塚本理事長・学長 新年年頭あいさつ

塚本理事長・学長
塚本泰司 理事長・学長
 皆さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。本年は、札幌医科大学と大学に関係する皆さんばかりではなく、新型コロナウイルス感染症が終息し全世界の人にとっても良い年であることを願いたいと思います。
 何はさておき、今回の感染症のために昨年の卒業式、入学式など大学の公式行事を中止せざるを得なかったことは非常に残念でした。特に、昨年の新入生は入学後も大学に通学することができず真の大学生活の開始が大幅に遅れてしまいました。外的な要因とは言え大学として申し訳なく思っています。現在も、感染症が続いていますので必要な感染予防対策を確実に実施することを希望します。

「新型コロナウイルス感染症に対する本学の地域への貢献」
 北海道、札幌市における新型コロナウイルス感染症への対応においては、病院長をはじめとする本学の教員と事務局の皆さんの貢献には非常に大きなものがあり、関係の皆さんの努力に敬意を表します。附属病院では12月末の時点で約200名の中等症ないし軽症の患者さんを受け入れ治療を行い、また約40名の重症例の治療を行ってきました。特にECMOが必要な症例に対する治療例は17例と、本学附属病院が北海道あるいは札幌市の中心施設であったことを明確に示しています。救急医学講座の医師と救命救急センターの医療者のこの感染症に対する奮闘ぶりは、昨年の12月19日の北海道新聞でも報じられましたが、感染症病棟で治療に従事している医療者を含め、皆さんの治療に対する熱意には頭の下がる思いです。さらに、このような対応を可能にすべく、病院内の陽性者の早期発見に対応できる感染防止体制をいち早く構築した感染制御部や、さらに札幌市から多数の検査依頼にも応えることを可能とした検査部の関係の皆さんの貢献にも触れなければなりません。
 また、この間、札幌市保健所あるいは北海道各地の保健所、さらにはクラスターが発生した医療機関、施設などへ、両学部教員が感染防止対策を中心とした支援を行い、本学がこれまで蓄積してきた実践的に有益な医学的知見を広く提供し、これに基づいた活動を積極的に展開してもらいました。上記のいずれもが本学の理念および建学の精神に則した活動と考えます。
 本学の保健管理センターも、センター長を中心に学生のみならず職員の感染予防対策の実施、感染陽性者および濃厚接触者への医学的対応など昼夜を問わず実施してもらいました。事務局の皆さんの支援も受けながら感染拡大を防止する上で大きな役割を果たしてもらっていると実感しています。
感染症を含めこのような危機が発生しない状況がベストですが、胆振東部地震、今回の感染症など突然の広域災害の発生頻度は決してゼロではありません。そのためこのような災害に対し地道な備えが欠かせないことは歴史が示す通りです。残念ながらこの感染症の終息はまだ先になりそうです。病院長を先頭にした附属病院の医療チームの努力がもう少し必要とされるようですが、このような医療者を側面から支える附属病院の体制を病院長と共により強力なものとしたいと思います。

 「はじめに」
 さて、令和3年度の大学運営の概略についてお話し、教職員の皆さんの御理解をいただきたいと思います。例年のように大学全般にわたる課題から始め、以下、教育、研究、臨床の順に進めたいと思います。
 私の任期は令和3年度末までとなります。昨年1年間でいくつかの課題を解決することを自分自身に課してきましたが、言い訳がましく言えば、今回の感染症のために「中途」状態になっているものが少なくありません。なんとか残された任期中に解決するか、あるいは解決の目途を立てたいと考えています。
 昨年の年始の挨拶の際に、「今後5、6年以内に現在の多くの教授が退職するため、10年、20年後の大学のあり方を想定しながら次の教授候補を選んでいただきたい」とお願いしました。実際、解剖学第一講座の教授選考開始に際しては、医学部長にこの点について半年以上をかけ議論をしてもらいました。今後の教授選考に当たっては当該の部門を含め両学部の将来像を描きながら、是非、先を見据えた教授選考を行っていただきたいと思います。
 
