内科学講座 消化器内科学分野
当講座の研究領域は、消化器病学、肝臓病学をカバーしている。いずれの領域においても先端の分子医学的解析手法と免疫学的アプローチを中心に、特に疾患の発症機構から、オリジナルな新しい診断方法の開発・治療戦略の開発に取り組んでおり、これまできわめて多くの重要な知見を発信してきた。
Dept.of Gastroenterology and Hepatology
Our research field covers gastroenterology and hepatology. Particularly, molecular biological and immunological approaches are extensively and effectively applied for understanding etiology of the disease, for developing the novel diagnostic and therapeutic strategies.
スタッフ
教授 Professor
仲瀬裕志 Hiroshi Nakase, M.D., Ph.D.,
所属:医学部医学科臨床医学部門 内科学講座 消化器内科学分野
医学研究科地域医療人間総合医学発生分化・加齢制御医学消化器機能制御医学
研究テーマ : 炎症性腸疾患の発症機構の解明、炎症性大腸発がん機構の解明、炎症性腸疾患に関連する線維化機序の解明、家族性地中海熱遺伝子関連腸炎の病態解明および診断基準の確立、腸管ベーチェット病の病態関連遺伝子の同定。
研究活動と展望 : 日本で増加傾向にある炎症性腸疾患の病態解明のため、人検体および様々なマウスモデルを用いて、Microbiome解析、免疫学的手法、分子生物学的手法による研究を行なっている。 代表的な研究成果を以下に記載する。1. 研究者が作製したサイトメガロ感染炎症性腸疾患モデルマウスは、世界初のものである(Inflam Bowel Dis 2013)。2. 線維化抑制に関連する分子(Gut 2014)の制御を試みる研究は、人への応用に向けて産学連携で進行中である。3. 我々が報告した家族性地中海熱遺伝子関連腸炎(Lancet 2012)は、現在非常に注目されている疾患の1つである。厚生労働省難治性腸疾患の研究班の班員である研究者は、研究班でのprojectの1つとして本研究に取り組み、成果をあげてきた。4. 新規内視鏡診断機器を産学連携で完成させた。Leuven大学と国際共同研究を行い、既にfeasible studyは終えた。今年から、second stepに進む。我々が取り組んできた研究の全てが、国内外で評価が高いものである。今後も、炎症性腸疾患の病態解明、患者QOL向上のために、研究をより充実・発展させていきたい。我々の講座は、研究成果を世界へ発信することに重点をおいており、教室のモットーは「Think global !」である。
准教授 Associate Professor
山野泰穂 Takaho Yamano, M.D., Ph.D.
准教授 Associate Professor
吉井新二 Shinji Yoshii, M.D., Ph.D., FJGES
研究テーマ : 大腸鋸歯状病変の癌化機序と予防戦略の解明、内視鏡治療技術の標準化
研究活動と展望 : 大腸鋸歯状病変(sessile serrated lesion, SSL)は、マイクロサテライト不安定性(MSI)大腸癌の前駆病変であり、その発癌機序の解明と予防法の確立が求められている。我々は、SSLのBRAF変異やDNAメチル化異常、炎症性サイトカインの関与に着目し、抗炎症薬である5-アミノサリチル酸(5-ASA)とアスピリンの併用が、発癌予防に有効である可能性を検討している。本研究では、札幌医科大学生化学講座分子生物学分野の鈴木拓教授と協力し、内視鏡的に採取したSSLの臨床検体を用いてオルガノイドを樹立し、長期薬剤処理によるエピゲノム変化を解析することで、MSI大腸癌の新たな予防法の開発を目指している。さらに、内視鏡治療技術の標準化にも取り組み、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)における新規デバイスを用いた治療の安全性と有効性を評価するとともに、内視鏡的切除後の再発リスクの検討を行っている。これらの研究を通じて、大腸癌の早期診断・治療の向上に貢献することを目指している。
講師 Senior Lecturer
石上敬介 Keisuke Ishigami, M.D., Ph.D.
