【研究発表】医学部分子生物学講座 新沼猛講師・鈴木拓教授らの研究グループ 口腔がんの進展に関与するRNA分子を発見
~長鎖RNAがマイクロRNAと相互作用することでがん細胞の増殖を促進するメカニズムを解明~
<研究の概要>
札幌医科大学医学部分子生物学講座の新沼猛講師・鈴木拓教授らの研究グループは、同大学の細胞生理学講座・佐藤達也准教授、口腔外科学講座・宮﨑晃亘教授らとの共同研究で、口腔がん細胞の増殖を促進するRNA分子(LINC02154)を発見し、その作用機序を明らかにしました。
LINC02154は、細胞周期やミトコンドリア代謝に関わる遺伝子を制御することで、がん細胞の増殖を促進します。またLINC02154は、複数のマイクロRNAと相互作用することで、標的遺伝子を制御することも明らかにしました。これらの知見は、LINC02154を標的とした治療法につながる可能性が期待されます。
本研究成果は、2024年11月23日にCancer Science誌の電子版に掲載されました。
<研究のポイント>
● 口腔がん細胞の増殖を促進するRNA分子(LINC02154)を特定しました。
● LINC02154が、がん細胞の細胞周期やミトコンドリア代謝を司る遺伝子を制御することで、がんの増殖を促進することを明らかにしました。
● LINC02154は、複数のマイクロRNAと競合的に働くことで、細胞周期を司る遺伝子を制御することを明らかにしました。
● このRNA分子は新たながん治療の標的になる可能性があります。
<研究背景>
遺伝子はゲノムDNAからメッセンジャーRNAに転写され、さらにタンパク質に翻訳されることで機能します。しかし細胞の中にはタンパク質に翻訳されないRNA(非コードRNA)も数多く存在し、様々な役割を担っています。近年、短い非コードRNAであるマイクロRNAの分子機能や、疾患との関わりが明らかにされてきました。その一方、一万種類以上存在するとされる長い非コードRNA(lncRNA)の機能や存在意義については、まだ不明な点が多く残されています。
<研究方法>
公開されているがんゲノムデータベースを用いて約8000種類のlncRNAの発現を解析し、口腔がんで発現が上昇し、かつ予後不良と相関するlncRNAを抽出しました。口腔がん細胞株を用いた実験で、LINC02154が細胞の増殖や代謝に与える影響を解析しました。またLINC02154と相互作用するタンパク質やマイクロRNAを、質量分析法や次世代シークエンサーを用いて探索しました。
<研究結果>
LINC02154は正常組織ではほとんど発現しておらず、口腔がんで過剰に発現していることが分かりました。またLINC02154が、細胞周期やミトコンドリア代謝に関わる遺伝子の発現を制御することで、がんの増殖を促進することが分かりました。さらにLINC02154は複数のマイクロRNAと相互作用することで、その機能を発揮していることも明らかにしました。
札幌医科大学医学部分子生物学講座の新沼猛講師・鈴木拓教授らの研究グループは、同大学の細胞生理学講座・佐藤達也准教授、口腔外科学講座・宮﨑晃亘教授らとの共同研究で、口腔がん細胞の増殖を促進するRNA分子(LINC02154)を発見し、その作用機序を明らかにしました。
LINC02154は、細胞周期やミトコンドリア代謝に関わる遺伝子を制御することで、がん細胞の増殖を促進します。またLINC02154は、複数のマイクロRNAと相互作用することで、標的遺伝子を制御することも明らかにしました。これらの知見は、LINC02154を標的とした治療法につながる可能性が期待されます。
本研究成果は、2024年11月23日にCancer Science誌の電子版に掲載されました。
<研究のポイント>
● 口腔がん細胞の増殖を促進するRNA分子(LINC02154)を特定しました。
● LINC02154が、がん細胞の細胞周期やミトコンドリア代謝を司る遺伝子を制御することで、がんの増殖を促進することを明らかにしました。
● LINC02154は、複数のマイクロRNAと競合的に働くことで、細胞周期を司る遺伝子を制御することを明らかにしました。
● このRNA分子は新たながん治療の標的になる可能性があります。
<研究背景>
遺伝子はゲノムDNAからメッセンジャーRNAに転写され、さらにタンパク質に翻訳されることで機能します。しかし細胞の中にはタンパク質に翻訳されないRNA(非コードRNA)も数多く存在し、様々な役割を担っています。近年、短い非コードRNAであるマイクロRNAの分子機能や、疾患との関わりが明らかにされてきました。その一方、一万種類以上存在するとされる長い非コードRNA(lncRNA)の機能や存在意義については、まだ不明な点が多く残されています。
<研究方法>
公開されているがんゲノムデータベースを用いて約8000種類のlncRNAの発現を解析し、口腔がんで発現が上昇し、かつ予後不良と相関するlncRNAを抽出しました。口腔がん細胞株を用いた実験で、LINC02154が細胞の増殖や代謝に与える影響を解析しました。またLINC02154と相互作用するタンパク質やマイクロRNAを、質量分析法や次世代シークエンサーを用いて探索しました。
<研究結果>
LINC02154は正常組織ではほとんど発現しておらず、口腔がんで過剰に発現していることが分かりました。またLINC02154が、細胞周期やミトコンドリア代謝に関わる遺伝子の発現を制御することで、がんの増殖を促進することが分かりました。さらにLINC02154は複数のマイクロRNAと相互作用することで、その機能を発揮していることも明らかにしました。
<展望>
本研究は、LINC02154を標的とするがん治療法に応用できる可能性があります。また今回得られた知見は、まだ働きが分かっていないlncRNAの機能を研究するために役立つことが期待されます。
<謝辞>
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)、公益財団法人 武田科学振興財団、さっぽろ慈啓会共生(ともいき)助成事業の支援を受けて実施されました。
<用語解説>
長鎖非コードRNA (lncRNA):タンパク質に翻訳されないRNAの中で約200塩基異常の長さを持つもの。正常組織の分化、発生や癌の進行に関係する事が知られるようになってきている。
マイクロRNA:20数塩基からなる小さなRNA分子で、遺伝子の発現を調節する機能を持つ。現在数千個のマイクロRNAの存在が知られるが機能が明らかでないものも多い。
