十勝の読者に向けて。
下濱:2025年には日本の認知症患者は700万人を超えるといわれている。誰しも年齢を重ねると、物忘れの症状が出てくるのは自然なこと。一人で悩まず、かかりつけ医の紹介などで「もの忘れ外来」を始め神経内科や精神科、脳外科といった脳の疾患の専門外来を訪ねてほしい。
 そして、病気とどう向き合い、過ごしていくかは、デイケアをはじめとした福祉施設や行政でも相談できるので、それらを積極的に利用して、本人も家族も無理のない介護など長い目で見通していくことが大切だ。

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  • 経営企画課 企画広報係