平成31年(2019年)塚本理事長・学長による年頭挨拶
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平成31年(2019年)1月4日、札幌医科大学臨床講堂において、塚本泰司理事長学長から、学内教職員に向けて、新年の年頭挨拶がありました。以下に、塚本理事長・学長からの年頭挨拶を掲載します。
<年頭挨拶>
皆さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。本年も札幌医科大学に関係する皆さんにとって良い年であることを願っています。
昨年は、台風、地震など大規模な自然災害が目立つ年でした。北海道でも胆振東部地震は地域に大きな被害をもたらしました。この災害で亡くなった方々に心からお悔やみ申し上げるとともに、被災された皆様にもお見舞い申し上げます。一刻も早く通常の生活環境が確保されることを願っています。
この災害に対しては、本学の救急医学講座を中心としたDMATチームも災害支援の主要なメンバーとして被災者の救援・支援に大きな力を発揮いたしました。大学を代表して深く感謝致します。
大学、附属病院周辺は、大規模停電といういわば想定外の事態の影響を受けました。しかし、新しく改訂した危機対策マニュアルなどに従い、防災意識の高い多くの教職員の皆さんが迅速かつ的確に動き、重大な問題が生じなかったことは不幸中の幸いでした。
日頃からの備えと同時にその備えが災害時に本当に機能するのかを、平常時に訓練・点検しておくこともまた重要であることを再認識させられました。
昨年の大学の明るい話題として何よりもまず挙げられるのは、フロンティア医学研究所の神経再生医療学部門で研究が行われてきた自己骨髄間葉系幹細胞治療薬の製造・販売が、昨年12月28日に国から正式に承認されたことです。
この研究は、先進的な研究をいち早く実現するために設けられた国の先駆け審査指定制度の第1号として取り上げられ、昨年6月に申請後、11月の審査を経て12月に「条件付及び期間付承認」を受けました。世界で初めて臨床で使用可能となった背髄損傷に対する画期的な細胞治療薬です。この細胞治療の開発を進めてきた本望教授、脊髄損傷の臨床試験の責任者である山下教授、知財関係を円滑に進めてこられた石埜教授、さらにこの細胞治療薬の開発に携わってきた全ての研究者の皆さん、事務局の皆さん、さらには共同で研究を実施してきたニプロ株式会社に、大学を代表してその成果を祝福します。
さて、平成の時代が終わり新しい時代へと移る時期に、大学法人としての本学も今年4月から第3期目の中期計画のスタートを切ります。4月からは私自身、理事長・学長としての4年の任期の仕上げの年でもあり、大学の重点課題を速やかに解決に持って行けるように努力したいと考えています。
以下、大学の組織全般にかかわることから始め、教育、研究、臨床の順でそれぞれの課題について私なりの考えを明らかにし、皆さんと共有したいと思います。
【大学全般】
まず、大学全般に関することから始めたいと思います。
昨年4月、三浦医学部長、大日向保健医療学部長、土橋附属病院長、相馬医療人育成センター長が新たに選出されました。これら4人の先生にはこの9か月間、大学あるいは附属病院の懸案事項の解決、目標達成に尽力してもらっています。それでもまだ、重要案件の検討あるいは解決が残っていますので、 引き続き大学の舵取りに御協力をお願いしているところです。
大学基準協会の認証評価では、昨年の3月に「大学基準に適合している」との評価認定を受けましたが、努力課題として大学のポリシーに関する改善すべき6つの事項の提言を受けています。これらの項目に関しては再来年の7月末までに改善報告書を提出しなければなりませんので、3期目の中期計画の進捗と合わせて進めて行きます。
また、昨年8月に行われた北海道地方独立行政法人評価委員会から、前年度においては概ね順調に進んでいるという「年度評価」をいただきましたが、いくつかの課題も指摘されております。さらに、「大学の運営に関する情報分析、政策分析の重要性」とそれを担う「IR」部門の設置に関しても言及がなされています。
今年度は、また、第2期中期計画期間の最終年度であり、年度末までにさらに行わなければならないものもありますが、全体を通じほぼ予定通り実施されたのではないかと考えています。ただし、若干の懸念事項もありこれについては後ほど附属病院に関するところでお話しします。
現在、今年4月からの第3期中期計画の策定を行っているところです。今後さらに、詳細を詰め北海道へ申請する予定でいますが、第3期中期計画期間中は現在進行している教育・研究施設IIと大学管理棟の建設、病院既存棟の改修などが予定されており、4年後には新しい教育研究施設が完成します。この際の懸念事項は、病院既存棟の改修に当たっては、病院業務を行いながら整備を進めて行かなければなりませんので、入院患者数の減少とそれに伴う病院収益が大幅に減収すると予想されることです。これに対する種々の方策をたてておく必要があります。この点については後ほど再度触れます。
