(1)変形性股関節症
- 1980年代より一貫して骨セメントを使用しないセメントレス手術を行い、セメント合併症を回避しています。
- 2006年より術後の疼痛や出血、人工股関節脱臼などの合併症を軽減させるように、筋肉や腱を温存する前側方アプローチによる低侵襲手術を行っています。これにより、術後の人工関節の脱臼が減少し、早期からの歩行が可能となっています。結果的に入院期間が短縮されていますが、術後の歩行姿勢の改善や安全な日常生活動作が獲得されてからの退院としています。闇雲に短い入院期間は設定していません。
- 低侵襲手術をより確実にするため、海外や国内の手術見学や臨床に直結する解剖などの基礎的な研究も同時に行っています。
- 人工関節の合併症の一つであるゆるみによる再置換術を可能な限り少なくするよう、摩耗の少ないポリエチレンを関節面に使用しています。また、近年では骨温存を計るべく大腿骨には温存型のステムや短いタイプのステムを用いることで、より低侵襲の手術を目指しています。
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当科で使用しているステム(大腿骨側の人工関節)は2005年以降は長方形の形をしたアロクラシックステムを2012年からはアロクラシックステムと似た形をしていますが、ステムの肩の部分を落としてより低侵襲に挿入可能となったSL Plus MIAステムを使用し、2013年からは短いステム(いわゆるショートステム)であるフィットモアというステムを使用しています。
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アロクラシックステムの生存率(抜去しないで残っている割合)は術後15年で96.3%です。
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SL Plus MIAステムの生存率は術後9.2年で98.7%です。
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フィットモアの生存率は術後7.3年で99.7%です。いずれのステムも高いステム生存率を獲得しています。
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当科ではほとんどの初回人工股関節手術を前側方アプローチで行っています。皮膚の切開は7-8cm程度です。前側方アプローチでは筋肉の間から展開するため、術後の疼痛が少ないだけではなく、必要以上に筋肉を犠牲にしないため、脱臼率が低いことが知られています。当科での初回人工股関節全置換術での後方脱臼は1股のみであり0.1%です。前方脱臼は1.5%と低くなっています。
(2)寛骨臼形成不全
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術前にCTデータを用いてコンピューター上でシミュレーションを行い、適切な回転角度を算出します
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左大腿骨頭(向かって右、大腿骨の付け根の丸い部分)に対する屋根(臼蓋)の被りが浅くなっています(矢印)
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シミュレーションに従って骨切りをし、屋根(臼蓋)の被覆を増加させました
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寛骨臼回転骨切り術(RAO)を施行した場合の関節温存率(人工関節に移行しなかった割合)です。10年経過時ではどの年代でもほぼ100%の温存率を達成しています。また、25歳未満にRAOを施行した場合の当科での温存率は20年以上経過しても100%ですが、年齢が高くなるにつれて温存率が低下することがわかります。