肩関節診療

 当教室の肩関節グループは、肩関節鏡手術の黎明期である1992年より、北海道はもとより全国に先駆けて低侵襲手術に取り組んで参りました。現在では一般的となった肩腱板断裂に対する鏡視下手術を始め、肩関節前方不安定症、上腕二頭筋長頭腱損傷、肩関節唇損傷、石灰性腱板炎、肩関節拘縮、肩鎖関節脱臼、変形性肩関節症、変形性肩鎖関節症と、その適応は多岐にわたります。

また、高度な変形を有する患者様に対しては、術前CTデータをもとに各人の骨形態に合わせた個別設計ガイドを作成し、正確性の高い人工関節手術に取り組んでおります。

外来診療においては、「まずは確かな保存治療を提供する」という信念のもと、患者様の診療に取り組んでおります。レントゲンやMRI撮影ではオリジナルの撮影法を駆使し、より詳細な病態評価に努めております。近年ではエコーを用いた診断・治療介入も積極的に取り入れており、「肩の注射」においては、関節・筋膜・神経周囲など、その部位や目的用途により、約10種類の注射手技を病態によって使い分けております。

 ここでは、当科にて独自性高く取り組んでいる治療内容の一部をご紹介いたします。

■鏡視下腱板修復術・上腕二頭筋長頭腱固定術

我々は一次修復可能な肩腱板断裂に対し、本術式による良好な治療成績を数多く報告してきました。近年では特に前上方断裂に対する修復の重要性が注目されており、当科では肩甲下筋腱や上腕二頭筋長頭腱の病態に対しても、積極的な治療介入を行っております。

肩関節鏡

■鏡視下肩上方関節包再建術(ASCR)

 一次修復不能な大・広範囲断裂に対する治療は、上腕骨頭の求心位を再建する目的で、大腿から採取し厚く折り込んだ筋膜のパッチを採型し、関節窩上方と骨頭外側に縫着する術式を行っております。手技は煩雑で高度な技術が要求される手術ですが、当科では多数の症例実績がございます。
パッチ

■個別設計ガイドやナビゲーションシステムを用いた、人工肩関節手術

 当科ではコンピューター支援技術を駆使して、術前CTデータから患者様の骨形態に合わせた個別設計ガイドを作成し、正確なインプラント設置を行っております。また高度変形を有する患者様に対しては、術中ナビゲーションシステムによるスクリュー設置・骨移植の精度向上に取り組んでおります。

RSA

■高リスク肩関節前方不安定症に対する、鏡視下Bankart & Bristow変法

ラグビーやアイスホッケーなどのコンタクト・コリジョンスポーツ選手では、通常の関節内手術(関節唇形成術)のみだと再発リスクが高いと報告されております。そこで、関節外処置(烏口突起移行術)を加えることで安定性を向上させることが可能となります。我々は従来、6cm程度の皮切を用いる直視下法を行っておりましたが、2023年より全鏡視下での手技を取り入れております。この最大のメリットは、腱板(肩甲下筋)の侵襲を最小限に留めることができ、関節外処置も鏡視下で施行可能であるため、正確かつ高い骨癒合率が期待できます。

脱臼

■肩鎖関節脱臼の矯正損失ゼロを目指した、解剖学的烏口鎖骨靱帯二重束再建術

近年、肩鎖関節脱臼に対する外科的治療として、人工靱帯を用いた手技が一般化しております。しかし、術後の骨孔拡大や矯正損失(再転位)が課題とされてきました。当科では本来の靱帯付着部に着目し、生理的な力学再建を目指した解剖学的靱帯再建術に着手しております。本術式は世界初の手技であり、現在までに国内外の学会にて、良好な成績を報告しております。

肩鎖関節

■筋膜・関節包・神経周囲に対するハイドロリリース

外来診療では、5種類の関節内注射に加え、エコーガイド下ハイドロリリースも積極的に導入しております。医師の理学所見に基づき、筋膜の滑走改善、関節包の拘縮改善、神経の絞扼解除を目的とし、おもに生理食塩水を注入する注射手技です。近年注目を集めている治療方法であり、当科では基礎・臨床データを収集しつつ治療効果の検証を重ね、患者様に還元できるよう取り組んで参ります。