基礎研究
脊椎・疼痛学研究グループ
 
 私たちは主に電気生理学的手法を用いて、椎間関節や椎間板などの脊椎構成要素、肩関節、足関節などにおける機械的感覚受容器の分布や生理学的特性についての研究を行ってきました。感覚受容器はその生理学的特性により、固有感覚受容器と侵害受容器に分けられます。固有感覚受容器の研究は、脊柱や四肢の関節の運動制御システムの解明、障害の予防やパフォーマンス向上といったスポーツ医学の領域に応用されてきました。一方、侵害受容器の研究では、痛みの受容や伝達機構の一端を明らかにしこれまで報告してきました。
 近年はさらに発展させ、脊椎疾患で多くみられる神経障害性疼痛に関して、その発生・伝達メカニズムを解明するべく、in vivo patch-clamp法を用いて痛みの伝達機構に重要とされる脊髄後角での微小シナプス伝達を解析したり(Terashima Y et al., PAIN 2011, Miyakawa T et al., Mol Pain 2014)、後根神経節細胞での痛みに関わる受容体の発現や電気生理学的特性の解析を行っています。また交感神経が痛みに関与している可能性が示唆されており(Tanimoto K et al.,Clin Orthop Relat Res 2011, Iwase T et al., Bone Joint Res 2012)、治療への応用を検討しています。これらの研究は将来的に難治性とされる慢性疼痛に対する治療に役立つものであると考えています。
 また最新のMRI撮影技術を用いてこれまで困難であった疼痛発生部位の詳細な解析を行ったり、痛みの診断に役立つツールへの応用を目指して研究をすすめています(Takebayashi T et al., Open J Radiology 2012, Takashima H et al., Skeletal Radiol 2012, Spine 2013)。
骨軟部腫瘍グループ
 我々は、本学第一病理学教室と共同で、基礎研究から、主に免疫療法を中心とした臨床応用を目的とした研究を行っています。

①骨軟部肉腫に対するがんワクチン療法
 滑膜肉腫、骨肉腫の特異抗原を同定する基礎研究から、その抗原から設計される抗原ペプチドを用いて、免疫療法として臨床応用を実現させました。

 滑膜肉腫に対しては、滑膜肉腫転座融合遺伝子SYT-SSXのアミノ酸配列からHLA-A24に提示されるペプチドを設計し、第1相臨床試験が2012年に終了しました。安全性と免疫応答が確認され、さらなる抗腫瘍効果につながる第2相臨床試験を現在計画中です。  一方、骨肉腫に対しては、世界で初めて同定した骨肉腫抗原papillomavirus binding factor (PBF)から設計した抗原ペプチドを用いて現在第1相臨床試験を行っています。

②骨軟部肉腫の癌幹細胞抗原の同定と機能解析
 腫瘍に対する考えは、この10年で劇的に変化し、癌幹細胞と呼ばれる一部の腫瘍細胞が再発転移の原因と考えられています。我々は骨軟部肉腫における癌幹細胞の同定と機能解析を行い、骨軟部肉腫に対しても癌幹細胞を標的とした治療法の確立を目指しています。

③記憶T幹細胞の同定
 記憶T細胞において、抗癌剤排出能・自己増殖能・分化能 という幹細胞様性質を有する一部の集団は、記憶T幹細胞と呼ばれています。この記憶T幹細胞は抗腫瘍免疫機構の確立に重要と考えられ、我々はこの集団の同定とその特異抗原の同定を行うことで、新しい免疫療法の開発を目指しています。
下肢・バイオメカニクスグループ
 
 我々は未固定凍結標本を使用して、運動器の機能解剖や動的解析を行っています。磁気による3次元計測機器を用いて精密な骨運動を測定し、足関節の安定に働く脛腓靭帯、腓骨の役割の評価を行っています。

