【北海道大学・札幌医科大学・酪農学園大学等の研究成果】地域社会の中で広がる薬剤耐性大腸菌パンデミッククローンの拡散動態を解明
~ヒトとペット間での家庭内伝播を含め、地域から世界的な流行への繋がりを明らかに~
ポイント
・札幌市内・近郊のヒト、伴侶動物、下水・河川水、家畜から収集した大腸菌2,358株を解析。
・薬剤耐性大腸菌国際クローンST131のヒトと伴侶動物を含めた家庭内伝播を示唆する知見。
・薬剤耐性菌によるパンデミックの制御には、地域・家庭レベルでのOne Health対策が重要。
・薬剤耐性大腸菌国際クローンST131のヒトと伴侶動物を含めた家庭内伝播を示唆する知見。
・薬剤耐性菌によるパンデミックの制御には、地域・家庭レベルでのOne Health対策が重要。
概要
北海道大学大学院国際感染症学院博士課程の前田愛子氏(研究当時)、北海道大学大学院獣医学研究院、同大学One Healthリサーチセンターの佐藤豊孝准教授らの研究グループは、札幌医科大学、酪農学園大学、札幌市内の動物病院等との共同で、2021〜2022年に札幌市内のヒト・伴侶動物(犬・猫)・下水・河川水・家畜(牛・豚・鶏)から収集した大腸菌2,358株を対象に、フルオロキノロン耐性大腸菌(特に国際的なハイリスククローン/パンデミッククローンであるST131)の地域内での広がりを一つの地域と期間でとらえる「One Health(ワンヘルス)」の枠組みで解析しました。
その結果、フルオロキノロン耐性大腸菌は伴侶動物で最も高い割合(約26%)で見られ、ST131はヒト・伴侶動物・下水から検出されました。全ゲノム解析により、ヒトと伴侶動物で同一系統のST131が共有され、飼い主とペットの間での家庭内伝播や、健康な人の間での無症状の伝播が示唆されました。これらの株は薬剤耐性遺伝子や病原因子を多く保有し、臨床分離株とよく似ていたことから、病院での感染にもつながりうると考えられます。さらに札幌の流行株は、世界的に拡大するST131の系統の中に位置づけられ、ST131のパンデミックの成立に関与していると考えられました。今後は「One Health」の視点から、地域・家庭レベルでの対策と継続的な調査を進めることが重要です。
なお、本研究成果は、2026年6月23日(火)公開の国際科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」にオンライン掲載されました。
その結果、フルオロキノロン耐性大腸菌は伴侶動物で最も高い割合(約26%)で見られ、ST131はヒト・伴侶動物・下水から検出されました。全ゲノム解析により、ヒトと伴侶動物で同一系統のST131が共有され、飼い主とペットの間での家庭内伝播や、健康な人の間での無症状の伝播が示唆されました。これらの株は薬剤耐性遺伝子や病原因子を多く保有し、臨床分離株とよく似ていたことから、病院での感染にもつながりうると考えられます。さらに札幌の流行株は、世界的に拡大するST131の系統の中に位置づけられ、ST131のパンデミックの成立に関与していると考えられました。今後は「One Health」の視点から、地域・家庭レベルでの対策と継続的な調査を進めることが重要です。
なお、本研究成果は、2026年6月23日(火)公開の国際科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」にオンライン掲載されました。
薬剤耐性大腸菌パンデミッククローンには、ヒトと伴侶動物を含めた家庭内・地域社会での拡散が寄与している知見が得られた。
【背景】
薬剤耐性菌は2000年代以降、世界的な健康課題となっており、大腸菌はグラム陰性菌の中で最も多くの薬剤耐性関連死に関わるとされています。なかでもフルオロキノロン耐性大腸菌のクローンであるST131は、ヒトの医療現場で血流感染症や尿路感染症を引き起こし、世界中に拡大した「国際的ハイリスククローン(パンデミッククローン)」として注目されています。ST131は健康な人や伴侶動物、環境からも検出されますが、地域社会の中で実際にどのように広がっていくのかは、これまで十分に分かっていませんでした。
本研究では、ヒト・動物・環境を一つの地域と期間でまとめてとらえる「One Health」の枠組みを構築し、地域社会の中での薬剤耐性大腸菌の広がりを明らかにすることを目指しました。
本研究では、ヒト・動物・環境を一つの地域と期間でまとめてとらえる「One Health」の枠組みを構築し、地域社会の中での薬剤耐性大腸菌の広がりを明らかにすることを目指しました。
【研究手法】
2021〜2022年に札幌市内のヒト(大学病院の患者、市中クリニックの患者、健康な人)、伴侶動物(犬・猫)、下水・河川水、家畜(牛・豚・鶏)から、合計2,358株の大腸菌を収集しました。シプロフロキサシンに対する薬剤感受性試験でフルオロキノロン耐性株を選び、重複を除いた235株について全ゲノム解析を行い、クローン型(ST)や耐性遺伝子、病原因子、菌株間の遺伝的類似性(コアゲノムSNP)を詳しく解析しました。
【研究成果】
