札医大の研究室から(1)鳥越教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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医学部 病理学第一講座 教授 鳥越俊彦(とりごえ・としひこ)

 1960年鳥取県生まれ。84年防衛医科大学校医学科卒業。90年米国ペンシルバニア大学医学部研究員、92年米国ラホーヤがん研究センター研究員、93年自衛隊札幌病院診療科などを経て2001年より同大学同学部病理学第1講座助(准)教授。15年から現職。

札医大の研究室から(1) 鳥越教授に聞く 2016/10/14

 がん細胞には“女王バチ”の役割を果たす幹細胞と“働きバチ”細胞があり、あくまで幹細胞を退治しない限りがんの根治や予防はできない-。そんな研究が札医大で進められている。
 医学部病理学第1講座の鳥越俊彦教授に「がん幹細胞とがんの予防医学」について聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

浅利:「がん幹細胞」とは、どのようなものか。

鳥越:がん組織を形成するがん細胞は、いわゆる“働きバチ”だけだと考えられていたが、最近の研究で“女王バチ”に相当するがん幹細胞の存在が明らかになった。いわゆる幹細胞は、組織の修復再生を担う正常細胞にもあって、ストレス耐性が強いという特徴がある。善玉か悪玉かの違いはあれ、その強さを持つ点で共通している。

浅利:がん幹細胞はどのような影響を及ぼすのか。

鳥越:いくら抗がん剤や化学療法で働きバチのがん細胞を退治しても、女王バチであるがん幹細胞が存在する限り、それが再び巣を作ったり、他の臓器などに飛んで巣を作ったりしてしまう。
 だから近年世界のがん研究では、働きバチは放っておいて女王バチであるがん幹細胞の退治に重きを置くのが主流になっている。

浅利:そのがん幹細胞を見つけ出す研究は、どの程度進んでいるのか。

鳥越:がん幹細胞は、抗がん剤にも化学療法にも抵抗力があり手ごわい相手なので、免疫の力で抑制する研究を進めている。私たちの研究で、がん幹細胞だけの目印として、男性の精巣にしか見られない特殊な遺伝子を持つことが明らかになり、それを約6種類見つけることができた。
 この目印をワクチンとして免疫することで、がん幹細胞をねらい撃ちする「がん予防ワクチン」の開発を進めている。

浅利:「がん予防ワクチン」のもつ特長はどのようなものか。

鳥越:今までは、例えば乳がんの場合、手術によってがんの主病巣を完全に取り切った後でも、ミクロレベルで他臓器へ転移している場合があるため、厳しい抗がん剤治療を強いられていた。しかし、このワクチンを投与すれば「細胞障害性T細胞」という、がん幹細胞を直接退治する細胞を活性化させることで、ミクロレベルのがん幹細胞を見つけて攻撃できるので、副作用の厳しい抗がん剤治療を行う必要がなくなる。
 近年「ニボルマブ」という免疫抑制を解除する新しい免疫治療薬が開発され、現在国内では悪性黒色腫と肺がん、腎がんの治療に承認されているが、効果が期待できるのは約3割のがん患者で、しかもがん予防効果は期待できない。また、1回の投与で約150万円と高価で副作用もある。「がん予防ワクチン」が実用化されれば、私たちが重きを置く「がんの治療だけでなく予防」が可能になり、安価かつ副作用もないというメリットがある。

浅利:最後に、十勝の読者に向けて。

鳥越:再生医療や免疫細胞療法などといった最先端の医療を施すには特殊な施設が必要で、道内では札幌に集中している現実がある。しかし、私たちが目指すワクチンは、どこの町のクリニックでも注射1本で簡単かつ安価に治療や予防が施せる。
 予防医療の確立とともに、医療の地域格差や貧富格差を解消する薬であることも目指しているので、今後に期待してほしい。

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