理事長・学長室だより -13号- 令和2年1月6日発行

理事長・学長室だより

理事長・学長 塚本 泰司

新年年頭挨拶(令和2年1月6日)

 令和2年1月6日、塚本泰司理事長・学長から、本学教職員向けに年頭挨拶がありましたので、ご紹介します。
学長
塚本 泰司 理事長・学長による新年年頭挨拶の様子
 皆さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。本年も、札幌医科大学と大学に関係する皆さんにとって良い年であることを願っています。
 昨年末は積雪が全くないという珍しい大晦日を経験しましたが、年明けも今のところ積もり方が少なく例年の20%に留まっているとのことです。今年は異常気象による災害がない年であることを希望しています。

<初めに>

 2020年の年頭に当たり、今後の大学運営に関し少しお話ししたいと思います。
 私の4年の理事長の任期はこの3月末をもって終了いたしますが、昨年10月にさらに2年間の大学運営に関する信任をいただきました。本年4月からの2年間も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 一方で、これまで行ってきたいくつかの改革の中身が必ずしも適切ではない、そのスピードが遅い、あるいは決断が不十分である、などのご批判もいただいています。こういったご批判に真摯に向き合うためにも、残り2年間で多くの重要課題を解決するという意気込みで進むつもりでいます。
 以下、例年のように大学全般にかかわることから始め、教育、研究、臨床の順でそれぞれの課題についての方針を明らかにし、皆さんと共有したいと思います。

 その前に、是非、特に教員の皆さんにお願いしておきたいことがあります。
 機会あるごとに触れてきたつもりですが、現在の第3期中期計画の期間内に40名以上の教授の先生方が退職されます。医学部では30名以上の教授が退職されます。40名以上という数は大学にとって間違いなく大きな影響をもたらします。大学が、次の10年、20年に向けてどのような姿を描けるのかということが、大げさかもしれませんが、まさにこの期間の動きで決定される可能性があります。
 折しも、本年6月には開学70周年、創基75周年を迎えます。本学は基礎研究、臨床研究において、また地域医療支援において、その存在を内外に知らしめてきました。とは言え、更なる発展を遂げ無事100周年を迎えるためには、大学の存在価値をもう一度見直し、必要な改革の準備、場合によっては改革そのものを今から進めておかなければなりません。
 どのような点を、どのように変えていくのかは大いに議論すべきことです。特に、次代を担う若手教員の積極的な関与が欠かせません。是非、このような状況を考えていただければと思います。

<大学全般>

 さて、大学全般に関することからスタートします。7点ほどありますので、順不同でそれぞれ簡単に触れます。
 まず1点目です。ご存知のように昨年4月から第3期の中期計画がスタートしました。第2期における中期目標の達成状況は、「良好」であると最終的に評価されました。改善の余地が残されていると評価された3分野のうち1分野は附属病院に関する点ですが、これは後ほど触れたいと思います。第3期も、これまでの実績を踏まえ、目標を達成したいと考えていますので、教職員の方々の御協力をお願いします。

 2点目は、大学、附属病院の工事の件です。
 大学施設は教育研究施設と大学管理棟の工事は順調に経過しています。一方、附属病院の改修工事は、やはり病院を運営しながらのものであるため、いくつかの問題点が出ています。そのため、若干の工期延長が避けられないかもしれません。ここは何としてもその影響を最小限に抑える必要があり、このことを事務局には強く求めているところです。オリンピック関連工事の余波による資材、人材不足など外的要因の影響が大きいところですが、何とか最大限の工夫を希望しています。
 
 3点目です。
 附属病院の副院長である看護部長の選出方法も現状に即した方法にする必要があると考え、その選考方法を変更しました。現在その選考が進行中です。
昨年も触れましたが、看護部長が副病院長として700名以上の看護師を擁する看護部を将来的にも適切に統率・管理できるように、現在の組織形態をそれに相応しいものにする必要があります。これは、附属病院の運営にとっても喫緊の課題です。特に、病院の改修がまだ数年続きますので、この間の病院運営に看護部長の果たす責任には非常に大きなものがあります。そのためにも、このような状況に適った看護部長の選考方法が求められていると考えています。

 4点目の国際交流に関しては、これまで決定されている学術および学生交流に加えて、この1月には高麗大学、5月にはカリフォルニア州立大学サンフランシスコ校との交流が開始されます。国際交流の拡大は中期目標の重要な課題ですので、状況の許す限り積極的に進めて行きます。
 なお、後ほど触れる開学70周年記念事業の1つとして、10月以降に「国際交流シンポジウム」の開催を企画しています。

 5点目です。
 附属総合情報センターの今後のあり方についても、欠員となっている専任教員の枠をどうするのか、ICTの活用推進や情報管理体制の強化など複数の懸案事項があります。これらは、現在、センター長、医学部長が中心となって検討が進んでいます。将来を見据えた適切な組織体制の構築が欠かせないと考えており、本年度中に議論を深め、「あり方」を踏まえた組織体制造りに取り組みます。
 