細胞周期:細胞分裂の過程で起こるDNAの複製、有糸分裂、細胞質分裂という一連の現象とその周期の事。
ミトコンドリア:細胞の中に存在する小器官の一つ。電子と酸素分子を利用して生体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を産生する。
<論文情報>
公開雑誌:Cancer Science
論文名:LINC02154 promotes cell cycle and mitochondrial function in oral squamous cell carcinoma
著者:
Takeshi Niinuma1, Hiroshi Kitajima1, Tatsuya Sato2,3, Toshifumi Ogawa2,3, Kazuya Ishiguro1, Masahiro Kai1, Eiichiro Yamamoto1, Yui Hatanaka4, Iyori Nojima5, Mutsumi Toyota1, Akira Yorozu6, Shohei Sekiguchi4, Noritsugu Tohse2, Masato Furuhashi3, Hiroshi Ohguro7, Akihiro Miyazaki4, Hiromu Suzuki1*
1 Department of Molecular Biology, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
2 Department of Cellular Physiology and Signal Transduction, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
3 Department of Cardiovascular, Renal and Metabolic Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan.
4 Department of Oral Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
5 Division of Cell Bank, Biomedical Research, Education and Instrumentation Center, Sapporo Medical University School of Medicine
6 Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
7 Department of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan.
* Corresponding author
本研究は、LINC02154を標的とするがん治療法に応用できる可能性があります。また今回得られた知見は、まだ働きが分かっていないlncRNAの機能を研究するために役立つことが期待されます。
<謝辞>
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)、公益財団法人 武田科学振興財団、さっぽろ慈啓会共生(ともいき)助成事業の支援を受けて実施されました。
<用語解説>
長鎖非コードRNA (lncRNA):タンパク質に翻訳されないRNAの中で約200塩基異常の長さを持つもの。正常組織の分化、発生や癌の進行に関係する事が知られるようになってきている。
マイクロRNA:20数塩基からなる小さなRNA分子で、遺伝子の発現を調節する機能を持つ。現在数千個のマイクロRNAの存在が知られるが機能が明らかでないものも多い。
細胞周期:細胞分裂の過程で起こるDNAの複製、有糸分裂、細胞質分裂という一連の現象とその周期の事。
ミトコンドリア:細胞の中に存在する小器官の一つ。電子と酸素分子を利用して生体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を産生する。
<論文情報>
公開雑誌:Cancer Science
論文名:LINC02154 promotes cell cycle and mitochondrial function in oral squamous cell carcinoma
著者:
Takeshi Niinuma1, Hiroshi Kitajima1, Tatsuya Sato2,3, Toshifumi Ogawa2,3, Kazuya Ishiguro1, Masahiro Kai1, Eiichiro Yamamoto1, Yui Hatanaka4, Iyori Nojima5, Mutsumi Toyota1, Akira Yorozu6, Shohei Sekiguchi4, Noritsugu Tohse2, Masato Furuhashi3, Hiroshi Ohguro7, Akihiro Miyazaki4, Hiromu Suzuki1*
1 Department of Molecular Biology, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
2 Department of Cellular Physiology and Signal Transduction, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
3 Department of Cardiovascular, Renal and Metabolic Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan.
4 Department of Oral Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
5 Division of Cell Bank, Biomedical Research, Education and Instrumentation Center, Sapporo Medical University School of Medicine
6 Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan
7 Department of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan.
* Corresponding author