脊椎脊髄外科診療

頚椎症性脊髄症・頚椎症性筋萎縮症

頚椎の変形が進行すると、脊髄と呼ばれる神経組織が圧迫され手指の巧緻運動障害、痙性歩行、膀胱直腸障害(頻尿・失禁)などの症状が生じます。しびれ・痛みと比較して上肢の筋力低下が目立って出現する頚椎症性筋萎縮症という病態もあります。保存治療で十分な効果が得られない場合、症状が進行性の場合は手術の適応となります。当科ではこのような病態に対して、選択的椎弓形成術という方法を行っています(図1)。本法の利点として筋肉と筋肉の隙間を分けて展開をするために筋肉への侵襲が少ないこと、術前に手術する部位を特定してから手術を行うため、手術部位を絞りこみ、手術侵襲を低減できることが挙げられます。
 
脊椎Fig.1
図1

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板の一部が後方に突出して神経を圧迫することで(図1)、下肢の痛みやしびれ、筋力低下などの症状が出現します。初期には痛みが激烈なこともありますが、70〜80%は自然と改善することが知られています。したがって、高度の麻痺を呈する場合などを除き、すぐに手術が必要な症例はほとんどありません。痛みが長期間続く場合には手術を行います。当科では低侵襲な内視鏡下椎間板切除術(MED)を行い(図2)、早期社会復帰を可能にしています。 
LDH Fig1

腰部脊柱管狭窄症

加齢変性により脊柱管が狭窄し神経組織が圧迫されることで(図1)、下肢のしびれや痛み、重だるさなどの症状が出現します。典型例では、立位や歩行により症状が悪化し、休息をとることで軽快しします。消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤、プロスタグランジンE1製剤などの薬物治療を行いますが、効果が不十分な場合は手術を行います。当科では低侵襲な術式である、内視鏡下除圧術(図2)や棘突起縦割式椎弓形成術を行ない、早期社会復帰を可能にしています。また、腰椎にすべり(ずれ)や不安定性が合併している場合は、固定術の追加を考慮します。
LCS Fig1

脊柱側彎症(思春期側弯症)

背骨がねじれを伴いながら左右へ弯曲をきたす疾患です。左右に弯曲するため両肩やウエストの高さに左右差を認め、ねじれを伴うため前屈した際に背中(肋骨や背筋)の高さに左右差を認めます(図1)。身長が伸びる際に弯曲が進行することが多いため、予防のため装具療法を行い、弯曲が強い場合には手術加療を行います。手術は、脊柱側弯症手術です。輸血を避けるため自己血を術前に貯血し、神経損傷を予防するため脊髄を電気刺激でモニタリングしながら安全に行います。左右の弯曲を真っ直ぐにするのみならず、前後の弯曲(胸椎後弯,腰椎前弯)をしっかり整えることを目指しています(図2)。 
脊椎側彎症 Fig1

成人脊柱変形

近年、加齢に伴う脊柱の変性や骨粗鬆症に伴う椎体圧潰を基盤とした成人の脊柱変形が増加しています。左右や前後の体幹バランスをとることが難しくなり立位や歩行が困難となる場合には、薬剤やコルセット,リハビリテーションによる保存治療を行いますが、日常生活動作が強く障害される場合には手術加療(側方経路腰椎椎体間固定術,Lateral lumbar Interbody Fusion: LIF など)を行います。この手術は日本では2013年より承認され、海外研修などで実施許可を取得した医師と特定の施設にのみに実施が可能な手術となっております。側腹部に傷を加え大腰筋前縁を経由して椎間板へアプローチを行うことで、従来法と比べ背筋や椎間関節への損傷が小さくすることができ、この他にも可能な限りの低侵襲手技を用いることで、出血量や合併症の低減を目指しています(図1)。
成人脊柱変形 Fig1
図1

脊椎感染症

脊椎にある椎間板は血流がない組織であり、感染をおこすと抗生剤が効きにくく長期的な治療を要します。化膿性椎間板炎の基本的な治療は抗生剤治療と装具治療ですが、当院では経皮内視鏡を用いた低侵襲な治療(図1 経皮的内視鏡下椎間板切除術)も行なっています。また、感染により骨の破壊が進む場合には後方固定術(図2)や前方再建術を行う場合もあります。 
脊椎感染症 Fig1

後縦靱帯骨化症

背骨の椎体の後ろで、脊髄神経の前方にある後縦靭帯が何らかの原因で骨化(骨に変化:➡)して、骨化により脊髄神経が圧迫される病気です(図1)。頸椎症性脊髄症と同様の症状(手足のしびれ、運動障害、ふらつき)が出ますが、薬物療法や装具療法でも症状が進行する場合は手術療法が必要となります。当院では脊柱管拡大術や、スクリューを用いた後方除圧固定術(図2 )、骨化部分を直接取り除く前方除圧固定術(図3)を症例に応じて行なっています。 
OPLL Fig1

脊椎腫瘍、脊髄腫瘍

脊髄およびその周囲組織にできる腫瘍の総称で、脊髄,神経根、あるいは脳脊髄を包む硬膜、更にその周囲にある脊椎(骨)から発生します。頻度が高いのは、硬膜の内側の腫瘍では神経鞘腫や髄膜腫といった良性腫瘍で、硬膜の外側の腫瘍では「がん」の転移性骨腫瘍(悪性)です。良性と悪性では治療方針が全く異なるため、“正確な診断”が最も重要と考えています。当院には、空間解像度の高い3T MRI装置(図1)や、がん組織の検出に優れたPET/CT装置(図2)があり、正確な画像評価が行えます。また病理医と連携し骨生検(図3)による組織診断も可能です。治療は各科と連携して行っており、腫瘍の大きさや種類によって、腫瘍切除,放射線照射や化学療法といった治療を選択しています。腫瘍切除の際には、顕微鏡,超音波メス,脊髄モニタリングなどを用い、低侵襲かつ安全な手術を心がけています。
脊椎腫瘍 Fig1

骨粗鬆症性椎体骨折

骨粗しょう症を背景に軽微な外傷により脊椎で骨折が発生します。発症初期には、強い痛みを伴い慢性期になると姿勢異常が出現します。椎体骨折の治療法としては保存治療がメインとなりますが、痛みが取れない場合には、骨折した椎体内にバルーンを入れ、それを膨らませること椎体を広げて骨セメントを入れるBKP(Balloon Kyphoplasty)を行います。手術は30分~1時間以内に終わり、術後は通常数日~1週間で退院できます。姿勢異常が強い場合は、脊椎インストゥルメンテーションを用いて脊椎を固定・矯正する手術を行う場合もあります(図2)。我々は患者さんの病態に応じて、最適な治療を行うことを心がけています。