 「大学全般」
1)開学70周年記念行事の中止について
 昨年は、本学開学70周年、創基75周年の節目の年でした。多くの教職員の皆さんに御協力いただきながらこの式典を予定していましたが、再三触れているように新型コロナウイルス感染症の影響で、これに関する全ての行事を取りやめとせざるを得なかったことは誠に残念でした。この70年間に本学が築き上げてきたものを内外に広く発信する良い機会と考えていたのですが、それもできずに終わってしまいました。次は、75周年記念あるいは80周年記念を行い、100周年記念に向けて進んで欲しいと思います。
2)第3期中期目標・計画
 令和元年度から開始された第3期中期計画の初年度の業務実績評価が昨年行われました。北海道地方独立行政法人評価委員会の評価では、「順調に進んでいる」2項目、「概ね順調に進んでいる」1項目、「やや遅れている」6項目と、全体としては「やや遅れている」という評価でした。ただ、「指標・数値目標を設定することで、より客観的、定量的に自己点検・評価を行った」ことについては、一定の評価を受けました。「全体としてはやや遅れている」という評価を受けたのは、法人化以降初めてであり、この評価に対して大学の責任者として重く受け止めているところです。
「やや遅れている」と評価を受けたものの中には附属病院の診療収入に対する医薬材料費の割合、科学研究費補助金の申請件数、病院機能評価への対応など、改善に多少時間を要するものもありますが、その他の多くは今回の感染症により通常の活動が制限されたことに起因しており、早急な改善が見込めると考えています。
 いずれにせよ、今回の結果を真摯に受け止め令和2年度終盤の、そして令和3年度からの活動に反映させていきたいと考えています。教職員の皆さんの更なる御支援をお願いします。
3)内部質保証方針
 平成29年に大学基準協会の認証評価を受審し「大学基準に適合している」と評価されましたが、その際に一部の課題も指摘されました。本年7月には努力課題として指摘された6件について、改善のために実施した取り組みの検証、対応状況を取りまとめた「改善報告書」を提出する必要がありますので、教員の皆さんの御協力をいただきたいと思います。
 一方、大学認証評価基準が改訂され、これまで以上に内部質保証を重視した評価が行われることになります。このような方向に対応するため、「内部質保証の推進に責任を負う全学的な組織」として内部質保証推進委員会を設置するとともに、評価体系の構築や、PDCAサイクルの実効性の確保等を図るための内部質保証方針・実施要領を制定しました。詳細は大学ホームページに掲載されている通りですが、教育・研究活動を中心とする本学の諸活動について課題を定期的に洗い出し、専門部会、各学内組織などで幅広く議論し客観的な評価、検証を行い、必要に応じて改善することを目的としています。大学の全ての組織が検討に加わることで、法人の中期目標・中期計画の評価との整合性も一層図ることができると考えています。このような取り組みと共に、中期目標の6年という期間を超える範囲を視野に入れた、長期の展望にも留意すべきと思われます。
4)地域医療研究教育センター(仮称)の設置
 医学部に関連する部分もありますが、後述のようにこのセンターを大学の組織として位置付けるため、ここで触れます。医学部の「総合診療医学講座」の体制一新に伴い地域医療に関連する教育・研究の一層の充実を、学内横断的な支援を得ながら推進して行くために、このセンターを4月から大学に設置します。それと同時に、特設講座として「南桧山地域医療教育学講座(仮称)」も設置し、地域医療に関心のある学生の卒前教育および地域医療を担う若手医師の卒後臨床研修のサポート体制を整えます。2つの組織で新しい「地域医療学」ともいうべきものを確立してもらえればと考えています。
 
「教育」
 今回のコロナ禍における大学の教育全体にわたる大きな問題として、大学の遠隔授業化と両学部での結果的に異なる遠隔授業システムの導入など、多くの点で試行錯誤が避けられなかったことがありました。教職員の皆さんの努力で何とか課題をクリアし、対面と遠隔授業の併用(時期によっては)で現在に至っています。医療系の大学では避けることのできない実習に関しては、一部は縮小して実施、また一部は感染防止に細心の注意を払いながらの実施でしたが、大きな問題もなく経過したことは何よりでした。今後は遠隔授業の評価が必要と思われます。この授業では学生の自律性がより問われることになるので、配信する授業の内容はもちろん学生の受け取り方を慎重に判断しなければならないと思っています。