昨年は国際交流の面でも新たな動きがありました。夏には、北海道の御配慮と御支援により、サンクトペテルブルグ国立大学との相互交流を開始する機会を得ました。他の地域の複数の大学との相互交流も計画されており、現在、国際交流委員会で交流の細部を検討しています。新しい中期計画にも国際交流の拡大が目標として挙げられており、委員会のこれからの活動に期待したいと思います。
大学教育・研究施設の整備に関しては順調に進んでいます。附属病院西病棟の増築を含めた主な部分はほぼ工事が終了しています。
昨年7月の附属病院の移転に際しては、皆さんの周到な準備と的確な行動により大きな混乱もなく終了したことに改めて感謝いたします。西病棟の評判は非常によく、特に個室は希望者が多いと聞いています。ようやく他の大学病院並みになった感があります。
【教育】
1)医療人育成センター
さて、大学における教育のうち、教養教育における課題として、この数年にわたり医療人育成センターの組織のあり方を検討してきました。この間、両学部の入学者選抜における実施体制のあり方が問われる状況もありました。このような事態の再発を防止するために、入学者選抜に関する組織体制を点検し、整備することの必要性が高まりました。その一環として医療人育成センターとアドミッションセンターとの一層の協力体制を図るために、アドミッションセンターを医療人育成センターの入試・高大連携部門として位置づけることとしました。それは、今後の高校との連携あるいは入学試験の改革のスピードとその内容に的確に対応するためでもあります。
また、医療人育成センターにIR (institutional research) 部門を設置します。既に述べたように、今年度の法人評価委員から同様の助言をいただきました。IRについては既に良くご存知でしょうが、大学の運営に役立つ情報を収集、分析し内外に発信する役割を担うものです。
私達の大学では、これまで教育、特に学生に関する色々な情報が時に組織あるいは部門を横断して伝達されない場合があり、いくつかの場面で不都合が生じていました。IR部門でこうした情報の一元化を図ることにより、本学の教育の質を一段と高めることができると考えています。
また、ある地域で本学の卒業生が、現在、何人くらい医療人として勤務しているのかという具体的な数字は、公式には全く把握できていません。医育機関の中では、最も多くの優秀な医療人を派遣し、地域医療を支えている本学としては残念な状況です。このような情報の収集とそれを基にした評価もこの部門の今後の大きな業務になります。この部門の活動が軌道に乗れば、さらにその業務の守備範囲の広がりが期待できます。
高校生の生徒数が減少して行く中で、医療系大学に相応しい入学者を確保し、将来の医療者としての意識を持って専門教育に向かわせるには、どのような教養教育が求められているのかを、今後とも模索して行かなければなりません。その意味で、医療人育成センターの組織改組は単なる組織替えとすることなく、これが両学部の教養教育における新しい出発点となることを願っています。
2)保健医療学部
保健医療学部では保健師専攻課程の開設も、教員の選考も含め順調に進行中です。この課程の開設が必要とされる背景については昨年の年頭の挨拶でも触れました。地域医療のみならず医療全体を、医療機関や地域の住民の方々とともに維持していくためには、行政との協力関係が不可欠でありそのキーパーソンになるのが保健師であるというのが背景にあります。来年4月からの開設に向けてその準備を加速させなければなりません。
3)医学部
来年受審を予定している医学部の医学教育分野別評価への準備状況では、評価委員会の体制が整い、項目ごとに動きが活発化しています。昨年からは新しい形態での診療参加型臨床実習、また学外委員を含む医学部ステークホールダー懇談会の設置などにも着手しています。今後は自己点検・評価を本年中に行い問題点の把握に努めて行く予定です。これらの検討を基に関連する体制の見直しなどを進め、受審に向けた動きを加速させたいと思います。
【研究】
次は、大学における研究についてです。冒頭でも触れたように、昨年の大きなトピックは本学フロンティア医学研究所の本望教授が進めてきた自己骨髄間葉系幹細胞治療薬の脊髄損傷に対する治療薬の製造・販売が、12月28日に承認されたことです。世界に誇ることのできる治療薬が本学から誕生したことは、大学をあげて称賛すべきことであります。
大学の基本方針は研究重視であることは間違いありません。医学・医療の攻究の最新の成果を地域医療にもたらすことこそが地域医療を支えることにつながると信じています。そのような中、昨年4月から「臨床研究支援センター」を設置し、事務部門においても臨床系と基礎系を統合し円滑な研究支援を行うべく研究支援課を新設しました。これらのことはいずれも大学における研究を重視していることを示すものに他なりません。
しかし、まだまだ不十分であることは理解しています。特に、認定臨床研究審査委員会の設置に向けた早急な対応が迫られています。この組織の設置については人員、予算確保など乗り越えなければならない課題が山積しています。何とか今年度中には設置の目途をたてたいと思っています。治験センターなどの状況も合わせ考えながら、設置に向けて努力していきたいと考えています。