研究テーマ:腸管連関に着目した自己免疫性肝胆道疾患の病態解明、腫瘍微小環境の炎症シグナルに着目した新規バイオマーカーの探索
研究活動と展望:自己免疫肝胆道疾患は、その病態が未だに十分に解明されておらず、また有効な治療法が乏しい。近年、単一臓器だけでなく臓器間のネットワークが病態に寄与する影響が様々な疾患で研究されている。消化管は消化を司るだけでなく、上皮を介して外界に接し、様々な抗原に暴露されている。そこで、腸内細菌や腸管における抗原認識機構に着目して、自己免疫性肝胆道疾患の病態解明を目指している。また、消化器癌の微小環境における炎症シグナルに着目し、早期診断および個別化治療に繋がる新規バイオマーカーの探索を行っている。
講師 Senior Lecturer
我妻康平 Kohei Wagatsuma, M.D., Ph.D.
研究テーマ:Osteopontin制御機構を用いたgut-lung axisの機序の解明、慢性肝疾患患者における骨密度とundercarboxylated osteocalcinの関連
研究活動と展望:(1)腸内細菌叢および気道内細菌叢が互いに影響を及ぼすgut-lung axis という概念が近年注目されている。腸管と肺は、共通の発生学的起源を有することなどから、潜在的な免疫機構の繋がりが存在するものと考えられているが、gut-lung axis のメカニズムをモデル化する基礎研究が不足している。Osteopontinは炎症や線維化、腸内細菌制御に関与しているタンパク質である。我々はOsteopontinに着目し、gut-lung axis の機序の解明に取り組んでいる。(2)慢性肝疾患患者では骨密度低下や骨折のリスクが高いことが報告されている。ビタミンKは骨折治癒および骨形成に関与しており、undercarboxylated osteocalcinは骨のビタミンKの充足の指標とされている。ビタミンKは、食事のみならず腸内細菌からも供給され、慢性疾患の中にはビタミンKが不足する疾患が存在するが、慢性肝疾患での検討が不足している。そこで、我々は、慢性肝疾患患者における骨密度とundercarboxylated osteocalcinの関連を研究している。これらの研究のように、1つの臓器ではなく、臓器横断的な研究を行うことを心がけており、また、腸内細菌との関連を含めて検討している。
助教 Assistant Professor
柾木喜晴 Yoshiharu Masaki, M.D., Ph.D.
研究テーマ:免疫関連有害事象(irAE)モデルマウスを用いたマイクロバイオームとシングルセル解析によるirAE病態解明、高齢膵癌患者に対する最適な治療法の検証
研究活動と展望:近年、免疫チェックポイント阻害薬が色々な癌腫に対して用いられるようになってきたが、副作用の一つとしてirAEの発現が数多く報告され、重症例や死亡例の報告もあることから、の詳細な病態解明と発症予防が急務である。シングルセル解析は、一細胞レベルで遺伝子発現やゲノムDNAの状態を解析することができる技術であり、近年免疫研究の分野においても大きな注目を浴びている研究手法である。本研究では、irAEモデルマウスに認められる障害臓器の組織をシングルセル解析により、各臓器の細胞に起こっている変化を遺伝子レベルで網羅的に解析する。その結果から、発症に関連する遺伝子やタンパクを同定することで、癌免疫療法のさらなる発展へ寄与することを目的として研究を進めている。また、高齢膵癌患者の診療実態について調査・検証する多施設共同観察研究を通じて、積極的治療の安全性・妥当性について検証をおこなった。将来的に高齢膵癌患者さんに最適な治療法を提供できるよう、研究を続けている。
助教 Assistant Professor
川上裕次郎 Yujiro Kawakami, M.D.
研究テーマ : 腸管免疫機構からのIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)病態解明へのアプローチ
研究活動と展望 : IgG4関連疾患は、リンパ球およびIgG4陽性形質細胞の浸潤、線維化により、同時性または異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変を生じる全身性疾患である。その発症には、Th2細胞、制御性T細胞、各種サイトカインに加え、腸内細菌叢(microbiome)の関与が示唆されている。私たちは、内視鏡的に異常所見のない消化管粘膜からもIgG4陽性形質細胞の浸潤を確認し、消化管がIgG4-RDのイニシエーションの場である可能性を報告した(Gastro Hep Advances 2023; 2: 1089–1092.)。さらに、加齢に伴う腸管免疫の変化やmicrobiomeの乱れが、発症に関与している可能性も指摘されている。今後は、これらの因子とIgG4-RDの発症との関連を解析し、本疾患の新たな病態解明と診断・治療法の確立に寄与することを目指して研究を継続している。
助教 Assistant Professor
沼田泰尚 Yasunao Numata, M.D., Ph.D.