フルオロキノロン耐性大腸菌は全体の9.3%で見られ、伴侶動物で約26%と最も高く、健康な人(約14%)より有意に高い一方、河川水や家畜では低い値でした。国際的ハイリスククローンST131はヒト、伴侶動物、下水から検出されましたが、河川水や家畜からは検出されませんでした。主要なST131は同一の遺伝的系統(Clade C)に属し、コアゲノムSNP解析の結果、ヒト(患者・健康な人)と伴侶動物で共有されるST131の遺伝的集団(SNP_d subgroup)が複数確認され、同種間(ヒトからヒトまたはペットからペット)及び異種間(ヒトとペット)での無症状の伝播が市中で起きていることが示唆されました(図1)。また、動物病院レベルでのコアゲノムSNP解析では、飼い主とペットの間でのST131の遺伝的類似度が最も高く、家庭内伝播が示されました(飼い主とペット由来ST131株の違いがわずか10塩基以下という例も確認)(図2)。これらのST131株は薬剤耐性遺伝子や病原因子を多く持ち、臨床分離株とよく似ていたことから、病院での感染にもつながりうると考えられます。また、札幌の流行株は16か国135株の国際的なST131と比較しても、世界的な拡大の流れの中に位置づけられました。
【今後への期待】
本研究は、薬剤耐性のパンデミッククローンが地域社会の中でどのように広がり、地域から世界へと拡大していくのかを高い解像度で明らかにしたものです。今後は人と動物、環境を一体としてとらえる「One Health」の視点から、地域や家庭のレベルでの感染対策や適切な抗菌薬の使用を含めた取り組みを進めることが重要です。本研究で構築した調査モデルは、地域から世界規模までの薬剤耐性菌の広がりを解明するうえで、広く応用できる枠組みとなることが期待されます。
【謝辞】
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)(JP20ak0101118、JP23gm1610012、JP22ama121039)、JSPS科研費(JP21H03622、JP22K19416、JP25H01077)、JST STARTプログラム(ST211004JO)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING、JPMJSP2119)、武田科学振興財団などの支援を受けて行われました。
論文情報
論文名:A community-based One Health approach to the pandemic dynamics of Escherichia coli ST131
(地域社会を基盤としたOne Healthアプローチによる薬剤耐性大腸菌ST131の流行動態の解明)
著者名:前田愛子1(研究当時)、佐藤豊孝2、3、4、福田 昭5、大久保寅彦6、臼井 優5、遠山茉奈1、Jirachaya Toyting-Hiraishi3、塚本尚行7、鈴木章夫3、星野佑治8、鳥越慎吾9、榊原啓一郎10、玉井 聡11、立花 徹12、髙橋 聡13、14、横田伸一15、堀内基広2、3、4(1北海道大学大学院国際感染症学院、2北海道大学大学院獣医学研究院、3北海道大学One Healthリサーチセンター、4北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所獣医学研究ユニット、5酪農学園大学獣医学群獣医学類食品衛生学ユニット、6北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学分野感染制御検査学研究室、7株式会社札幌ミライラボラトリー、8菊水小さな動物病院、9あいの里動物病院、10ノースアニマルクリニック、11アニコム先進医療研究所株式会社、12北光犬猫病院、13札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、14札幌医科大学附属病院検査部、15札幌医科大学医学部感染学講座微生物学分野)
(地域社会を基盤としたOne Healthアプローチによる薬剤耐性大腸菌ST131の流行動態の解明)
著者名:前田愛子1(研究当時)、佐藤豊孝2、3、4、福田 昭5、大久保寅彦6、臼井 優5、遠山茉奈1、Jirachaya Toyting-Hiraishi3、塚本尚行7、鈴木章夫3、星野佑治8、鳥越慎吾9、榊原啓一郎10、玉井 聡11、立花 徹12、髙橋 聡13、14、横田伸一15、堀内基広2、3、4(1北海道大学大学院国際感染症学院、2北海道大学大学院獣医学研究院、3北海道大学One Healthリサーチセンター、4北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所獣医学研究ユニット、5酪農学園大学獣医学群獣医学類食品衛生学ユニット、6北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学分野感染制御検査学研究室、7株式会社札幌ミライラボラトリー、8菊水小さな動物病院、9あいの里動物病院、10ノースアニマルクリニック、11アニコム先進医療研究所株式会社、12北光犬猫病院、13札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座、14札幌医科大学附属病院検査部、15札幌医科大学医学部感染学講座微生物学分野)
雑誌名:Antimicrobial Agents and Chemotherapy
DOI:10.1128/aac.00007-26
公表日:2026年6月23日(火)(オンライン公開)
公表日:2026年6月23日(火)(オンライン公開)
【参考図】