 6点目に触れておきたいのは、理事長政策検討会を設置したことです。本学が直面している課題の解決や戦略的に政策を展開していくことを考えると、その意思決定のプロセスを明確化し、迅速化することが欠かせません。そのため昨年8月にこの検討会を新たに設置しました。現在、この検討会には、「教育研究費の見直し」や「大学敷地の有効活用としての敷地内薬局の可能性」など、本学の重要課題が議題として挙がっています。今後も、この検討会を十分に活用し本学の懸案事項を迅速に解決していきます。

 最後は冒頭でも触れた本学の開学70周年事業についてです。この70年間に培われた本学の伝統とその礎を築いた先達の多くの先生の御貢献に思いを馳せたいと考えています。
 本学の後援会、両学部の同窓会とも密接に連携しながら、開学記念日である6月25日に記念式典・祝賀会を、2日後の27日には記念講演会を企画しています。また、この70周年を記念した公開講座および講演会も年度内に予定しています。また、これまで本学が医学研究、医療人育成、地域医療に果たしてきた足跡を道民の方々に広く知ってもらうような企画も考えています。
 さらに、同窓会では本学の卒業生を対象にした寄付事業を計画しています。いただいた寄付は、本学の備品整備に活用させていただきたい旨の希望を同窓会に伝えています。
 一方、先に述べた地域の方々への企画とともに、「医の知(いのち)」への支援寄附を募ることも考慮中です。なお、こちらの寄附金は主に若手研究者の研究を支援するためのものとします。
 
 大学全般にかかわる事項の最後にアイヌの方々のご遺骨返還について述べます。
既に新聞報道などで承知のことと思いますが、私たちの大学を含む12の大学は、これまでアイヌの方々のご遺骨を保管してきました。本学ではこの事実を深く受け止め、毎年、北海道アイヌ協会、日本人類学会のご指導の下、慰霊式、イチャルパを催しています。
 一方、白老に民族共生象徴空間が設置され、そこにご遺骨を集約し追悼する、あるいは地域に返還するということが決定されました。私達もそれに従い、既にご遺骨の一部は新設の施設にお納めしております。その際に、大学として以下のような見解を表明しました。すなわち、大学で行われたご遺骨を用いた研究自体は発掘調査を含め、当時の関連法令や学問的な環境からすれば問題はなかったと考えている。しかし、アイヌの方々の文化あるいは宗教的儀礼に関する理解が十分ではなかったことは否定できず、大学として深く反省すると同時にお詫びをする、というものです。
 もちろんこれですべてが解決したわけではありません。今後とも国連宣言にある先住民族の権利を保護するという国際規範に沿った対応が不可欠です。このことを学生、教職員を対象とした教育・研修で実践していくつもりです。

<教育>

 さて、大学における教育についての課題に移ります。
1)医療人育成センター
 教養教育における課題として、この数年間医療人育成センターの組織のあり方を検討してきました。昨年の年頭の挨拶では、それまでの組織体制の反省も踏まえた新しい体制の説明をしました。現在は、入試・高大連携部門、教養教育研究部門、教育開発研究部門、統合IR部門の4部門で運営されています。新しい体制でのセンターの運営を注視したいと思います。

2)保健医療学部
 保健医療学部では、本年4月から保健師養成の公衆衛生看護学専攻科を開設し、15名の入学者の募集を行っています。現在進められている地域包括ケアあるいは地域医療構想においても、保健師の果たす役割は大きいと考えています。入学後の講義や実習にも留意いただき、是非優秀な専攻科修了生の育成をお願いいたします。
 保健医療学部のもう一つの課題は、2020年度から全国で開始予定の看護学科における分野別評価です。もちろん、医学部の分野別評価に比べると規模は小さくなりますが、早めの受審に利点が多いことから本学も2021年度の受審の可能性を検討すべく、準備に取り掛かる予定でいます。

3)医学部
 医学部における本年の課題はなんといっても9月下旬の医学教育分野別評価の受審です。医学部長を中心に関係の先生方が事務局とともに、受審に向け精力的に活動しています。自己点検・評価報告書素案の作成、それに必要な外部評価としてのステークホルダー懇談会の開催、医学教育プログラムの外部評価の試行的実施などが行われています。
 今後、医学教育プログラムの外部評価などを実施した後、本年6月までには日本医学教育評価機構へ自己点検・評価報告書を提出する予定です。機構での書面審査の後に、9月末には本学での実施調査が行われます。大学として非常に重要な案件であることは言うまでもありません。教職員の皆さんの一層のご協力をお願いするところです。
 なお、この認証評価への準備を通して、医学部における教育プログラムの内容やその質保証に対する体制が大きく改善されました。このような教育現場の体制の改善が、認証評価を受審するためだけのものというよりは、継続的な改革とそれによる質保証に欠かせないものであると、改めて認識しています。

