【共同研究成果】コリスチン耐性大腸菌の病原性を解明

~コリスチン耐性の獲得様式によって大腸菌の病原性が大きく異なる~

ポイント

・薬剤耐性大腸菌パンデミッククローンST131へのコリスチン耐性獲得に伴う病原性を評価。
・耐性の獲得様式ごとに病原性やコリスチン治療効果が大きく異なることを発見。
・「耐性」の有無だけでなく獲得様式ごとの病原性評価が健康リスク評価に不可欠。

概要

 北海道大学大学院獣医学研究院、同大学One Healthリサーチセンターの佐藤豊孝准教授、酪農学園大学の田村 豊名誉教授らの研究グループは、北海道大学総合イノベーション創発機構ワクチン研究開発拠点、札幌医科大学、大阪公立大学、信州大学等と共同で、多剤耐性菌に対して「最後の切り札」とされる抗菌薬のコリスチンについて、耐性の獲得様式によって大腸菌の病原性や生体内での生存性が大きく異なることを明らかにしました。
 薬剤耐性大腸菌の国際的ハイリスククローンST131を共通の遺伝的背景として、代表的な染色体性(pmrAB変異)及びプラスミド性(mcr遺伝子)のコリスチン耐性因子を導入した菌株を作製し、病原性・体内での増殖・コリスチン治療効果を比較しました。その結果、pIncI2_mcr-1プラスミドやpmrA変異では病原性が低下する一方、pIncFII_mcr-5プラスミドやpmrB変異では病原性が保たれ、コリスチン治療効果の減弱を引き起こしました。さらに、pIncI2_mcr-1プラスミド上の新規因子VafA・VafBが、コリスチン耐性とは独立に細菌の増殖と病原性を抑制することを見いだしました。
 本成果は、コリスチン耐性菌の健康リスクが「耐性」の有無だけでは正確に把握できず、耐性様式ごとに病原性まで評価することが、正確な健康危害リスク評価に不可欠であることを示しています。
 なお、本研究成果は、2026年8月5日(水)公開の国際科学誌「eBioMedicine」にオンライン掲載されました。
 
本研究の概要図
本研究の概要図

【背景】

 コリスチンは、他の抗菌薬が効かない多剤耐性グラム陰性菌感染症に対する「最後の切り札(last-resort)」とされる重要な抗菌薬で、世界保健機関(WHO)も「極めて重要な抗菌薬」に位置づけています。一方で、家畜の飼料添加物としても使われてきたため、家畜を中心にコリスチン耐性菌が広がり、2015年に伝達性のコリスチン耐性遺伝子mcr-1が中国で報告されて以降、mcr-1〜mcr-10などのコリスチン耐性遺伝子保有プラスミドは世界中で見つかっています。日本でも2018年に家畜での飼料添加物としての「硫酸コリスチン」の使用が禁止されました。
 薬剤耐性大腸菌ST131は、ヒトで血流感染症や尿路感染症を引き起こす国際的なハイリスク・パンデミッククローンで、近年はmcr保有のプラスミド性コリスチン耐性株やpmrAB遺伝子への変異による染色体性コリスチン耐性株も報告されています。しかし「コリスチン耐性」による実際の健康リスクは、多くが試験管内(in vitro)の検討や単一の耐性因子に限られており、生体内(in vivo)での病原性や治療効果との詳細な関係は明らかにはされていませんでした。特に、コリスチンのような重要な抗菌薬では、生理的な条件下での正確なリスク評価が求められていました。

【研究手法】

 研究グループは、コリスチン感受性のST131株(SME98)を共通の親株として、代表的な染色体性耐性因子(pmrAまたはpmrB変異)とプラスミド性耐性因子(pIncI2_mcr-1、pIncP1_mcr-3、pIncX4_mcr-1、pIncFII_mcr-5)を導入したコリスチン耐性変異株を作製しました。さらに耐性遺伝子のmcrを除去したmcr欠損株も作製し、薬剤感受性、マウスを用いた感染モデルでの体内適応度、病原性、コリスチン治療効果を評価しました。加えて、トランスクリプトーム解析、生化学的解析、質量分析、タンパク質間相互作用解析などにより、耐性因子ごとの病原性のメカニズムを解析しました。 

