学生・初期研修医の皆さんへ

「学生・初期研修医の皆さんへ」 教授 久原 真

 かつて脳は心臓や消化管など形態や解剖学的構造を観察すれば機能を理解できる臓器とは異なり、外観からだけではその機能がわからない不思議な臓器とされていました。脳がコンピュータと同じデジタルの原理で、ヒトの運動・感覚機能や情動を非常に緻密に制御していることが少しずつわかってきたのは20世紀に入って分子神経生物学、認知・行動神経科学、システム神経科学などが体系的に研究されるようになってからのことです。「21世紀は脳の世紀」と言われて久しいですが、この人体で最も高度な機能を持つ重要な臓器である脳と脳を頂点とするシステム全体、すなわち神経系と骨格筋の疾患を診療するのが脳神経内科です。
 現在、おおよそ6人に一人が何らかの脳神経内科領域の疾患に罹患すると言われています。私たち脳神経内科医は頭痛、物忘れ、しびれ、めまいなどありふれた主訴の患者さんを診察し、疾患も脳血管障害、認知症、脳炎・髄膜炎、てんかん、片頭痛などの一次性頭痛といった患者さんが非常に多い疾患common diseaseを診療する機会が多く、その他に神経変性疾患をはじめとするいわゆる神経難病も扱います。治らない疾患が多いと言われてきましたが、正確な臨床診断と適切な治療の進歩で治療可能な疾患は以前より確実に増えています。それでも依然として神経難病を中心に病態の解明や新たな治療法の開発など課題もあり、私たちは教室の開設当初からこれらに挑み、社会に貢献しようと日々努力しております。
 脳神経内科医の数は十分とは言えず、多岐にわたる疾患の診断から治療を自ら判断して行えるgeneral neurologistともいうべき専門医を私たちは育成しています。疾患の急性期対応から慢性期診療までさまざまな場面で脳神経内科医は関わることが求められます。また、脳神経内科は特に患者さんから学ぶことが多い診療科だと思います。ひとりの患者さんを長く診療することが多いため、疾患を診るのではなく生活環境やご家族も含めた患者さん全体を考えて診療する姿勢が身につくと思います。
 研究ではこれまでもアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの病態解明や再生治療による基礎研究や臨床研究を行っており現在もさらに発展させております。私たちの研究の目標は常に患者さんに還元することを念頭にしています。大学をあげてトランスレーショナル・リサーチを推進しており、基礎研究から創薬やバイオマーカー開発などの臨床応用までシームレスに行える体制で励んでいます。
 私たち神経内科学講座の教室員は自由闊達、開放的で家庭的な温かい雰囲気があります。また、教室員は患者さんに優しく、チームワークも大変良く、患者さん一人ひとりに最も適切な治療と診療支援を出来るように心がけています。人に対する優しさが全ての医療の基盤であると考えていますが、幸いにも教室にはその理念が伝統として受け継がれております。臨床にしても研究にしても皆さんの希望に寄り添ったキャリアプランを提案できると思います。道内出身の人はもちろん、道外出身の人も、北の大地、北海道の中心に位置する札幌医科大学神経内科学講座で一緒に勉強しませんか。脳神経内科の診療、研究を大きく発展させていくことに共感していただける若手医師の参加をお待ちしております。