研究テーマ : 肝細胞癌(HCC)における分化と浸潤・転移の制御機構の関連の解明およびマーカーの開発
研究活動と展望 :HCCは前癌病変から早期HCC、進行HCCへと多段階的に進展するに伴い、分化度が低くなっていくとともに、肝内転移や血管内浸潤、さらに遠隔転移が出現し予後不良に大きく影響する。しかし、その機序は明らかではなく、HCCが進展する過程で分化度が変化していく機序を解明することは、HCCの浸潤・転移の客観的な評価方法の開発およびHCCの治療法の開発に繋がることが期待される。そこで我々は、HCCの分化度を制御する機序を分子生物学的観点から解明し、それらを制御する因子を明らかにするとともに、その因子が分化度マーカーや治療標的になりうるかを、研究課題として研究を進めている。
助教 Assistant Professor
横山佳浩 Yoshihiro Yokoyama, M.D., Ph.D.
研究テーマ:炎症性腸疾患(IBD)のサイトカイン解析による治療効果予測因子の検討、ACEが腸管組織再生機構へ果たす役割の解明
研究活動と展望:IBDは分子標的薬の発展が目覚ましい分野であるが、その効果を予測することは困難であり、治療効果予測可能なバイオマーカーが望まれている。我々は生検組織からサイトカインプロファイルを解析することで、バイオマーカーの特定や個別化医療への応用を試みている。現在はトランスクリプトームに加え、ゲノム、マイクロバイオームやメタボロームデータも集積し、網羅的解析によるIBDの病態解明も行っている。また、基礎研究においては腸管におけるACE2の役割について、特に組織再生機構や腸内細菌との関連に着目して解析を進めている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
室田文子 Ayako Murota, M.D.
研究テーマ:胆膵癌に対する新規治療の開発(SLFN11)
研究活動と展望:胆膵癌という予後不良な難治癌に対し、様々な治療開発が進められているが、未だ殺細胞性抗癌薬の治療が主体であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤による恩恵を受けることは難しい。限定された治療選択の中で、予後改善を目指すためには、胆膵癌というくくりではなく、個々の腫瘍の遺伝子変異に適した治療選択が可能となることが必要であり、癌に対する遺伝子変異の役割や遺伝子変異に基づく治療開発が急務である。SLFN11はDNA障害型抗がん剤への感受性と相関する遺伝子として報告されて以来、各癌腫で研究が進んでいるが、胆膵癌ではいまだ不明である。SLFN11の胆膵癌における機能解析を行い、その発現制御と抗がん剤感受性との関与を解析することを目標とし、研究を進めている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
山川司 Tsukasa Yamakawa, M.D., Ph.D.
研究テーマ:炎症性発癌における癌関連線維芽細胞(Cancer associated fibroblast: CAF)の役割
研究活動と展望:本邦で増加の一途を辿っている炎症性腸疾患では、長期にわたる炎症の結果で炎症性発癌を生じ得るため、患者は時に大腸全摘術も余儀なくされる。Adenoma-carcionma sequenceを基盤とした古典的な散発性大腸癌と異なり、炎症性発癌では粘液癌や低分化腺癌が多く予後が不良とされ、発癌に関わるメカニズムもいまだ十分には解明されていない。炎症性腸疾患では炎症と治癒を繰り返した結果大腸組織中で線維化を生じることから、CAFが免疫細胞を含めた癌微小環境の形成に関わることが推測されている。癌微小環境におけるCAFの役割と炎症性発癌の機序に関わる因子を明らかにすることを目的として研究を行っている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
風間友江 Tomoe Kazama, M.D.
