【研究成果】脊髄損傷の痛み解明へ -未知のメカニズムに迫る重要な一歩 新規治療法の可能性
~脳が神経障害性疼痛を感じる仕組みを解明し、 骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与で痛みの軽減に成功~
<研究の概要>
札幌医科大学(理事長・学長 山下敏彦)医学部整形外科学講座の福士龍之介大学院生は、同大医学部附属再生医学研究所 神経再生医療学部門の本望修教授ならびに医学部生理学講座 神経科学分野の佐々木祐典教授らとの共同研究で、脳が神経障害性疼痛を感じるメカニズムを解明し、骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells: MSCs)の静脈内投与(MSC治療)によって疼痛の軽減が得られることを発見しました。研究は2種の神経障害性疼痛を呈する動物モデル(末梢神経障害性疼痛モデル・脊髄障害性疼痛モデル)を用いて、痛みを伝達する脳・脊髄領域の樹状突起スパイン(シナプス後部の小突起)の形態異常と遺伝子発現の変化を詳細に解析。MSC治療がこれらの変化を正常に近づけ、痛みを和らげる可能性を示しました。
本研究成果は、2025年12月16日にBrain Communications誌の電子版に掲載されました。
<研究のポイント>
・ 末梢神経障害では大脳感覚野・視床・脊髄後角(lamina II)、脊髄損傷では視床・脊髄後角(lamina V)にmushroom型スパインの増加を確認し、難治性疼痛の原因を解明
・ AKAP5、ACTR2、SORBS2などのAMPA受容体関連遺伝子の発現増加を確認し、分子レベルでのメカニズムを解明
・ MSC治療により、神経障害性疼痛の軽減を確認
・ MSC治療により、これらの脳・脊髄における樹状突起スパインの形態異常が顕著に減少
・ AKAP5、ACTR2、SORBS2などのAMPA受容体関連遺伝子の発現増加もMSC治療で抑制
・ 痛みの原因となる脳脊髄の神経回路の超微小構造と遺伝子発現の変化をMSC治療が是正し得ることを初めて体系的に証明。
<研究背景>
神経障害性疼痛は、末梢神経障害や脊髄損傷後に生じる、軽い刺激でも強い痛み(アロディニア)や、痛みの持続が見られる難治性疾患です。樹状突起スパインの形状が、頭部が比較的小さく細長いthin型から、頭部が大きいmushroom型に変化することが異常シグナル伝達に関係することは報告されていましたが、脳内での損傷特異的なパターンや分子メカニズムは未解明でした。さらに、これらの変化に対する根本的な治療方法は、これまで皆無でした。
<研究方法>
ラット末梢神経障害モデルおよび脊髄損傷モデルを作製し、損傷3日後にMSCを1.0×10⁶個を経静脈的投与。von Frey試験や熱刺激試験で痛覚閾値を評価したのち、損傷28日目に、Golgi染色とqRT-PCRで脊髄および脳(感覚野・視床)の樹状突起スパインの形態とAMPA関連遺伝子の発現を解析しました。
<研究結果>
末梢神経障害では大脳感覚野・視床外側核・脊髄後角浅層(lamina II)、脊髄損傷では視床内側核・脊髄後角深層(lamina V)にmushroom型の樹状突起スパインが特異的に増加しました。これらは、従来、痛覚異常と関連すると考えられてきた神経経路の各地点であり、異常感覚の主原因と考えられました。興味深いことに、末梢神経障害と脊髄損傷では、その痛みに関連する神経経路が異なりました。さらに、MSC治療でいずれの部位における樹状突起スパインの形態異常も正常レベルに近づき、痛覚閾値が改善しました。また、異常シグナル伝達に関連するAMPA関連遺伝子は、損傷モデルにおけるそれぞれ特異な部位における樹状突起スパインで過剰発現していましたが、これもMSC治療により抑制されました。痛みの伝達経路が異なる複数の神経障害性疼痛に対しても、同様の疼痛抑制効果が得られるということは、痛覚発生部位に関わらず、全中枢神経系に作用するという点において、MSCの経静脈的投与の利点を示している可能性があります。
<展望>
今回の成果は、難治性疼痛に対する新たなメカニズムの提唱であり、今後の研究に大きく貢献すると思われます。さらに、MSC治療が損傷局所にとどまらず、脳内の痛み関連ネットワークを構造・分子レベルで正常化し、神経障害性疼痛を幅広く改善する可能性を示しました。今後、さらなる多様な分子発現の解析を進めることで、慢性疼痛に対する治療の新たな選択肢と、MSC療法の発展が期待されます。
札幌医科大学(理事長・学長 山下敏彦)医学部整形外科学講座の福士龍之介大学院生は、同大医学部附属再生医学研究所 神経再生医療学部門の本望修教授ならびに医学部生理学講座 神経科学分野の佐々木祐典教授らとの共同研究で、脳が神経障害性疼痛を感じるメカニズムを解明し、骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells: MSCs)の静脈内投与(MSC治療)によって疼痛の軽減が得られることを発見しました。研究は2種の神経障害性疼痛を呈する動物モデル(末梢神経障害性疼痛モデル・脊髄障害性疼痛モデル)を用いて、痛みを伝達する脳・脊髄領域の樹状突起スパイン(シナプス後部の小突起)の形態異常と遺伝子発現の変化を詳細に解析。MSC治療がこれらの変化を正常に近づけ、痛みを和らげる可能性を示しました。
本研究成果は、2025年12月16日にBrain Communications誌の電子版に掲載されました。
<研究のポイント>
・ 末梢神経障害では大脳感覚野・視床・脊髄後角(lamina II)、脊髄損傷では視床・脊髄後角(lamina V)にmushroom型スパインの増加を確認し、難治性疼痛の原因を解明
・ AKAP5、ACTR2、SORBS2などのAMPA受容体関連遺伝子の発現増加を確認し、分子レベルでのメカニズムを解明
・ MSC治療により、神経障害性疼痛の軽減を確認
・ MSC治療により、これらの脳・脊髄における樹状突起スパインの形態異常が顕著に減少
・ AKAP5、ACTR2、SORBS2などのAMPA受容体関連遺伝子の発現増加もMSC治療で抑制
・ 痛みの原因となる脳脊髄の神経回路の超微小構造と遺伝子発現の変化をMSC治療が是正し得ることを初めて体系的に証明。
<研究背景>