【研究成果】

 コリスチン耐性因子によるマウスへの病原性は、因子ごとに大きく異なりました。プラスミド性のpIncI2_mcr-1やpIncP1_mcr-3の獲得、染色体性のpmrA変異は、マウス体内での適応度と病原性を有意に低下させました(図1)。一方、pIncFII_mcr-5やpmrB変異は親株であるコリスチン感受性株の病原性をほぼ保ったままで、これらの株ではコリスチン投与による治療効果も得られませんでした(図2)。いずれの耐性株もコリスチン耐性機構(LPSのリピドAの修飾)は共通していました。また、耐性遺伝子であるmcrを除いても生体内での適応や病原性には変化はなく、耐性遺伝子そのものではなく、耐性因子(プラスミド)上の別の要素が病原性に影響していると考えられました。
 さらに研究グループは、獲得するコリスチンの耐性因子ごとにST131の転写プロファイルが大きく異なることを明らかにしました(図3)。また、研究グループは、pIncI2_mcr-1プラスミド上に、これまで機能が知られていなかった二つの因子VafAとVafB(virulence attenuation factors A/B)を同定しました。VafA・VafBは細菌のアデニル酸シクラーゼ(CyaA)と相互作用してcAMPの産生を抑え、プリン生合成を抑制することで、コリスチン耐性とは独立に細菌の増殖と病原性を低下させていました(図4)。これらの因子はIncI2型のmcr-1プラスミドに広く分布していることも分かりました。

【今後への期待】

 本研究は、コリスチン耐性菌の健康リスクが「耐性の有無」だけでは判断できず、耐性因子の種類によって病原性やコリスチン治療の効きやすさが大きく異なることを、生体内で系統的に示したものです。よって、本研究は耐性菌のサーベイランスやリスク評価、抗菌薬の適正使用の判断に、現行の薬剤感受性のみの把握ではなく、薬剤耐性の耐性因子を包括的に評価することの新たな視点を提供する成果です。なお、本研究はマウスを用いた基礎的な研究成果に基づくものであり、臨床への外挿にあたっては今後さらなる検証が必要です。 

【謝辞】

 本研究は、内閣府食品安全委員会(1703)、日本医療研究開発機構(AMED)(革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、創薬基盤推進研究事業、生命科学・創薬研究支援基盤事業、感染症危機対応医薬品等の研究開発プラットフォーム事業感染症危機対応医薬品等の研究開発プラットフォーム事業(拠点形成研究費)北海道大学シナジー拠点、感染症危機対応医薬品等の研究開発プラットフォーム事業感染症危機対応医薬品等の開発プラットフォーム事業(緊急対応研究費)北海道大学シナジー拠点、ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群北海道シナジーキャンパス(北海道大学ワクチン研究開発拠点))、JSPS科研費(JP25H01077)、JST STARTプログラム(ST211004JO)、武田科学振興財団などの支援を受けて行われました。 

論文情報

論文名:Comparative in vivo evaluation of colistin resistance determinants in Escherichia coli clone ST131(大腸菌クローンST131におけるコリスチン耐性因子の生体内比較評価)

著者名:佐藤豊孝1、2、3、4、山本 聡4、Jirachaya Toyting-Hiraishi2、遠山茉奈5、臼井 優6、井上陽晴7、小笠原徳子4、池中良徳1、2、8、9、林 航10、11、小迫英尊12、鈴木仁人3、長野則之10、和田崇之7、中島千絵3、13、鈴木定彦3、13、堀内基広1、2、4、髙橋 聡4、14、横田伸一4、田村 豊6(¹北海道大学大学院獣医学研究院、2北海道大学One Healthリサーチセンター、3北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所、4札幌医科大学医学部、5北海道大学大学院国際感染症学院、⁶酪農学園大学獣医学群、⁷大阪公立大学大学院生活科学研究科、8北海道大学獣医学教育研究センター附属動物病院、9North-West University(南アフリカ)、10信州大学大学院医学系研究科、11国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所薬剤耐性研究センター、12徳島大学先端酵素学研究所、13北海道大学総合イノベーション創発機構ワクチン研究開発拠点(HU-IVReD)、14札幌医科大学附属病院)

雑誌名:eBioMedicine(The Lancetの専門誌)

DOI:10.1016/j.ebiom.2026.106423

公表日:2026年8月5日(水)(オンライン公開)

発行日:

情報発信元
  • 事務局経営企画課企画広報係