研究テーマ:炎症性腸疾患に関するバイオマーカーと炎症性発癌の関連
研究活動と展望:早期発見が難しい炎症性腸疾患に合併する癌病変についてバイオマーカーから検討することを目的としている。臨床的には、炎症性腸疾患の病勢評価についての検討を多施設で検討している。侵襲性が少なく、繰り返し施行可能なエコー手技を、IBD領域でも有用な手技として確立し、内視鏡的寛解を予測する簡易なスコアリングシステムを開発することを目的としている。
仲瀬裕志 Hiroshi Nakase, M.D., Ph.D.,
所属:医学部医学科臨床医学部門 内科学講座 消化器内科学分野
医学研究科地域医療人間総合医学発生分化・加齢制御医学消化器機能制御医学
研究テーマ : 炎症性腸疾患の発症機構の解明、炎症性大腸発がん機構の解明、炎症性腸疾患に関連する線維化機序の解明、家族性地中海熱遺伝子関連腸炎の病態解明および診断基準の確立、腸管ベーチェット病の病態関連遺伝子の同定。
研究活動と展望 : 日本で増加傾向にある炎症性腸疾患の病態解明のため、人検体および様々なマウスモデルを用いて、Microbiome解析、免疫学的手法、分子生物学的手法による研究を行なっている。 代表的な研究成果を以下に記載する。1. 研究者が作製したサイトメガロ感染炎症性腸疾患モデルマウスは、世界初のものである(Inflam Bowel Dis 2013)。2. 線維化抑制に関連する分子(Gut 2014)の制御を試みる研究は、人への応用に向けて産学連携で進行中である。3. 我々が報告した家族性地中海熱遺伝子関連腸炎(Lancet 2012)は、現在非常に注目されている疾患の1つである。厚生労働省難治性腸疾患の研究班の班員である研究者は、研究班でのprojectの1つとして本研究に取り組み、成果をあげてきた。4. 新規内視鏡診断機器を産学連携で完成させた。Leuven大学と国際共同研究を行い、既にfeasible studyは終えた。今年から、second stepに進む。我々が取り組んできた研究の全てが、国内外で評価が高いものである。今後も、炎症性腸疾患の病態解明、患者QOL向上のために、研究をより充実・発展させていきたい。我々の講座は、研究成果を世界へ発信することに重点をおいており、教室のモットーは「Think global !」である。
准教授 Associate Professor
山野泰穂 Takaho Yamano, M.D., Ph.D.
准教授 Associate Professor
吉井新二 Shinji Yoshii, M.D., Ph.D., FJGES
研究テーマ : 大腸鋸歯状病変の癌化機序と予防戦略の解明、内視鏡治療技術の標準化
研究活動と展望 : 大腸鋸歯状病変(sessile serrated lesion, SSL)は、マイクロサテライト不安定性(MSI)大腸癌の前駆病変であり、その発癌機序の解明と予防法の確立が求められている。我々は、SSLのBRAF変異やDNAメチル化異常、炎症性サイトカインの関与に着目し、抗炎症薬である5-アミノサリチル酸(5-ASA)とアスピリンの併用が、発癌予防に有効である可能性を検討している。本研究では、札幌医科大学生化学講座分子生物学分野の鈴木拓教授と協力し、内視鏡的に採取したSSLの臨床検体を用いてオルガノイドを樹立し、長期薬剤処理によるエピゲノム変化を解析することで、MSI大腸癌の新たな予防法の開発を目指している。さらに、内視鏡治療技術の標準化にも取り組み、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)における新規デバイスを用いた治療の安全性と有効性を評価するとともに、内視鏡的切除後の再発リスクの検討を行っている。これらの研究を通じて、大腸癌の早期診断・治療の向上に貢献することを目指している。
講師 Senior Lecturer
石上敬介 Keisuke Ishigami, M.D., Ph.D.
研究テーマ:腸管連関に着目した自己免疫性肝胆道疾患の病態解明、腫瘍微小環境の炎症シグナルに着目した新規バイオマーカーの探索
研究活動と展望:自己免疫肝胆道疾患は、その病態が未だに十分に解明されておらず、また有効な治療法が乏しい。近年、単一臓器だけでなく臓器間のネットワークが病態に寄与する影響が様々な疾患で研究されている。消化管は消化を司るだけでなく、上皮を介して外界に接し、様々な抗原に暴露されている。そこで、腸内細菌や腸管における抗原認識機構に着目して、自己免疫性肝胆道疾患の病態解明を目指している。また、消化器癌の微小環境における炎症シグナルに着目し、早期診断および個別化治療に繋がる新規バイオマーカーの探索を行っている。
講師 Senior Lecturer
我妻康平 Kohei Wagatsuma, M.D., Ph.D.
