RAはACR/EULARのRA分類基準1)を満たすようになれば、可能な限り早期に治療介入することが重要とされていますが、RAと分類されるためには最低1つの炎症性関節炎が必要であり、その他のリウマチ性疾患との十分な鑑別の上、RAらしい多関節炎(持続期間、炎症反応高値、自己抗体産生など)を認める必要があります。
しかしながら、関節炎が出現してすぐにRA分類基準をみたす症例ばかりではありません。持続期間が短かったり、単関節炎だったり、血液検査異常が明確ではない場合、ひいては関節痛や手のこわばりだけで関節炎を起こさないまましばらく続く症例もあります。
RAの発症には上記のような5段階があるとされており、RAになる前段階をpre-clinical RA(pre-RA)と言います2)。
RAの早期発見が治療のwindow of opptunity3)を逃さない上できわめて重要となりますので、近年はこのpre-RAの段階で症例を抽出するあるいは早期治療介入するという試みがなされています4)。
特に注目されているのが、clinically suspect arthralgia(CSA)と呼ばれる状態です5)。
CSAは理学所見上の関節炎を同定することができず、関節痛の原因を明確にできない症例において、以下の7項目中2項目以上を満たす場合とされており、将来関節リウマチを発症する可能性は50%以上とされ、17%は20週未満で発症するとされています。
問診
▸ 1年以内の関節症状の出現
▸ MCP関節の症状
▸ 60分以上の朝のこわばり
▸ 早朝に一番症状が強い
▸ 一親等以内に関節リウマチの家族歴がある
理学所見
▸ 握りこぶしがつくれない
▸ MCP関節にsqueeze testが陽性
このCSAに例えば、関節エコーやMRI検査での異常が同定されたり、リウマチ因子や抗CCP抗体が陽性であることなどの条件が重複することで、さらに効率的にRAの発症を予見できるのではないかとされています。
このCSAをうまく使えば、一部の患者ではより早期からRAに対して介入できるのではないかということで、精力的に研究がなされています。
現在のRA治療ではまだ治癒が難しいことから、pre-RAの段階から介入することでRAの発症予防が可能にならないかというような検討もなされていますが、残念ながら発症を遅延させるのが精一杯で発症を予防することは難しいのが現状です。さらにはpre-RAだと判断しても全例がRAになるわけではないため、不必要な介入をしてしまっているという懸念もあります。少なくともpre-RAに対して抗リウマチ薬による薬物治療を行うのは現段階では不適切と考えます。
そういうことであれば、pre-RAやCSAは気にせずにいればよいという意見も聞こえてきそうですが、我々はこのpre-RAの段階から患者教育を行うということが重要と考えています。
たとえば、英国の研究では関節痛患者がリウマチ専門医を受診するまでに平均約半年かかるという研究があります6)。この研究の対象のすべてがRAだったわけではありませんが、RA患者も約7割含まれており、これらの症例は発症から半年間
windo w of oppotunityを逃したことになります。
RA治療にはwindow of oppotunityと呼ばれる期間があります3)。window of oppotunityは治療によりRAによる不可逆的な障害を抑制できる期間とされ、おおむね症状の出現から1-2年程度とされています7)。分子標的治療薬をのぞく、多くの抗リウマチ薬治療がその効果に数か月かかることを考慮すると、受診の遅れはこの貴重な治療期を失う大きな要因となってしまっています。
また、昨今話題になっている、difficult-to-treat(D2T)RAというものがあります8)。D2T RAは大雑把にいえば、2種類以上の作用機序の異なる分子標的治療薬(bDMARDsあるいはtsDMARDs)をもちいて治療をしても、低疾患活動性を達成できない治療抵抗性のRA患者を指します。このようなRA患者はリウマチ専門施設で治療されていたとしても5-10%程度いるとされています9-11)。このD2T
RAのリスク因子の一つに治療の遅延があるとされており9, 12)、治療抵抗性のRAとならないためには早期の治療開始が重要とされています。
さらに、drug free remissionすなわち、抗リウマチ薬による治療を離脱しても、関節炎が出現せずRAが寛解を維持している状態の達成にも、早期治療介入が重要な予測因子となっていることもあり13)、さまざまな面からRAと分類できたら早期治療ということがもとめられています。
先に述べたようにpre-RAの段階での抗リウマチ薬による介入は現段階では推奨する根拠はありませんが、治療すべき症例のスクリーニングとしてpre-RA、CSAを利用することは理にかなっていると思われます。pre-RAと思われる症例にはどのような状態になったら直ちに受診するべきであるかなどの教育を行う、あるいはpre-RAからフォローアップを行うことで、window
of oppotunityを有効に使うことができるようになると考えます。
【文献】
1) Aletaha D, et al. Ann Rheum Dis. 69(9): 1580-1588, 2010
2) Gerlag DM, et al. Ann Rheum Dis. 71(5): 638-641, 2012
3) Dawes PT, et al. Baillieres Clin Rheumatol. 6(1): 117-140, 1992
4) Frazzei G, et al. Autoimmun Rev. 22(1): 103217, 2023
5) van Steenbergen HW, et al. Ann Rheum Dis. 76(3): 491-496, 2017
6) Stack RJ, et al. BMJ Open. 9(3): e024361, 2019
7) Burgers LE, et al. RMD Open. 5(1): e000870, 2019
8) Nagy G, et al. Ann Rheum Dis. 80(1): 31-35, 2021
9) Takanashi S, et al. Rheumatology (Oxford). 60(11): 5247-5256, 2021
10) Ochi S, et al. Clin Exp Rheumatol. 40(1): 86-96, 2022
11) Watanabe R, et al. Immunol Med. 45(1): 35-44, 2022
12) Becede M, et al. Semin Arthritis Rheum. 49(2): 211-217, 2019
13) Gul H, et al. Healthcare (Basel). 9(12), 2021