昨年7月、フロンティア医学研究所の設立から5年経過したこと、さらにはこの研究所で行われている研究成果を対外的に情報提供することを目的にシンポジウムを開催しました。当日は、国立がん研究センター理事長の中釜斉先生をお招きし「ゲノム情報に基づくがんゲノム医療の実現と将来展望」と題する特別講演をいただきました。また、フロンティア医学研究所からは、小海教授、本望教授、時野教授の3教授からそれぞれの部門における最新の研究成果を報告してもらいました。内外、127名の参加が得られ本研究所の研究成果をアピールできたのでないかと思っています。このシンポジウムは毎年開催していくこととし、その都度半数の部門からの研究成果を発表してもらう予定でいます。今後ともこの研究所からの成果発表に期待したいと思います。
【臨床】
1)附属病院における診療
附属病院における診療について触れます。全国の大学附属病院は現時点では高度急性期医療機関と位置づけられ、本病院もそのような機能を発揮しています。主にがんに対するロボット支援手術、腹腔鏡手術、腎臓移植、大血管疾患に対する手術、血管内手術、その他多くの手術が多くの診療科で行われています。
今後は、さらに以下に述べる3つについての対応が必要と考えています。
1つ目は、脊髄損傷に対する自己骨髄間葉系幹細胞治療で、この治療は当面、本附属病院のみにおいて行われると思われます。今の時点では、実際に、いつ治療が開始可能となるのかは不明ですが、既に、病院長を中心としたメンバーが対応の道筋を想定しており、さらにこれを本格的なものにするための準備をしています。そのため、神経再生医療科、整形外科ばかりではなく関連する多くの診療科、看護部、リハビリテーション部の強力なバックアップが必要なると思われますので、病院一体となった御協力をよろしくお願い致します。
2つ目はがんゲノム診断が保険適用となったことで、がんゲノム診療の拠点病院の1つである本附属病院では、これまで以上にその検査を希望する患者さんが遺伝子診療科を受診することが予想されます。がんの診断・治療に関係する診療科の協力体制が、一層、重要になりますが、附属病院としてもこのような患者さんのニーズに的確に応えたいと思います。
3つ目は脳卒中・循環器病対策基本法の成立で、これは附属病院にとっても重要です。よくご存知のようにがん対策基本法の成立はがんの診断、治療に関する裾野の充実に大きく貢献したと言われています。そのような意味で、今回の脳卒中・循環器病対策基本法の成立を機に、附属病院が率先してできることを検討して欲しいと思っています。
2)附属病院の経営
附属病院の経営について述べたいと思います。附属病院の収益は4年ほど前から楽観できない状況が続いています。
今年度もこれまで以上に厳しい状況にあります。年度前半は計画を大幅に下回る結果となり、また9月の胆振東部地震の影響もあり例年と比較してもマイナス幅の大きい状態が続きました。10月、11月はやや持ち直して、入院あるいは外来患者単価も高水準に達しはしましたが、入院患者数の減少傾向は依然として継続しています。
機会あるごとに述べていますが、附属病院が目指す第一の目標は患者さんに最良の医療を提供することであり、利益を出すことではありません。しかし、適切な病院の収益、適切な利益確保は大学あるいは附属病院の次の事業を展開する上では不可欠です。さらに良質な医療を患者さんに提供するための礎となります。どうぞ、これらの点を再度ご理解いただければと思います。
病院の医師の働き方改革も全国的に大きなうねりとなってきています。附属病院でも病院長を中心にどのような対応が現実的に可能か検討してもらっています。私達自身がこれまでの医師の労働環境を見直すと同時に、その改革を是とする社会環境も必要です。既に、患者さんの御家族への病状の説明は通常の勤務時間内に行いますという掲示が病院内に出されています。医師の働き方改革への一歩と考えています。より良い環境造りが若手医師を大学付属病院に定着される要件になってくると思われます。
最後になりますが、最近、国立大学では1つの大学法人が複数の国立大学を運営するといういわゆる「アンブレラ方式」が検討され現実のものとなりつつあります。このような動きは私達にも影響を与える可能性があります。しかし、最も重要なことは、どのような状況になろうとも本学の存在価値を外部に強く認めさせるように、教育、研究、臨床での成果を示して行くことであると考えます。そのためには、「医学・医療の攻究」を一層推し進めることが必要と考えています。そして「医学・医療の攻究」の推進には、大学、附属病院の全ての教職員の力の結集が不可欠です。これなくしては、「最高レベルの医科大学」を実現することはできません。
今後も難問が続出すると思いますが、皆さんの叡智を集めることで乗り切ることが可能と強く信じています。本学のさらなる発展へ向けて、また3期目の中期目標の達成に向けて、一層のご協力をお願いし新年の挨拶とします。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
北海道公立大学法人札幌医科大学 理事長・学長 塚本泰司