<研究>

 次は、大学における研究についてです。
 自己骨髄間葉系幹細胞治療薬の脊髄損傷に対する治療が、昨年5月より開始されています。本学で行われてきた基礎研究の成果が、保険診療下で可能になったというまさに画期的なtranslational researchの結果であるといえます。このような研究成果を得るためには時間、研究費、人材と多くの要素が必要とされますが、大学ではなんとか両学部の若手研究者が行う研究を中心に支援したいと模索しています。
 学長裁量経費を利用するなどして、研究助成の充実を図るというのも1つ方法と考えています。どのような形で、どの程度の助成が可能かを検討します。
 なお、研究の主体となる若手人材の確保も重要です。これについては後ほど触れます。

 研究支援を充実するための組織のあり方も、さらに検討しなければならない点です。認定臨床研究審査委員会の設置については、もう少し、全国の状況を見極めたいところがあります。とは言いながら、現在の研究支援課の組織を強化することは必要です。いつでも設置の方向に舵をきれる可能性は残しておきたいと思います。同時に、現在の治験センターのあり方も臨床研究支援センター全体の枠組みの中で考え直します。

<臨床>

 次に、附属病院における診療についてです。
1)附属病院における診療
 既に触れた脊髄損傷に対する再生医療では、重症の患者さんが多いということで、関係する診療科の医療スタッフの皆さんには何かと負担をかけていることは十分承知しています。しかし、画期的で内外から注目され、何より患者さんへの利益が大きい治療です。このことを改めて御理解いただければと思います。

 昨年6月に2台目の手術支援ロボットを導入しました。手術室も100%十分とは言えないかもしれませんが、ロボット支援手術対応の手術室も整備し、現在、16の手術室で手術の対応に当たっています。これまでよりは広いスペースを確保することができました。残念ながら、工事が今後も継続されることから利用できる手術室の数が変動し、その利用も必ずしもスムーズではないところもあります。
手術室の利用方法に関しては、長年同じような形態で運営されてきました。そのため、手術室の増設があると実態とそぐわないことも出てくるようです。最終的な手術室の数、スペースを見込んで、これまでの形態を再検討する必要があります。手術数の確保は高度急性期・急性期病院の生命線の1つでもあるので、病院長、手術部長に最適な対応をお願いしているところです。これに伴うコメディカルの人材確保も可能な限り行うつもりです。

2)附属病院の経営
 附属病院の経営について述べます。
 附属病院の収益は4年ほど前から楽観できない状況が続いています。今後も、改修工事に伴う利用可能な病床数が減少するなど、これまで以上に病院経営は厳しさを増します。
 これに対処するために、病院長を中心に種々の対策が打ち出されています。病院経営に大きな貢献をした診療科に対するincentiveを付与する制度を開始し、昨年度上半期の取り組みに対して去る12月に5つの診療科、部門に助成を行いました。それぞれの部門のさらなる業務改善のために有意義に使用していただければと思います。5つの部門の皆さんの努力に対して敬意を表すると同時に、その成果の継続と拡大をお願いする次第です。

 最後に、初期臨床研修医の確保について触れます。
 本学の初期臨床研修医の数は残念ながら右肩下がりで、本年度は18人でした。定員の充足率は33.5%です。  
当大学は従来から、初期臨床研修医は少ないが後期臨床研修医すなわち専攻医が大学に戻って来ると思われていました。しかし、エビデンスはそうではなく、大学全体では思っていたほど戻ってきてはいません。
 そこで、目標を初期臨床研修医では本学出身者50名、専攻医では本学出身者80名の確保に向けハード面での改善、教育システムでの改善を図っていきます。その詳細については臨床研修・医師キャリア支援センター長に依頼して具体策を検討してもらっています。近々、回答が出てくると思われます。若手医師の確保は喫緊の課題です。

 なお、この夏には東京オリンピック競技の一部が札幌で開催されます。協力病院として医療サポートを依頼されています。可能な範囲で支援したいと思っていますので、教職員の皆さんのご協力もお願いする次第です。

<結びに>

 札幌医科大学の外観は大きく変貌しようとしています。
 すべてが完成すれば「医の知」の殿堂に相応しい施設ができると期待しています。これを土台にしてその先の道にある私たちが求めるものに向かう必要があります。70周年の先にある100周年に至る道を見据えた準備が欠かせません。
 今後も難問が続出すると思いますが、ONE TEAMとして皆さんの叡智を集めることで乗り切ることができると強く信じています。開学70周年を迎える本学のさらなる発展へ向けて、今年もどうぞよろしくお願い致します。