【研究発表】障害誘導性のマウス肝前駆細胞を同定
<研究の概要>
札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門 准教授・谷水 直樹らの研究グループ(教授 三高 俊広)は、マウスの障害肝臓に出現する肝前駆細胞をSOX9(+)EpCAM(-)CD24(+)細胞として同定しました。
肝障害を誘導する餌(DDC-diet)をマウスに与えると、肝細胞の一部がSOX9(+)肝前駆細胞に変化します。その中でCD24を発現するようになった細胞がより高い増殖能と成熟肝細胞への分化能を有していました。また、肝臓へ移植すると、肝臓内に生着して増殖し、成熟肝細胞になることが分かりました。
① この研究は文部科学省科学研究費補助金のもとで行われたもので、その研究成果は、Scientific Reports(サイエンティフックレポート)に、2017年1月4日付で発表されました。
<研究のポイント>
- 肝臓が慢性的に障害を受けると、肝細胞の機能・再生能力が低下します。
- 重篤な肝疾患では、肝幹細胞が活性化して再生に寄与すると考えられていますが、肝細胞分化能は必ずしも高くありません。
- 成熟肝細胞の一部がSOX9(+)に変化し、さらに増殖能の高いSOX9(+)CD24(+)肝前駆細胞となることが明らかになりました。
- SOX9(+)CD24(+)肝前駆細胞は、従来、肝幹細胞として報告のあるEpCAM(+)細胞と比較して、肝細胞への分化効率が非常に高いことが明らかになりました(図2)。
- SOX9(+)CD24(+)肝前駆細胞は、in vivoにおいて成熟肝細胞に分化しました。
- 慢性的に障害を受けた肝組織において、肝細胞を供給し再生に寄与する可能性のある前駆細胞を同定することができました。
<研究の背景・実施期間など>
肝臓は再生能力の高い臓器です。しかしながら、慢性的に障害された肝臓では、再生能力が低下し、成熟肝細胞の機能も低下しています。このような状況では、主に肝臓の組織幹細胞である肝幹細胞が活性化され、肝細胞に分化することで機能回復・組織修復に寄与していると考えられていました。ところが、近年の研究では、この肝幹細胞は肝細胞分化能が低いことが認識されるようになっています。
我々は、成熟肝細胞の一部が脱分化し、健常時には胆管上皮細胞(肝臓の上皮細胞の一つ)特異的に発現しているSOX9を発現するようになることを以前報告しました。今回、さらにSOX9(+)肝細胞がCD24(+)に変化することで、成熟肝細胞への分化能を保持したまま、より高い増殖能を獲得することを見出しました。
<研究の意義・これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>
慢性的に障害を受けた肝臓において、成熟肝細胞の一部が分化可塑性を示して脱分化し、前駆細胞に変化すること、さらにそれらの細胞が増殖能を持ち、肝細胞に容易に分化することが明らかになりました。これらの細胞の増殖や肝細胞分化を制御できれば、慢性的に障害された状態からの肝再生を促進できる可能性があります。
<本件に関するお問い合わせ先>
所属・職・氏名:札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門・准教授・谷水 直樹 TEL:011-611-2111(23910) FAX: 011-615-3099 E-メール:tanimizu@sapmed.ac.jp |