札医大の研究室から(50) 鳥越俊彦教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、耳にする機会が増えた「免疫力」という言葉。そもそも免疫とは何か、免疫力を高めるためにはどうすればいいのか。札幌医科大学医学部病理学第一講座の鳥越俊彦教授に詳しく聞いた。(聞き手・安藤有紀)
鳥越俊彦(とりごえ・としひこ)
鳥取県生まれ。1984年防衛医科大学校医学科卒業。90年米国ペンシルバニア大学医学部研究員、92年米国ラホーヤがん研究センター研究員、93年自衛隊札幌病院診療科医長などを経て2001年札幌医科大学医学部病理学第1講座助教授、04年同大学大学院医学研究科分子免疫制御学准教授、15年から現職。
札医大の研究室から(50) 鳥越俊彦教授に聞く 2021/06/14
安藤:免疫とは。
鳥越:免疫で重要な役割を果たすのがリンパ球。リンパ球はリンパ節やリンパ管、血管の中を通って病原体がいないかチェックし、ウイルスやがんを検出するとそれらと闘ってくれる。リンパ球のうち細胞障害性T細胞とB細胞は、感染した細胞やウイルスに対し非常に強力な攻撃力を持つ。T細胞は感染細胞を直接攻撃し、B細胞は抗体を産生してウイルスを無力化する。
免疫システムには「自然免疫系」「獲得免疫系」の二つがある。自然免疫系は元々体内にあり、ウイルス感染すると即座にインターフェロンという生理活性物質を分泌してウイルスの増殖を防ぐ。感染後しばらくして発動するのが獲得免疫系で、T細胞やB細胞がこれに当たる。作られた抗体は体の中に残る。
安藤:免疫力を強化するには。
鳥越:免疫力に影響する三大要素が「心」「筋肉・運動」「食物・栄養」。一つ目の「心」は、環境要因に左右される。精神的なプレッシャーやストレスが加わったときに体調を崩したことがある人も多いと思うが、ストレスは脳の中枢神経、特に自律神経に作用して体に影響を及ぼし、免疫力を低下させる。ストレスをためないことが大切だ。
安藤:「筋肉・運動」とは。
鳥越:リンパ球の活性化にはグルタミンというアミノ酸が必須だが、リンパ球のエネルギー源となるグルタミンは食事では摂れず、筋肉から供給される。筋肉が痩せ細ってしまう状態をサルコぺニアといい、免疫力が低下してウイルス感染やがんを患いやすくなる。
筋肉は身体の中で最大の発熱器官であるため体温にも影響する。体温が上がるとリンパ球が活発化し、病原体への攻撃力も高まるが、体温が低いと免疫力が下がり、ウイルス感染しやすくなる。筋肉が痩せ細ってしまうと体温も低下するので注意が必要。
体温を上げるために必要なのが適度な運動。1日20分ほどの早歩きやヨガなどを週に3回程度するのがよい。激しい運動は逆に活性酸素を増やし、有害な作用をもたらすので避けてほしい。
安藤:3つ目の「食物・栄養」は。
鳥越:端的に言うと「腸活」。腸内には多種類の細菌が常に存在し、免疫細胞と影響し合っている。がん免疫治療薬の効果があった人となかった人の腸内細菌を調べたところ、効果があった人の腸内にはビフィズス菌が多かった。ビフィズス菌は善玉菌の代表で、有機酸やビタミンを産出し免疫を活性化する。ビフィズス菌を増やすには、オリゴ糖や食物繊維を多く摂るとよい。
安藤:十勝住民へのメッセージを。
鳥越:牛乳には非常にバランスよく必須アミノ酸が含まれ、タンパク質吸収率も高い。オリゴ糖やカルシウムも含まれ、とても優れた栄養源。納豆など大豆を使った食品や野菜でもビフィズス菌を増やせる。
十勝は、牛乳・大豆・野菜が豊富にある素晴らしい環境。腸活に加え、適度な運動で「筋活」、ストレスを解消して「脳活」をして、免疫力アップにつなげてもらいたい。