1)医療人育成センター
 センターは、入試・高大連携部門、教養教育研究部門、教育開発研究部門、統合IR部門の4部門で運営されています。今後のセンターをさらに充実させるために、これまでと今後の業務の整合性の再検討をお願いしています。これは中期目標との関係でも必要になることなので教員各自の積極的な提言を期待しています。
2)保健医療学部
 保健医療学部では、昨年4月から保健師養成の専攻科公衆衛生看護学専攻を開設しました。初年度は14名の入学者がありました。今回の感染症の対応においても各保健所の機能の向上が望まれ、その中でも保健師の質と量の充実が喫緊の課題として挙げられていました。その意味で、この課程の充実が大学の大きな目標のひとつと考えています。
 後述のように医学部の分野別評価は、新型コロナウイルス感染症のためその予定が大幅に遅れていますが、保健医療学部の看護学科における分野別評価は実施予定に上がってきました。本年10月頃に実施されると予想されていますので、これに向けての準備が進められているところです。看護学科の教員を中心に皆さんの御協力をお願いします。
3)医学部
 昨年9月に予定されていた医学教育分野別評価の受審も今回の感染症の影響で、来年2月の実施に変更となりました。仕切り直しの部分もないわけではありませんが、これまでの検討—自己点検・評価報告書の作成、それに必要な外部評価としてのステークホルダー懇談会の開催、医学教育プログラムの外部評価の試行的実施など—を踏まえ対応する予定です。教員の皆さんの更なる御支援をお願いします。

「研究」
 昨年の年頭の挨拶で、「画期的なtranslational researchの結果がさらに得られるように、両学部の若手研究者が行う研究を支援する方法を模索したい」と述べました。附属産学・地域連携センター、研究支援課、経営企画課などの協力を得て、「ステミラック注」の実施許諾料等を原資とした「重点研究支援事業」を創設することとしました。毎年600万円の予算を予定しており、大学の若手研究者へ年間1件につき300万円から500万円を2年間にわたり支援するものです。現在、事業内容の詳細を検討していますが、本学の若手研究者の研究遂行の一助となることを期待しています。

「臨床」
1)附属病院における診療
 冒頭で触れたように、本学附属病院は今回の感染症の初期段階から、病院長を中心にその対応に当たってきました。対応の内容はこれも既に述べたように、病院での患者受け入れはもちろん多岐にわたる業務を行ってきました。いわゆる第1波、第2波、そして第3波とそれぞれの患者数増加に合わせて、附属病院の病棟の一時的な変更を行い、感染症患者への対応に必要な病床確保、医療者確保に努めてきました。そのため、それぞれのピーク時には通常の診療が制限され、診療科によっては目指した診療ができなかったのではないかと思います。しかし、本学の使命の一つは、このような広範囲な「災害」の際にその持てる機能を十分に発揮することであり、その意味では病院長以下の対応は完全に納得できるものです。このことについては皆さんにも御理解いただいたものと思っています。
 この感染症が今後早期に終息してくれることをひたすら期待しています。それとともに、私たちは医療関係の大学、機関として感染防止の徹底に努めていくことが肝要です。
2)附属病院の経営
 このような外部要因のため附属病院の経営も通常の様にはいかないことは事実です。しかし、コロナ禍後を見据えると、病院の経営を取り巻く厳しい環境は、しばらくは継続すると考えられます。昨年策定した経営改善方針に掲げた取り組みを着実に進める必要があります。
 
「その他」
 なお、大学の工事の方は感染症の影響をほとんど受けずに順調に進んでいるとのことです。本年の3月末には完成し、新年度から現在の本部棟、東棟からの移転も順次実施する予定です。附属病院の改修は継続しますが、一区切りがつくことになります。新しい施設で気持ちを新たにして教育・研究を進めて行きたいと考えています。教職員の皆さんの御支援、御協力をお願いいたします。
 今年度の大学入学共通テスト、本学の入学者選抜試験に際しては、感染症の影響で従来にはなかった様々な準備が必要で、それをお願いしてきたところです。受験生の健康への配慮はもちろんのこと、試験に携わる教員、事務職の皆さんの健康にも従来に増して注意が必要になります。くれぐれも感染予防に努めてください。予定された試験日程を無事終了できることを願っています。
 本年3月で医学部長の任期が終了します。3年間の大学への多大な御貢献に感謝いたします。特に昨年当初から新型コロナウイルス感染症のために大学の授業など多くの問題が出現しましたが、その適切な対応に大学を代表し御礼致します。
 繰り返しになりますが、今回の感染症の一刻も早い終息のために、一人ひとりができる感染予防対策を実施しましょう。
 今年は本学の関係者の皆さんにとって良い年になることを改めて希望します。
令和3年1月4日 理事長・学長 塚本泰司

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