 後脛骨筋腱機能不全による後天性偏平足の治療と予防を目標とし、荷重に伴う足アーチの変位測定や後脛骨筋腱の力学的解析を行っています。


 
 首都大学東京との共同研究によって、ロボットシステムを用いての膝前十字靭帯の詳細な力学的検討を行い、靭帯再建術の改良に役立てています。また、足関節外側靭帯の力学的特性評価にもロボットシステムを応用し、外側靭帯損傷時の足関節、距骨下関節の不安定性を評価しています。さらには、人工膝関節置換術の術式や機種の違いによる膝関節の生体力学的評価もロボットシステムを利用して詳細に検討しています。


 
 大阪大学との共同研究によって、人工膝関節置換術後2D/3D registration techniqueによる動態解析を行っています。階段昇降などの中間屈曲位における不安定性評価を術式の違いによって比較検討しています。
骨代謝グループ
 超高齢社会となったわが国における骨粗鬆症患者は約1300万人と推定される。骨粗鬆症の最も重篤な臨床症状は骨脆弱性骨折である。また、骨折後の日常生活レベル(ADL)や生活の質(QOL)の低下、生存率の低下は大きな問題となっている。骨粗鬆症患者のADLやQOL低下の重要な因子として腰背部痛が上げられる(高田、射場ほか, 整形外科2004)。また、骨粗鬆症に伴う運動器の疼痛発生原因としては骨折や骨折後の骨格変形が考えられるが、最近の研究では骨粗鬆症における骨代謝異常が直接、疼痛の原因となる可能性が指摘されている。我々もこれまでに骨代謝異常を呈する患者が骨性の疼痛を呈すること(Iba et al., J Orthop Sci 2003; Takada, Iba, et al., J Bone Miner Metab 2008; Iba et al., J Orthopaedics, 2009; Iba, et al, J Med Case Repots 2010, 2011)、骨粗鬆症患者の腰背部痛と骨代謝マーカー値が相関することを報告してきた(阿部、射場,整・災外2013)。また興味深い結果として、いずれの研究においても骨吸収抑制剤による骨代謝回転の正常化に伴い疼痛症状が改善した。以上の研究結果より「骨折や変性変化に関係せず、骨粗鬆症における骨吸収亢進状態が疼痛発症の原因の一つとなる」という仮説をたてた。現在、骨粗鬆症の病態に伴う疼痛発症のメカニズムを解析することを目的として研究を行っている。

1.卵巣摘除(OVX)による閉経後骨粗鬆症群では偽手術(Sham)群と比較して有意な疼痛閾値の 低下を認め、骨粗鬆症治療薬であるビスフォスフォネートの投与で疼痛行動は改善する。




2.  免疫組織学的評価では痛み刺激の指標である脊髄後角ニューロンのc-Fos発現がOVXマウスで有意に増強していた。一方、c-Fos発現の増強は、破骨細胞機能を抑制する骨吸収抑制剤のビスフォスフォネートを投与することで有意に改善する。




現在は、骨粗鬆症の病態に伴う疼痛発生と侵害受容体であるTRPV1、ASIC、P2X受容体との関係について研究をすすめている。


II.運動器損傷後の組織変化では血腫形成、炎症、血管新生などの軟部組織形成に続き、間葉系幹細胞の損傷部への移動が起こり、種々の組織再生が開始される。また、早期変化ではいずれの組織においても同様の再生過程を有すると考えられている。これまでに我々はヒト血漿中に存在し、プラスミノーゲン活性化促進作用を有するテトラネクチンと骨代謝の関係について検討を行ってきた。テトラネクチン遺伝子欠損マウス(Iba, et al., Mol Cell Biol, 2001)を用いた検討では骨折治癒過程の早期(Iba, et al., J Bone Miner Metab, 2013)に重要な役割をもつことを明らかにした。また、最近のプロテオミクス解析を用いた研究で骨粗鬆症の病態では血中のテトラネクチンタンパクが有意に上昇することを明らかにした(Sasaki et al, J Orthop Sci, 2014). 現在は遺伝子欠損マウスを用いて、骨代謝異常を含めた間葉系組織の再生とテトラネクチンの関係について検討を行っている。


テトラネクチンは骨折治癒過程に重要な役割を有する



プロテオミクス解析で骨粗鬆症モデルマウスの血中テトラネクチンタンパク
が有意に増加していることを認めた。


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