研究テーマ:Osteopontin制御機構を用いたgut-lung axisの機序の解明、慢性肝疾患患者における骨密度とundercarboxylated osteocalcinの関連
研究活動と展望:(1)腸内細菌叢および気道内細菌叢が互いに影響を及ぼすgut-lung axis という概念が近年注目されている。腸管と肺は、共通の発生学的起源を有することなどから、潜在的な免疫機構の繋がりが存在するものと考えられているが、gut-lung axis のメカニズムをモデル化する基礎研究が不足している。Osteopontinは炎症や線維化、腸内細菌制御に関与しているタンパク質である。我々はOsteopontinに着目し、gut-lung axis の機序の解明に取り組んでいる。(2)慢性肝疾患患者では骨密度低下や骨折のリスクが高いことが報告されている。ビタミンKは骨折治癒および骨形成に関与しており、undercarboxylated osteocalcinは骨のビタミンKの充足の指標とされている。ビタミンKは、食事のみならず腸内細菌からも供給され、慢性疾患の中にはビタミンKが不足する疾患が存在するが、慢性肝疾患での検討が不足している。そこで、我々は、慢性肝疾患患者における骨密度とundercarboxylated osteocalcinの関連を研究している。これらの研究のように、1つの臓器ではなく、臓器横断的な研究を行うことを心がけており、また、腸内細菌との関連を含めて検討している。
助教 Assistant Professor
柾木喜晴 Yoshiharu Masaki, M.D., Ph.D.
研究テーマ:免疫関連有害事象(irAE)モデルマウスを用いたマイクロバイオームとシングルセル解析によるirAE病態解明、高齢膵癌患者に対する最適な治療法の検証
研究活動と展望:近年、免疫チェックポイント阻害薬が色々な癌腫に対して用いられるようになってきたが、副作用の一つとしてirAEの発現が数多く報告され、重症例や死亡例の報告もあることから、の詳細な病態解明と発症予防が急務である。シングルセル解析は、一細胞レベルで遺伝子発現やゲノムDNAの状態を解析することができる技術であり、近年免疫研究の分野においても大きな注目を浴びている研究手法である。本研究では、irAEモデルマウスに認められる障害臓器の組織をシングルセル解析により、各臓器の細胞に起こっている変化を遺伝子レベルで網羅的に解析する。その結果から、発症に関連する遺伝子やタンパクを同定することで、癌免疫療法のさらなる発展へ寄与することを目的として研究を進めている。また、高齢膵癌患者の診療実態について調査・検証する多施設共同観察研究を通じて、積極的治療の安全性・妥当性について検証をおこなった。将来的に高齢膵癌患者さんに最適な治療法を提供できるよう、研究を続けている。
助教 Assistant Professor
川上裕次郎 Yujiro Kawakami, M.D.
研究テーマ : 腸管免疫機構からのIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)病態解明へのアプローチ
研究活動と展望 : IgG4関連疾患は、リンパ球およびIgG4陽性形質細胞の浸潤、線維化により、同時性または異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変を生じる全身性疾患である。その発症には、Th2細胞、制御性T細胞、各種サイトカインに加え、腸内細菌叢(microbiome)の関与が示唆されている。私たちは、内視鏡的に異常所見のない消化管粘膜からもIgG4陽性形質細胞の浸潤を確認し、消化管がIgG4-RDのイニシエーションの場である可能性を報告した(Gastro Hep Advances 2023; 2: 1089–1092.)。さらに、加齢に伴う腸管免疫の変化やmicrobiomeの乱れが、発症に関与している可能性も指摘されている。今後は、これらの因子とIgG4-RDの発症との関連を解析し、本疾患の新たな病態解明と診断・治療法の確立に寄与することを目指して研究を継続している。
助教 Assistant Professor
沼田泰尚 Yasunao Numata, M.D., Ph.D.
