札医大の研究室から(2) 舛森教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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医学部泌尿器科学講座 教授 舛森直哉(ますもり・なおや)

 1964年胆振管内むかわ町生まれ。88年札幌医科大学医学部卒業。94年同泌尿器科学講座助手、98年米国バンダビルド大学研究員、2001年札幌医科大学医学部泌尿器科学講座講師、06年同助教授を経て、13年から現職。

札医大の研究室から(2) 舛森教授に聞く 2016/11/11

 心の性と身体の性が一致しない「性同一性障害(GID)」。近年メディアなどで取り上げられる機会が増えたが、ごく身近に悩みを抱える当事者が多くいるといった現実は、あまり知られていない。
 2003年に道内で唯一専門外来を立ち上げてチーム医療に取り組んでいる、医学部泌尿器科学講座の舛森直哉教授に話を聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)

浅利:「性同一性障害」とは何か。

舛森 人は生まれる際、身体的性別の典型として男性と女性がある。そこに性の自己認識(性自認)という心の性別も重なり、それらが一致していると自覚する人が割合的には多い。しかし、生まれつき身体の性別と性自認が一致しないと感じる人がいて、その状態だと定義している。

浅利:そのメカニズムは分かっているのか。

舛森:明確には分かっていないが、胎児期の脳の性分化の過程で何らかの原因により身体と心の性にずれが生じるためではないかと考えられている。親の育て方が悪いとか、そういった後天的な要因で性自認が変わるわけではない。

浅利:どのくらいの割合の方がいるのか。

舛森:はっきりとした統計はないが、私たちが13年前に専門外来を始めてから500人以上の方が受診している。北海道の人口が約540万人なので1万人に1人はいることになるし、受診していない人を含めると世間一般に思われているよりもはるかに多いだろう。

浅利:性同一性障害と同性愛についても混同されがちだが、その違いは。

舛森:L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)T(トランスジェンダー)などと分類されることもあるが、前の3つは性自認に不一致はない性的指向。トランスジェンダーがすべてGIDとは限らないが、性同一性障害は、性自認そのものに違和感がある状態。性自認と性的指向は分けて考えなければならない。

浅利:GID治療はどのようなものか。

舛森:以前は、精神科で心の性別を身体の性別に合わせようとする治療が行われていたが、現在は、心の性別に身体の性別を合わせようとする治療が原則。性ホルモンを投与することで心の性別に近づけるが、外性器は大きくは変化しないので、外陰部の改変を望む場合には性別適合手術を行うこともある。

浅利:治療での問題点は。

舛森:現在それらの治療は健康保険適用外のため、かなり高額な治療や入院費がすべて自己負担になる。そのため、手術料金の安い海外で行う人もいるが、合併症などのリスクが高い。現在、これら治療の保険適用を求めて関連学会などと連名で厚労省に要望書提出の準備を進めている。保険適用によって治療の敷居が下がるだけでなく、一般的な理解も進むと期待している。

浅利:最後に、十勝の読者に向けて。

舛森:以前より理解は進んできていると思うが、まだまだ差別や偏見は存在する。たとえば性別を記入する際やトイレの問題など、当事者は日々の生活で生きづらさに直面している。まず「そういう人がいる」と知ることが大切。道内での専門外来は私たちだけという状況で、今後は受け皿の少なさも変わっていけばと思う。

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