理事長室だより第39号 平成28年3月31日

 

●はじめに

学長就任後6年の任期を満了し、本年3月31日をもって無事に退職を迎えさせていただくこととなりました。 
 この間、様々な難題もありましたが、本学の教職員をはじめ、同窓会の諸先生方、学生、関係者の皆様に多くのご協力、ご支援をいただき何とか乗り越えてくることができました。
 私の理事長室だより最終号は、いつもの本学の近況をお伝えする形式ではなく、先日行われた退任講演でお話した部分もありますが、この機会に私の学長としての6年間の任期を改めて振り返り、概要として総括する形式でお伝えしたいと思います。

●就任後最初の3年間~第1期中期計画後半の遂行~

平成22年4月に学長に就任し、平成25年3月までは、本学の独立行政法人化後で最初となる第1期中期計画6年間のうち、後半3年間の計画遂行に全力を尽くしました。
 学長就任時、私が第一の課題として取り組んだことは附属病院の経営改善であり、当時、附属病院が抱えていた赤字を解消することが喫緊の課題でした。病床利用率や手術件数の増加などに向けて、毎日のように看護部にお願いにお邪魔したり、臨床教育研究棟の13階から地下1階までを何度も行き来して、全診療科の教授の皆さんに繰り返し直接お願いに回ったりもしました。病院長時代の経験を活かしたやり方でしたが、各診療科の現場の状況や、あるいは大学の重要課題への意見・要望を直接聞くこともでき、皆さんにはご迷惑をおかけしたかもしれませんが、大変有益なことであったと思っています。
 その結果、附属病院の全職員の皆さんの多くの協力と頑張りのおかげで、学長就任1年目から10億円を超える黒字を出し、その後も続けて黒字を出すことができました。そして、その黒字分を附属病院に還元し、診療医などの非常勤職員の方々へボーナスを支給するなどの職場環境改善と、320列の最新のCT装置や血管造影装置の導入、ハイブリッド手術室の整備、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の導入、MRIの増台などの診療環境改善を実現させることができました。
 日頃から附属病院の現場で大変な努力をされている皆さんに改めて感謝を申し上げるとともに、その努力によって自らの環境を変えることができることを共に実感していただけたことも、大きな収穫であったのではないかと思います。

●就任後4年目からの3年間~第2期中期計画スタートから、計画前半の遂行~

本学がさらに飛躍するための礎となる大変重要な平成25年度からの第2期中期計画6年間ですが、私の最後の学長任期である今年度をもって、計画前半の3年間を終えました。この期間に、私が特に力を入れてきたことを順に挙げていきます。
 まず一つ目に、「札幌医科大学施設整備構想」など新キャンパス構想の実現です。平成26年11月に、まずは西19丁目街区の体育館・リハビリ実習施設と保育所が完成し、昨年6月からは、西17丁目街区に教育研究棟(施設Ⅰ)の工事が開始され、平成29年12月に完成する予定となっています。この教育研究棟にはフロンティア医学研究所などが移ることになっており、その後、北側で新たな教育研究棟(施設Ⅱ)と管理棟・動物実験棟の工事に入ります。また、保健医療学部棟の増築となる教育研究棟(施設Ⅲ)も、昨年の夏から工事を開始し、秋には病院西棟の増築工事も開始されました。特に病院は、念願の個室の増加と、6人部屋の4人部屋化、個室ユニットの導入が図られるとともに、外来化学療法室や治験センター、リハビリセンターも整備されます。西棟完成後には、南棟、北棟、中央診療棟の改修も計画しており、これらの整備が進むことにより、診療・療養環境や利便性の向上など、附属病院が大きく変わるものと思っています。
 そして二つ目に、優秀な学生の確保と地域医療への貢献のための入試改革の実行です。それまでの医学部の推薦入試「特別枠」(旧特別推薦)に加え、平成25年度入試からは顕在化している医師不足に対し、道内で医学・医療に従事する医師を養成するために「北海道医療枠」を導入し、さらに平成27年度入試からは従来の一般推薦入試を「地域枠」に変更して「北海道医療枠」と同様の卒後必修プログラムを導入しました。これらの入試改革の結果、昨年度と今年度の医学部入試において、全入学者に占める道内出身者の割合が、実に80%を超えるほどになりました。また、これに併せて各国家試験対策についても同窓会や同門会などのご支援をいただいて充実させ、医師国家試験の合格率は平成27年度には95.4%で全国16位、今年はついに96.2%で全国10位にまで上がりました。その他全ての職種の国家試験でも合格率は全国平均を大きく上回っており、特に看護師国家試験は、今年も看護系大学全国1位となる13年連続合格率100%を達成しました。これは大変素晴らしいことです。
 三つ目に、本学の脳梗塞と脊髄損傷に対する再生医療や癌ワクチンなど橋渡し研究の推進です。今や本学におけるこれらの研究は、日本を代表するような橋渡し研究として高く評価されています。特に神経再生医療は極めて良好な臨床成績を上げており、昨年11月に本学に隣接する西18丁目にニプロ株式会社による再生医療研究開発センターの建設が決まり、さらに今年2月には脊髄損傷について厚生労働省により、再生医療等製品として初となる「先駆け審査指定制度」の指定も受け、実用化に向けて大きな一歩を踏み出すことができました。
 その他にも、道内の自治体、道内外の企業にも、本学の活動に対して多くのご支援をいただきました。例えば、本学の特色ある教育の一つである両学部の学生が地域医療実習をする「地域医療合同セミナー」では道内の各自治体の皆さんに毎年とてもお世話になっています。また、化粧品のハーバー研究所による附属病院での患者さん向けメイクアップサービスの実施や、新和ホールディングスの支援による附属病院ロビーでの札幌交響楽団コンサートの開催、十勝のオカモトグループの支援により北海道放送(HBC)で平成25年度に放送したテレビ番組「医の一番!~札幌医科大学の挑戦~」、北洋銀行の支援によりエフエム北海道(AIR-G’)で平成27年3月末まで3年半放送したラジオ番組「医の力~札幌医科大学 最前線~」、ホリとの共同開発により昨年4月に発売開始した「北海道しそハスカップゼリー」などなど、本当に様々な形で多くのご支援をいただきました。

●最後に

 私自身が好きな言葉に「損して得取れ」という言葉があります。これは「最初から得を取りにいってもいいことなどない、例え遠回りになっても今の損を我慢すれば最終的に大きな利益を得ることができる」というような意味です。近江商人の「三方よし」という言葉も好きで、これは「買い手よし、売り手よし、世間よし」と言われるもので、私自身もこうした精神で職務に向かいたいと思い、これまで取り組んできたつもりです。
 私はこの3月末で本学を退職します。ただ、身分としては去っても、心としては当然本学に残っていますし、次の塚本学長と、これからの札幌医科大学を外から支えていきたいと思っています。「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という言葉もあります。両学部長や病院長をはじめとする全ての教職員で新しく「良い」革袋を作り、塚本学長をしっかりと支え、塚本学長の作る新しい札幌医科大学を盛り立てていっていただきたいと願っています。
 札幌医科大学は、これからも北海道、そして日本をリードする素晴らしい大学に絶対なっていくと、私は信じています。最後に、これまでお世話になった全ての皆様へ心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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