研究テーマ : 肝細胞癌(HCC)における分化と浸潤・転移の制御機構の関連の解明およびマーカーの開発
研究活動と展望 :HCCは前癌病変から早期HCC、進行HCCへと多段階的に進展するに伴い、分化度が低くなっていくとともに、肝内転移や血管内浸潤、さらに遠隔転移が出現し予後不良に大きく影響する。しかし、その機序は明らかではなく、HCCが進展する過程で分化度が変化していく機序を解明することは、HCCの浸潤・転移の客観的な評価方法の開発およびHCCの治療法の開発に繋がることが期待される。そこで我々は、HCCの分化度を制御する機序を分子生物学的観点から解明し、それらを制御する因子を明らかにするとともに、その因子が分化度マーカーや治療標的になりうるかを、研究課題として研究を進めている。
助教 Assistant Professor
横山佳浩 Yoshihiro Yokoyama, M.D., Ph.D.
研究テーマ:炎症性腸疾患(IBD)のサイトカイン解析による治療効果予測因子の検討、ACEが腸管組織再生機構へ果たす役割の解明
研究活動と展望:IBDは分子標的薬の発展が目覚ましい分野であるが、その効果を予測することは困難であり、治療効果予測可能なバイオマーカーが望まれている。我々は生検組織からサイトカインプロファイルを解析することで、バイオマーカーの特定や個別化医療への応用を試みている。現在はトランスクリプトームに加え、ゲノム、マイクロバイオームやメタボロームデータも集積し、網羅的解析によるIBDの病態解明も行っている。また、基礎研究においては腸管におけるACE2の役割について、特に組織再生機構や腸内細菌との関連に着目して解析を進めている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
室田文子 Ayako Murota, M.D.
研究テーマ:胆膵癌に対する新規治療の開発(SLFN11)
研究活動と展望:胆膵癌という予後不良な難治癌に対し、様々な治療開発が進められているが、未だ殺細胞性抗癌薬の治療が主体であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤による恩恵を受けることは難しい。限定された治療選択の中で、予後改善を目指すためには、胆膵癌というくくりではなく、個々の腫瘍の遺伝子変異に適した治療選択が可能となることが必要であり、癌に対する遺伝子変異の役割や遺伝子変異に基づく治療開発が急務である。SLFN11はDNA障害型抗がん剤への感受性と相関する遺伝子として報告されて以来、各癌腫で研究が進んでいるが、胆膵癌ではいまだ不明である。SLFN11の胆膵癌における機能解析を行い、その発現制御と抗がん剤感受性との関与を解析することを目標とし、研究を進めている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
山川司 Tsukasa Yamakawa, M.D., Ph.D.
研究テーマ:炎症性発癌における癌関連線維芽細胞(Cancer associated fibroblast: CAF)の役割
研究活動と展望:本邦で増加の一途を辿っている炎症性腸疾患では、長期にわたる炎症の結果で炎症性発癌を生じ得るため、患者は時に大腸全摘術も余儀なくされる。Adenoma-carcionma sequenceを基盤とした古典的な散発性大腸癌と異なり、炎症性発癌では粘液癌や低分化腺癌が多く予後が不良とされ、発癌に関わるメカニズムもいまだ十分には解明されていない。炎症性腸疾患では炎症と治癒を繰り返した結果大腸組織中で線維化を生じることから、CAFが免疫細胞を含めた癌微小環境の形成に関わることが推測されている。癌微小環境におけるCAFの役割と炎症性発癌の機序に関わる因子を明らかにすることを目的として研究を行っている。
特任助教 Specially Appointed Assistant Professor
風間友江 Tomoe Kazama, M.D.
研究テーマ:炎症性腸疾患に関するバイオマーカーと炎症性発癌の関連
研究活動と展望:早期発見が難しい炎症性腸疾患に合併する癌病変についてバイオマーカーから検討することを目的としている。臨床的には、炎症性腸疾患の病勢評価についての検討を多施設で検討している。侵襲性が少なく、繰り返し施行可能なエコー手技を、IBD領域でも有用な手技として確立し、内視鏡的寛解を予測する簡易なスコアリングシステムを開発することを目的としている。