神経障害性疼痛は、末梢神経障害や脊髄損傷後に生じる、軽い刺激でも強い痛み(アロディニア)や、痛みの持続が見られる難治性疾患です。樹状突起スパインの形状が、頭部が比較的小さく細長いthin型から、頭部が大きいmushroom型に変化することが異常シグナル伝達に関係することは報告されていましたが、脳内での損傷特異的なパターンや分子メカニズムは未解明でした。さらに、これらの変化に対する根本的な治療方法は、これまで皆無でした。
<研究方法>
ラット末梢神経障害モデルおよび脊髄損傷モデルを作製し、損傷3日後にMSCを1.0×10⁶個を経静脈的投与。von Frey試験や熱刺激試験で痛覚閾値を評価したのち、損傷28日目に、Golgi染色とqRT-PCRで脊髄および脳(感覚野・視床)の樹状突起スパインの形態とAMPA関連遺伝子の発現を解析しました。
<研究結果>
末梢神経障害では大脳感覚野・視床外側核・脊髄後角浅層(lamina II)、脊髄損傷では視床内側核・脊髄後角深層(lamina V)にmushroom型の樹状突起スパインが特異的に増加しました。これらは、従来、痛覚異常と関連すると考えられてきた神経経路の各地点であり、異常感覚の主原因と考えられました。興味深いことに、末梢神経障害と脊髄損傷では、その痛みに関連する神経経路が異なりました。さらに、MSC治療でいずれの部位における樹状突起スパインの形態異常も正常レベルに近づき、痛覚閾値が改善しました。また、異常シグナル伝達に関連するAMPA関連遺伝子は、損傷モデルにおけるそれぞれ特異な部位における樹状突起スパインで過剰発現していましたが、これもMSC治療により抑制されました。痛みの伝達経路が異なる複数の神経障害性疼痛に対しても、同様の疼痛抑制効果が得られるということは、痛覚発生部位に関わらず、全中枢神経系に作用するという点において、MSCの経静脈的投与の利点を示している可能性があります。
<展望>
今回の成果は、難治性疼痛に対する新たなメカニズムの提唱であり、今後の研究に大きく貢献すると思われます。さらに、MSC治療が損傷局所にとどまらず、脳内の痛み関連ネットワークを構造・分子レベルで正常化し、神経障害性疼痛を幅広く改善する可能性を示しました。今後、さらなる多様な分子発現の解析を進めることで、慢性疼痛に対する治療の新たな選択肢と、MSC療法の発展が期待されます。
<謝辞>
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。
Created in BioRender. https://BioRender.com/f2cfde3
<論文情報>
公開雑誌:Brain Communications
論文名:Mesenchymal stem cells reverse disease-specific abnormalities in nociceptive regions of the brain
骨髄間葉系幹細胞の経静脈的投与による脳の侵害受容領域における疾患特異的異常の回復
著者:Ryunosuke Fukushi,1,2 Masanori Sasaki,2,3,4,* Hisashi Obara,1,2 Kota Kurihara,1,2 Ryosuke Hirota,1,2 Tomonori Morita, 1,2 Atsushi Teramoto,1 Toshihiko Yamashita,1 Andrew M. Tan,4,5 Stephen G. Waxman, 4,5,6,7 Jeffery D. Kocsis,4,5,6 Osamu Honmou 2,4
(*は責任著者)
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて実施されました。
Created in BioRender. https://BioRender.com/f2cfde3
<論文情報>
公開雑誌:Brain Communications
論文名:Mesenchymal stem cells reverse disease-specific abnormalities in nociceptive regions of the brain
骨髄間葉系幹細胞の経静脈的投与による脳の侵害受容領域における疾患特異的異常の回復
著者:Ryunosuke Fukushi,1,2 Masanori Sasaki,2,3,4,* Hisashi Obara,1,2 Kota Kurihara,1,2 Ryosuke Hirota,1,2 Tomonori Morita, 1,2 Atsushi Teramoto,1 Toshihiko Yamashita,1 Andrew M. Tan,4,5 Stephen G. Waxman, 4,5,6,7 Jeffery D. Kocsis,4,5,6 Osamu Honmou 2,4
(*は責任著者)
- Department of Orthopaedic Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Hokkaido 060-8556, Japan
- Department of Nel Regenerative Medicine, Institute of Regenerative Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Hokkaido 060-8556, Japan
- Division of Neuroscience, Department of Physiology, Sapporo Medical University School of Medicine, Hokkaido 060-8556, Japan
- Department of Neurology, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06510, USA
- Rehabilitation Research Center, VA Connecticut Healthcare System, West Haven, Connecticut 06516, USA
- Department of Neuroscience, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06510, USA
- Department of Pharmacology, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06510, USA