臨床研究・基礎研究

人工内耳

(1) 人工内耳の画像
人工内耳は現在の高野教室のメインテーマのひとつです。数多くの人工内耳植込手術症例の経験を元に、より低侵襲かつ確実な手術を目指し、かつ良好な聴取成績を得られるよう、術後の(リ)ハビリテーションに関する研究も進めています。近年では遺伝子検査も行われるようになり、さらに精度の高い診断や治療に結びついています。札幌医科大学耳鼻咽喉科では、道内外から多数の患者さんの治療を受け入れ、人工内耳手術症例数も国内屈指で、北日本における聴覚医療の拠点のひとつとなっております。附属病院には先端聴覚医療センターが設置され、最先端の聴覚医療を提供すべく、臨床および研究に一層力をいれております。

内耳再生

近年再生医療が注目されていますが、聞こえを司る内耳の再生はまだ道半ばです。われわれは、温度感受性分化誘導内耳細胞を用いて、3細胞間接着分子や線毛などを標的とした新たなアプローチによる内耳細胞保護や再生を目指した研究を行なっています。すでにその一部は海外誌などに発表し評価されています。臨床応用に近づけるよう、現在もプロジェクトが進行中です。

鼻アレルギー

鼻アレルギーの写真
アレルギー動物モデルの開発、鼻アレルギーにおける遅発相反応の存在の証明、ケミカルメディエーターやそのレセプターに関する研究、免疫学的アプローチを中心とするサイトカインや細胞接着分子のアレルギー病態への関与の研究、モノクローナル抗体による実験的鼻アレルギー病態の抑制、アレルギー動物モデルにおけるT細胞のco-stimulatory factorやシグナル伝達に関する研究などが行われてきており、現在では分子生物学的アプローチによるレセプターの研究や新たな免疫細胞をターゲットとした解析が精力的に行われています。

頭頸部腫瘍

頭頸部腫瘍の写真
当講座では、微小血管吻合を必要とする遊離再建材料を用いた頭頚部腫瘍手術を日常的に行なっており、頭頚部腫瘍患者の術後QOL向上に取り組むとともに、各種治療プロトコールによる成績の違いなどを臨床的に検討しています。研究面では、基礎医学講座とも協同で、分子生物学的手法を用いて、上皮細胞間接着分子を標的として研究や癌免疫の研究を行い、臨床応用を目指しています。

睡眠時無呼吸症候群

当初はハードウェアの関係もあり、ポリグラフによる無呼吸の診断とX線検査による顔面形態の計測、咽頭口蓋形成術の効果についての評価が主体でしたが、やがて食道内圧の測定による閉塞部位の推測、睡眠下ファイバースコピーやダイナミックMRIによる、より直接的な閉塞部位の確定、CPAPを導入することでより厳密な咽頭口蓋形成術の適応決定がなされるようになり、多大な効果を上げております。

また、当講座の特徴として、北海道立子ども総合医療・療育センターと共同で、先天障害児等における睡眠時無呼吸の診断や治療にも積極的に取り組んでいます。

扁桃

当講座は伝統的に扁桃の研究に力を入れてまいりました。現在は、フロンティア医学研究所などと連携し、病巣性扁桃炎に関する臨床的検討は勿論、基礎的な面から扁桃リンパ球の生化学的性質、扁桃リンパ球の免疫学的特性、扁桃リンパ球の細菌抗原に対する免疫応答、ヒトにおけるT細胞B細胞相互作用および適応免疫の獲得機序、各疾患におけるリンパ球特性の違いなどを研究しています。
(5) 扁桃の画像

上気道上皮における生体防御機構の研究

鼻腔を始めとする上気道は、ウイルスや細菌を始めとする様々な病原体や、アレルギー反応を引き起こす抗原の侵入部位となります。従って、上気道における上皮バリア機能は、感染やアレルギー疾患に深く関与しています。上皮バリアは細胞間接着装置であるタイト結合分子が担っています。タイト結合は細胞間の最も頂部側に存在して、フェンス機能(細胞膜を区域化し維持する)、バリア機能(細胞間の物質を管理する)、シグナル伝達機能を持っています。凍結割断法で観察すると、タイト結合は膜内粒子の連続した配列からなるストランドとして認められます。フロンティア医学研究所などと共同して、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を導入して延命化した鼻粘膜上皮細胞を確立し、その細胞を使用してタイト結合とアレルギー関連物質、ウイルス感染について研究を進めています。
(6) 鼻粘膜上皮細胞を用いたタイト結合の研究の画像

甲状腺

われわれはフロンティア医学研究所との共同研究で、甲状腺乳頭癌に高い特異性をもって発現している蛋白質を発見しました。甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の約90%を占める悪性腫瘍です。甲状腺乳頭癌の早期発見や発癌・転移の予防などを目的に、この蛋白質の働きを調べています。また当講座は道内屈指の甲状腺手術症例を誇り、予後予測因子などいまだ臨床的に不明な点が多い甲状腺癌の臨床研究も合わせて進めています。
(7) 甲状腺の画像

IgG4関連疾患

(8) IgG4関連疾患の画像
近年、本邦より血清IgG4が高値を示し、病変部の組織中にIgG4陽性細胞浸潤を認める疾患群が次々に提唱されてきています。それぞれの疾患は当初単独で報告されていましたが、相互に関連することが知られるに伴い、共通の病態基盤による全身疾患である可能性が出てきました。

我々の扱う唾液腺疾患では、いわゆるミクリッツ病やキュットナー腫瘍が高IgG4血症を呈し、組織学的にもIgG4陽性細胞浸潤を認めることを当教室からも報告してきました。特に顎下腺の硬い持続性腫脹を示すキュットナー腫瘍は、これまで類似性が度々議論されてきましたが、我々はキュットナー腫瘍とミクリッツ病の相同性について臨床病理学的に報告しています。また、ミクリッツ病に伴う鼻症状、特に嗅覚障害に関する検討も他施設に先駆けて報告しております。

現在は臨床的に重要な診断法の確立を目指した検討と、病態解明に向けた細胞分子レベルでの研究を鋭意進めています。

自主臨床研究