運動器慢性疼痛診療

慢性疼痛とは?

疼痛は生体の組織損傷を伝える警告系です。しかし、組織損傷が治癒しているにもかかわらず疼痛が持続することがあります。この長引く痛みが一般に慢性疼痛といわれます。痛みが長引くと、その痛みだけでなく身体活動の低下などのさまざまな問題が現れて、毎日の生活が困難になってきます。痛みの原因はさまざまありますので、痛みの診療は、それぞれの担当医療者の専門性を活かしながら総合的な診療を行う必要があります。

1. 本邦における慢性疼痛の現状

諸家の報告によると本邦における慢性疼痛の有病率は13.4~22.9%と報告されています1-4)。痛みの保有期間については、「10年以上~20年未満」が22.3%,「5年以上~10年未満」が22.2%,「3年以上~5年未満」が14.6%と長期間にわたり疼痛を有していることが示されています(図1) 1)。痛みの部位については、「腰」が64.1%、「肩」が47.9%、「膝」が25.6%などでした(図2) 1)。治療満足度、治療有効性に関する調査では3分の2の慢性疼痛患者が現在の治療に満足しておらず(図3)2)、適切な医療機関や治療方法を選択することにより患者満足度が改善する可能性が考えられます。
1. 矢吹省司,他: 日本における慢性疼痛保有者の実態調査 Pain in Japan 2010 より.臨整外. 47: 127-134, 2012.
2. Nakamura M, et al: Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan. J Orthop Sci. 6: 424-432, 2011.
3. 服部政治, 他: 日本における慢性疼痛保有率. ペインクリニック. 25: 1541-1551, 2004.
4. 松平 浩: 慢性疼痛と心理社会的要因. Practice of Pain Management. 2: 30-35, 2011.

慢性疼痛 FIg1
図1  有病期間
慢性疼痛 FIg2
図2   疼痛部位
慢性疼痛 FIg3
図3  治療の満足度

2. 慢性疼痛に対する集学的治療

慢性疼痛の治療は整形外科、リハビリテーション科、麻酔科(ペインクリニック)、神経精神科、泌尿器科、歯科口腔外科など複数の診療科や、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、薬剤師、ケースワーカーなど多様な職種が、痛みの身体的・心理的・社会的な相互関係を多方面から評価し、各専門医学領域と連携してカンファレンスを行い、患者さん一人一人に適した治療を選択するという集学的治療が近年推奨されています。

Ⅱ. 札幌医科大学附属病院における疼痛診療体制について

1.概要

札幌医科大学附属病院では、平成14年より慢性疼痛外来を開設しました。さらに慢性疼痛に対する包括的な診療体制を構築するため、平成30年1月1日に慢性疼痛センターを設置しました。本センターでは、慢性疼痛に対する「集学的治療」を行うことを目的としています。「集学的治療」とは、整形外科、リハビリテーション科、麻酔科(ペインクリニック)、神経精神科、泌尿器科、歯科口腔外科など複数の診療科や、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、薬剤師、ケースワーカーなど多様な職種が治療に参加し、互いに情報の共有やディスカッションを行うことにより、慢性疼痛患者様を多角的、効果的に治療していくというものです。

2. 外来診療

当センターを受診いただきますと、痛み診療コーディネーター(リハビリ科医師および整形外科医師)が診察を行い、身体的・心理的側面から痛みを評価し集学的治療の必要性を判断します。
評価項目
心理的ストレスの評価: Hospital Anxiety and Depression Scale
痛みと活動性に関する評価: Pain Disability Assessment Scale
痛みの影響に関する評価: Pain Catastrophizing Scale
健康関連QOLの評価: EuroQol 5 Dimension
運動機能評価: Locomo25
 

3. 入院診療

集学的治療は4週間の入院治療(図1)を原則とします。ガイダンス、疼痛講義を通して疼痛病態の説明を行います。また、理学療法・機能訓練を導入し機能改善を目指します。定期的なカンファレンスを実施し、患者様個々の治療計画や問題点などを検討します。入院治療を終了した後は、慢性疼痛センターと連携機関で情報を共有しながら、原則的には連携機関で治療を継続します。 
入院診療 Fig1
図1

4. 予約方法

※受診予約の受付は、紹介元医療機関から直接お申し込み頂いた場合に限ります。
※患者様ご本人からのお申し込みは受け付けておりませんので、現在受診されている医療機関にご相談ください。
予約方法 FIg

Ⅲ. 北海道における慢性疼痛診療連携

厚生労働省の慢性の痛み政策事業の取り組みによって、痛みセンターを核とし地域の医療機関と連携した慢性疼痛診療モデル事業が実践されています。札幌医科大学附属病院慢性疼痛センターは疼痛治療に精通した北海道内の4施設(旭川医科大学、朝里中央病院、NTT東日本札幌病院、札幌禎心会病院)の連携機関とともに慢性疼痛に悩む患者様の治療を行います。 
診療連携
診療実績
診療実績