ページ内目次
智歯(親知らず)とは?
埋伏歯はスペースの不足や歯胚(歯の卵)の位置異常などによって歯が歯肉や骨の中に埋まっているもので、第三大臼歯や犬歯に多くみられます。特に第三大臼歯(智歯)は親知らずと言われていますが、真っ直ぐに生えないことも多く、一部もしくは全部が、歯肉や骨の中に埋伏します。(図1)
親知らずの抜歯の必要性
親知らず(埋伏智歯)は口腔内の一番後ろにあり清掃がうまくできないことで(図2)歯肉の腫れや、第二大臼歯との間でむし歯になる等のトラブルを引き起こすことが多く、時にはその炎症(智歯周囲炎)が周囲の軟組織や顎骨(あごの骨)に波及して顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがありますので、抜歯が勧められます。特に一度でも親知らずが腫れた方は繰り返し腫れることが多いため、炎症が大きく拡大する前に抜歯をお勧めします。また、歯列矯正をする場合には、下顎埋伏智歯の抜歯が必要となることがあります。
親知らずの抜歯前の検査
下顎骨の中心を下唇に達する神経と血管が通っており、その神経と血管(下顎管)の近くを下顎埋伏智歯の根尖が奏功していることが多く、埋伏智歯抜歯の際には専門的な知識と配慮が必要となります。当科ではエックス線画像で下顎管の近接が確認された場合はCTを用いて根尖との位置関係を精査します。外来で局所麻酔下の抜歯を行いますが、侵襲が大きい場合や根尖と下顎管の近接が著しい場合には入院して全身麻酔下での抜歯を行います。
また、1度に4本の親知らずを抜歯する際にも全身麻酔下での抜歯を行っております。
また、1度に4本の親知らずを抜歯する際にも全身麻酔下での抜歯を行っております。
当科での親知らず(下顎智歯)の抜歯術式とその種類について
当科ではエックス線画像で下顎智歯根尖と下顎管の位置が近接した場合はCT検査を行い、その近接の程度を精査します。その際、下顎管の形態と位置により下顎管の損傷による神経麻痺(オトガイ部の皮膚や口唇などの知覚異常、痺れ)の発症のリスクを判断します。
当科では下歯槽神経麻痺(オトガイ部や下唇の痺れ)の出現のハイリスク症例に対して、抜歯の術式を従来法と変更して神経麻痺のリスクを回避する術式を提案、選択することがあります。以下にその術式の概要を説明します。
当科では下歯槽神経麻痺(オトガイ部や下唇の痺れ)の出現のハイリスク症例に対して、抜歯の術式を従来法と変更して神経麻痺のリスクを回避する術式を提案、選択することがあります。以下にその術式の概要を説明します。
2回法
親知らず抜歯を2回に分けて行う方法で、1回目は歯冠(歯の頭の部分)を抜去し、数か月後残した歯根(歯の根っこの部分)を抜去する術式です。残した歯根が数カ月で移動し、下顎管からの距離が離れたことを確認してから抜歯するので神経麻痺のリスクを回避できます。主な欠点は手術を2回する必要があり、治療終了までに時間がかかることです。
- 1回目は歯冠のみ抜去して終了。
- 2回目は歯根が下顎管から離れたことを確認してから歯根を抜去する。
部分的骨切り抜歯法
部分的骨切り抜歯法は、智歯の形態を保護しつつ下顎管に対する愛護的手術操作を目的として当科で考案した術式です。親知らずを被覆する外側の骨を切削器具ではずすようにし、下顎管を直視下にして抜歯操作を行い、神経麻痺の出現リスクを可及的に回避する術式です。コロネクトミーとは違い、親知らずをすべて抜去しますが、骨への侵襲はコロネクトミーよりは大きいことが欠点です。
このように親知らずの抜歯には通法どおりの抜歯のほかに2回法、歯冠分割術、骨切り抜歯法などの術式があります。どの方法もメリット・デメリットがありますので親知らずの抜歯について担当医にお気軽にお聞きください。
歯冠除去術(コロネクトミー)
親知らずをすべて抜かず、歯冠のみを除去する術式です。下顎管に近い歯根は残した状態で手術を終了します。神経麻痺の出現リスクを可及的に回避する術式です。利点は手術時間が短く、治療後の腫れも少なくなります。欠点は術後に感染を起こした場合には残した歯根を抜歯する必要があります。
当科における下顎智歯抜歯研究について
1) パノラマX線写真での評価
パノラマX線写真での下顎智歯(親知らず)と下顎管との近接が疑われた場合。
→下顎智歯と下顎管との重複あるいは下顎管の狭窄があるとき
→下顎智歯と下顎管との重複あるいは下顎管の狭窄があるとき
2) CT所見での評価
- 下顎智歯根尖と下顎管との間に骨介在がない
- 下顎管形態の分類評価(round/oval、teardrop、dumbbell型)および位置関係の評価
- CT画像所見による下顎智歯と下顎管の間の骨がないこと、下顎管の位置が舌側にありかつ断面形態がdumbbell型の場合→下歯槽神経麻痺出現の高リスク
親知らず(埋伏智歯)抜歯術式
下顎の親知らず(埋伏智歯)の抜歯は、まず親知らずの周囲の歯肉に局所麻酔を行います。次に歯を覆っている歯肉を切開して(図3)、さらに歯のまわりにある歯槽骨を削除する必要があります(図4)。その後、埋伏歯の歯冠の部分と歯根の部分の境目を切削器具で切断し(図5)、歯冠を取り除き、続いて歯根を抜きます。 さらに抜歯後の抜歯窩や周囲組織に存在している不良肉芽組織や歯肉、骨の削除片などを掻爬し、生理食塩水で充分に洗浄します(図6)。最後に切開した部分を縫合し、抜歯手術終了です(図7)。
画像スライド集
※抜歯後は当日から2~3日をピークに患部の痛みと顔の腫れを生じますが、多くは1週間程度で改善します。抜歯後1週間で抜糸します。