口腔粘膜疾患

口腔粘膜上皮あるいは粘膜固有層の病的変化に伴って、口腔粘膜はその色調、その表面の性状が変化し、様々な肉眼所見として観察されます。粘膜の色の変化は様々ではありますが、しばしば認められる色の変化としては「赤」、「白」、「黒」、「黄」、「紫」が挙げられます。
口腔粘膜疾患はこの粘膜に症状を呈する疾患です。病態は多彩で、変化に富み、自覚症状を認めないことも少なくないことから、診断や治療までに時間を要します。また、口腔粘膜にのみ現れる病変と全身疾患の1つの症状として出現するものがあり、このような特殊性から口腔外科のみではなく他科と連携して検査、診断や治療に当たることも多いこと特徴の1つです。

1. 粘膜の色調の変化を主体とする疾患

赤色の病変は粘膜が剥離(はくり)して内部組織がむき出しとなり、痛みを伴うことがあります。口腔扁平苔癬(図)、金属アレルギー(図)、天疱瘡(図)、再発性アフタ性、潰瘍(図)、悪性腫瘍などが代表的疾患です。これらは見た目には判別がつかないことも多いために、一部組織を採取(生検)し、顕微鏡で診断する検査が必要な場合があります。粘膜が白色を呈する疾患の代表として白板症が挙げられます。悪性化するタイプかどうかを生検によって確かめる必要があります。先ほど挙げた口腔扁平苔癬も白色部分の病変を伴うこともあります。白色の病変が拭い取れる場合は、口腔カンジダ症(図)が疑われます。黒色の病変も比較的多いものです。悪性黒色腫、母斑、メラニン色素沈着、外来性の色素沈着(削った歯科金属の削片が粘膜に刺さる)などが多く、時には生検による診断が必要です。

画像スライド集

患部の写真1
口腔扁平苔癬
患部の写真3
口腔カンジダ症
患部の写真4
天疱瘡(右頬)
患部の写真5
天疱瘡(左頬)
患部の写真6
再発性アフタ

2. 血まめや水疱を主体とする疾患

粘膜に血まめができたという症状は、血腫(図)と言われるものです。腔のない組織や臓器内に種々の原因によって出血が生じ、血液が1か所に貯留した結果、腫瘤状となった状態です。口腔内は誤咬や機械的刺激等によって血腫を生じやすく、特に頬粘膜や舌はその好発部位でありますが、保存的治療により予後は比較的良好です。しかし、局所的な原因が明確でなく、異常な血腫形成、すなわち急激な血腫の拡大や頻回の血腫形成を認める場合は、重篤な血液疾患や出血性素因が潜在している可能性があります。
水疱の形成においては、帯状疱疹(図)や天疱瘡があります。帯状疱疹では水痘のヘルペスウイルスが、神経内の付け根に残っていて、体調が悪いとそれが活性化されて発症します。神経の支配する領域に一致して、発疹が多発します。三叉神経領域の顔面皮膚に好発します。広い範囲に帯状に発赤と小水疱がでます。体の右または左側だけブロック状に発生し、強い痛みを伴い、重症化する場合もありますので注意が必要です。

画像スライド集

患部の写真7
血腫
患部の写真8
帯状疱疹

3. 粘膜の色調の変化はないが痛みや異常をみとめる疾患

口腔乾燥症や舌炎などが代表的疾患です。口腔乾燥は抗ヒスタミン薬や制酸薬、降圧薬や向精神薬の服用でも唾液分泌は少なくなります。鼻づまりによる口呼吸は口腔粘膜の乾燥を促し、義歯が唾液の分泌を抑制する場合もあります。また、シェーグレン症候群でも、唾液腺の分泌機能が著しく障害されるために口腔の乾燥がみられます。この病気では、同時に涙の分泌量も減少し、目の乾燥もみられます。眼科や免疫・リウマチ内科などと連携することもあります。
舌炎の中では胃癌切除後や慢性胃炎などに合併することの多いビタミンB12欠乏による悪性貧血、体内の鉄が不足することで赤血球の中に含まれるヘモグロビンが作れなくなることによって生じる鉄欠乏性貧血が口腔粘膜にも症状を呈する場合があります。この2つの貧血に共通して見られる口腔内所見として「赤い平らな舌」と言われる病態があり、ハンター舌炎やプランマービンソン症候群と呼ばれることもあります。
患部の写真9
貧血による舌炎

治療

アフタ性潰瘍、口腔扁平苔癬、水疱が破れた後のびらん・潰瘍などに対しては主に局所の副腎皮質ステロイド剤(軟膏や噴霧剤)を使用します。痛みが強い場合は麻酔薬の入ったうがい薬を併用することもあります。多くの口腔粘膜疾患の場合、2次的な感染などを予防する意味で口の中を清潔に保つ事が重要になります。口腔カンジダ症やヘルペス性口内炎では抗真菌剤や抗ウイルス剤による薬物治療が中心になります。抗真菌剤は内服やうがいなどさまざまな薬の使用方法があり、患者さんの口の中の状況に応じて使い方や量を調節します。口腔カンジダ症では口腔乾燥症が同時に存在する場合が多く、同時に両方の治療を行います。
一方、口腔乾燥症の全般的な治療法としては唾液腺刺激療法、マッサージによる唾液腺の刺激や保湿ジェル、スプレー、人口唾液、保湿装置による粘膜の保湿など症状に対する対症療法(症状を緩和する治療)が中心になります。シュガーレスガム、レモンなど唾液分泌を促進させるものを摂取する、人工唾液で唾液を補充するなどの対症療法が効果的です。また貧血による舌炎が疑われる場合は、血液内科を受診して頂き、鉄剤あるいはビタミンB12などの内服治療を始めることもあります。

口の中で治りにくい口内炎をみつけた際は、当科での診察や検査をお勧めします。